「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2014・05・27

2014-05-27 06:50:00 | Weblog



今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から、昨日の続き。

「藤原正彦はケンブリッジに遊んで、周囲の数学の教授たちが皆々シェイクスピアをふまえて洒落も冗談も言いあうのを耳にして、ひそかに恥じたと書いていたが、ナニわが国だって震災までは、歌舞伎をふまえた洒落や冗談を交わしあっていた。河竹黙阿弥は不世出(ふせいしゅつ)の作者だった。それが一朝にして滅びたのは劇場がみな焼けうせたからである。べつに百軒前後あった寄席もなくなった。これらは焼けたあと活動写真館になったと思えば分るだろう。活動は昭和初年から名を映画と改め、昭和三十五年まで全盛を極めたが、テレビがあらわれたらみるみる衰えた。そしてテレビに代るものはない。芝居には十八番があるが、映画やテレビにはない、新作に次ぐに新作をもってするから共通の話題にはならない。
                                     〔『諸君!』平成十ニ年十月号〕」

(山本夏彦著「最後の波の音」文春文庫 所収)

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