習志野湾岸9条の会

STOP戦争への道 9条を変えるな

参議院憲法審査会傍聴記(国民投票法)(3)

2014年06月03日 | 憲法審査会
毎回欠かさず傍聴されている方の傍聴記を引き続き転載します

西川重則氏(平和遺族会全国連絡会代表、止めよう戦争への道!百万人署名運動事務局長)傍聴記より


5月28日(水)13時30分から16時50分頃まで、参議院憲法審査会が開かれました。26日(月)の
参考人質疑に続いて今週2回目の開催で、今回は改憲手続法(国民投票法)改定案の発議者
(7会派、8名の衆議院議員)に対する質疑が行われました。
質疑に立ったのは、発言順に熊谷大氏(自民)、小西洋之氏(民主)、佐々木さやか氏(公明)、
東徹氏(維新・結い)、松沢成文氏(みんな)、仁比聡平氏(共産)、福島みずほ氏(社民)、
浜田和幸氏(改革)の8氏で、持ち時間は改定案に反対している仁比氏が45分、福島氏が30分、
他の6名が20分ずつでした。
この日は、ほとんどの時間帯で30~35名の委員が出席していたのに対して(定数は45名)、
発議者は3~8人と出入りが多く、ずっと着席していたのは船田元氏(自民)だけでした。記者は3~5人程度、
傍聴者はいつになく少なくて私たち百万人署名運動の4人だけでした。
同じ時間に衆議院予算委員会が開かれ、安倍首相が出席して集団的自衛権についての集中審議が
行われていたので、いつも憲法審査会を傍聴しているグループがそちらに回っていたのかもしれません。
疑問符の付くNHKの報道ぶり
まず、いつもこのブログで引用させてもらっている『NHK NEWSWEB』の報道を見てみましょう。
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参議院憲法審査会は国民投票法の改正案を巡る質疑が行われ、国会が憲法改正を発議する要件などを定めた
憲法96条について、改正案を提出した政党から、ほかの条文に先行して改正することに積極的な意見が出る一方で、
反対や慎重な意見も出されました。
28日の参議院憲法審査会では、国会が憲法改正を発議するためには、衆参両院それぞれで、すべての議員の
「3分の2以上の賛成」が必要だなどと定めている憲法96条を巡って意見が交わされました。
この中で、改正案を提出した政党のうち、自民党の船田・憲法改正推進本部長は「憲法の何を改正するかを示さずに、
96条を先行して改正することは国民の理解を得られない。ほかの条文の改正とセットにして最初の国民投票で問うか、
2回目以降で問うことを考えたい」と述べました。
民主党の枝野・憲法総合調査会長は「憲法の何をどう変えるかという本質的な議論を飛ばして96条を改正するやり方
は、こそくと言われてもしかたがない。将来にわたって改正しないとは言わないが、先行改正には反対だ」と述べました。
日本維新の会の馬場国会対策副委員長は「憲法は柔軟に改正できるようにすべきで、国会の発議要件を緩和すること
に賛成だ。96条の改正は、おととしの衆議院選挙などの公約にも入れており、先行改正を進めたい」と述べました。
公明党の北側・憲法調査会長は「96条に一切、触ってはいけないとは思っていないが、先行して改正するのはいかが
なものか。まずは、憲法の内容をどう変えるかという議論を踏む方が国民に分かりやすいのではないか」と述べました。
みんなの党の三谷英弘衆議院議員は「憲法改正の議論が進まなかったのは96条の発議要件が障害になっていた。
国民の手に憲法を奪還するという考えの一環として、先行改正を考えるのは重要だ」と述べました。
結いの党と生活の党は憲法96条を巡って答弁する機会がありませんでした。
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上記は、松沢成文氏(みんな)の「現状で皆さんそれぞれの政党は96条第1項の先行改正について是とするか非とするか、
その理由、もし現状で方向が出ていたらお聞かせいただきたい」という質疑に対する各党の発議者の回答を整理したもので、
確かにこういうやりとりはありました。
しかし、国民投票法改定案を主題として行われている憲法審査会の報道として、憲法96条の改定をめぐる質疑だけを
採り上げるというのは、公共放送であるNHKのあり方としていかがなものかと言わざるを得ません。

「しんぶん赤旗」の報道は?
次に、やはりいつものように「しんぶん赤旗」のウェブサイトをチェックすると、下記の記事が見つかりました。

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参院憲法審査会は28日、改憲手続き法改定案の質疑を行いました。日本共産党の仁比聡平議員は、改定案が現行法の
もつ根本的欠陥について調査・検討もしておらず、「できる限り低いハードルで改憲案を押し通そうとしている」
と批判しました。
仁比氏は、改憲手続き法には最低投票率の規定がなく、国民の1割、2割の賛成でも改憲が決定されてしまう根本的
欠陥があると指摘。当時の世論調査で「定めがないのはおかしい」との回答が8割に上り、付帯決議で「検討を加える」
よう求められたのに、「今回の改定案では、なぜ一顧だにされないのか」とただしました。
自民党の船田元議員は「最低投票率についての議論はテーマにならなかった」と認めながら、「最低投票率が設定され
ないことが欠陥だとは思っていない」と答えました。
仁比氏は、憲法改正の決定権は主権者の国民にあり、最低投票率の定めは重要な仕組みであることをあげ、審議では
与党の発議者も「(投票権者の2割の賛成で憲法が変えられるのは)おかしい」(公明党・赤松正雄議員)とのべてい
たことを指摘。「調査も検討もせず、ともかく(改憲手続き法を)動かそうとするなどとんでもない」とのべました。
そのうえで、自由な国民投票運動を行うために、公務員・教員の投票運動に規制をかけるべきではないと主張しました。
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民投票法の制定時には、参議院で18項目の附帯決議が付されました。最低投票率の問題はそのひとつで、「低投票率
により憲法改正の正当性に疑義が生じないよう、憲法審査会において本法施行までに最低投票率制度の意義・
是非について検討を加えること」とされていましたが、今回の改定案では一切触れられていません。
「検討を加え」た結果としてそうなったのならともかく、実際には完全に無視されているわけで、ほかならぬ参議院
の審査会でそのことが議論されないというのは納得できません。仁比氏は「まだまだ議論が必要だと思います」と述べ
て発言を締めくくりましたが、ほんとうにそのとおりだと思います。

