「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2007・12・06

2007-12-06 08:00:00 | Weblog
今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)の著書「完本 文語文」から。

 「さすがに聖書だけは口語訳と文語訳が共にあった。いまだに文語訳でなければならぬという神父と信者がいるのである。その口語訳を以下に示す。
 空の鳥を見るがよい。まくことも、刈ることもせず、倉に取りいれることもしない。あなたがたは彼らよりも、はるかにすぐれた者ではないか。あなたがたのうち、だれが思いわずらったからとて、自分の寿命をわずかでも延(の)ばすことができようか。(略)野の花がどうして育っているか、考えて見るがよい。働きもせず、紡(つむ)ぎもしない。しかしあなたがたに言うが、栄華をきわめた時のソロモンでさえ、この花の一つほどにも着飾ってはいなかった。
「だからあすのことを思いわずらうな。あすのことは、あす自身が思いわずらうであろう。一日の苦労は、その日一日だけで十分である」。
「さて、昼の十二時から地上の全面が暗くなって、三時に及んだ。そして三時ごろに、イエスは大声で叫んで、『エリ、エリ、レマ、サバクタニ』と言われた。それは『わが神、わが神、どうしてわたしをお見捨てになったのですか』という意味である」。
「あなたがたの中で罪のないものが、まずこの女に石を投げつけるがよい」。「一粒の麦が地に落ちて死ななければ、それはただ一粒のままである。しかしもし死んだなら、豊かに実を結ぶようになる」。
 もういいだろう。なぜ口語訳なんかにしたのだろう。分らない字句があってもリズムさえあればいいのである。暗誦すること百遍、意はおのずから通じるのである。」

   (山本夏彦著「完本 文語文」文藝春秋社刊 所収)
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