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今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から、昨日の続き。
「藤村は大八車に『破戒』を積んで小売書店の一々を尋ねて置いてもらう。幸い好評ではあったが、労多くして得るところ少い、これでは版元にまかせたほうがいいと知って叢書はこの一冊でやめたが、『破戒』が漱石に明治最初の小説とまで激賞されたのは大きな収穫だった。をテーマにした勇気に漱石は驚いたためで、いくら明治の末だって一人テキサスに去って終っては問題の解決にはならない。
けれども文壇に一石投じることにはなると見込んで書いたのはやはり天成のジャーナリストなのである。私はそれをさきに田山花袋の『蒲団』を例に述べた。藤村は極貧の状態のなかで妻を栄養不良で鳥目にしている。子をひとり死なしている。執念である。その執念は妻子にとっては迷惑である。
〔『諸君!』平成十ニ年十月号〕」
(山本夏彦著「最後の波の音」文春文庫 所収)
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