「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2013・03・08

2013-03-08 08:00:00 | Weblog
今日の「お気に入り」は、ポルトガルの詩人フェルナンド・ペソア(1888-1935)の「テージョ川は」と題した詩一篇。

「テージョ川はわたしの村を流れる川より美しい。
だがテージョ川はわたしの村を流れる川ほど美しくない。
テージョ川はわたしの村を流れる川ではないからだ。

テージョ川は大きな船を浮かべている。
そのうえ テージョ川を走る、
いまテージョ川にないものがすべてのなかに
見える人々には かつての帆船の記憶が。

テージョ川はスペインから流れ来て
テージョ川はポルトガルで海に注ぐ。
これを知らぬ人は誰もいない。
しかしほとんどいない、わたしの村の川のことを
どこへ流れて行くかを
どこから流れて来るかを知る人は。

わたしの村の川のほうが自由で大きいのは まさに
わたしの川を知る人のほうがすくないからだ。

ひとはテージョ川を通って世界へ出てゆく。
テージョ川のむこうにはアメリカがあり
富をみつける人々には富がある。
だが考えた人は誰もいない、わたしの村の
川のむこうにあるもののことを。

わたしの村の川はいかなることも考えさせない。
あの川のほとりにいる人は あの川のほとりにいるだけ。」

(「フェルナンド・ペソア詩選『ポルトガルの海』」池上岑夫編訳 彩流社刊 所収)

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