福島氏のドッキリ発言
福島みずほ氏(社民)も、国民投票法制定時の3つの宿題及び参議院における18項目の附帯決議についての検討が
ほとんど行われていないこと、項目によってはまったくなされていないことを指摘し、「議論しなければならない
点が多々残っていると思っています」と述べていました。
とくに投票権年齢の問題について、今回の改定案は「結局、国民投票するときに何歳が妥当かということを放棄して、
とにかく国民投票をやるんだということだけが先行していることにはなりませんか。パンツをはかずに外に出るようなもので、
ちゃんとパンツをはいて外に出るべきであって、何か順番が違うと思いますが、いかがですか」と、あまり上品とは言えない
比喩まで持ち出して痛烈な批判を浴びせていました。

「船田3原則」とは?
さて、5月8日に開催された衆議院憲法審査会に参考人として出席されていた南部義典氏(元慶應義塾大学大学院法学研究科講師)
が、21日(水)の参議院憲法審査会での船田元氏(自民)の発言について興味深いことを指摘されていましたので、
それを紹介しておきたいと思います。
以下、南部氏が28日付のウェブマガジン『マガジン9』に発表された「立憲政治の道しるべ」
(http://www.magazine9.jp/article/rikken/12735/)から引用します。
*****
先週21日のことです。国民投票法の一部改正案を審査している参議院憲法審査会で、自民党憲法改正推進本部長の船田元・
衆議院議員が、憲法解釈変更の意義と要件に関わる注目の発言をしました(改正案の提出者として参議院の審査会に出席して
いました)。次のとおりです。
(強い法的安定性)
1. 憲法は国家の基本法であり、他のすべての法令の基本的な土台となるものである。憲法解釈の変更は、国民の生活や他
の法令に大きな影響を及ぼすものであり、特に強い法的安定性が求められる。
(解釈変更の幅の限定)
2. 国家の基本法としての強い法的安定性が求められるが故に、憲法解釈について、文理的には複数の解釈の選択肢が
認められる場合であっても、そのうち一つの解釈が長い期間積み重ねられた場合には、その解釈の余地の選択が狭まる。
(論理的整合性の担保)
3. 国家の基本法としての強い法的安定性の要請は、新しい解釈が文理解釈の枠内にあり、かつ法的安定性を満たす
解釈変更が考えられる場合であっても、従来の解釈との論理的整合性を担保した形でなされなければならない。

*参議院憲法審査会(2014/5/21)における、船田元衆議院議員(法案提出者)の答弁より引用。
*見出し、下線は筆者が付した。

自民党からこんな意見が出てきているのか、と驚かれたかもしれません。船田議員は、憲法解釈変更の留意点として、
「強い法的安定性」「解釈変更の幅の限定」「論理的整合性の担保」の三つを挙げています
(“船田三原則”と勝手に名付ける次第です)。
近時、政府における憲法解釈変更のあり様としては、小松一郎・前内閣法制局長官が「内閣がかわれば解釈を変更
できるのかということでございますけれども、それ自体は、厳しい制約の中でそれはあり得るわけでございます」
と答弁するにとどまり(第186国会衆議院予算委員会第一分科会会議録第1号(平成26年2月26日)62頁)、変更が
できる要件など、詳しい言及はありませんでした。
船田三原則は法制的観点から、より精緻に整理する試みです。従来の政府見解にもみられない、かなり踏み込んだ
発言であり(民主党の見解(2014/3/04)は、これとほぼ一致しています)、政府の動きに対する一定の歯止めとなりえます。
安倍首相には、横槍と映るはずです。
船田三原則が自民党の公式見解になっているかは分かりませんが、自民党憲法改正推進本部長が公式の場で示した見解として、
重く受け止める必要があります。
*****
いかがでしょうか。上記の船田氏の発言は、21日の憲法審査会の冒頭で、藤末健三氏(民主)が「今、国民投票法を整備し、
国民投票の対象をどうするか議論されている状況の中で、従来明確に国民投票を要すると理解されてきた憲法の基本原理に
関わる問題について、国民投票を回避するために憲法解釈で対応しようという企てが政府で行われつつあります。
これは明らかに国民主権の否定、また立憲主義の否定であり、ゆゆしき事態と考えますが、いかがでしょうか」と質した
ことに対する返答として飛び出したものです。

このブログでも、「本心では解釈改憲に反対?船田元氏の発言」という小見出しを付けて、同じ日の福島みずほ氏(社民)
と船田氏のやりとりを紹介し、「今安倍政権が進めようとしている解釈改憲は、改憲問題に精通している船田氏をもってし
てもどうにも取り繕いようのないほどデタラメだということだと思います」と指摘しました
(http://million.at.webry.info/201405/article_10.html)が、今、解釈改憲路線を突っ走っている安倍首相の基盤は、
自民党内においてさえけっして盤石なものではありません。
解釈改憲は阻止できるし、安倍政権は打倒できるという確信を持って、闘っていきましょう。(G)
(以上、引用)