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「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2013・11・23

2013-11-23 08:10:00 | Weblog
今日の「お気に入り」。

七平 面白いのは、今でもアメリカ人には、大統領は自分たちが選挙したから絶対だっていう意識があるることです。
 レーガンが暗殺されそうになって逆に人気が出たでしょう。自分たちが選んだ大統領を殺そうなんてもってのほかだ。それはアメリカに対する反逆なんですよね。オレたちが選んだんだからと、これ、ある意味で絶対化されるんです、たとえ四年間でも。
夏彦 なるほど。
七平 ところが日本人ってのは決して絶対化しないんです。あれはみんなバカでいいんです。田中角栄は不徳義漢でしょ。鈴木善幸は何しろ『暗愚の帝王』と言われたんだから無能でバカだということでしょ。
 つまりどんなにバカにしてもいい対象なんですけど、アメリカは大統領をバカにしちゃいけないんです。明治時代ですと功は全部天皇にあるんです。日露戦争に勝ったのも日清戦争に勝ったのもわが国が近代化したのも功は全部天皇に帰したんです。
 そして伊東博文以下は全部欲ばりで、好色で、悪いのはみんなあの連中で、天皇はちっとも悪くない。どんなに内閣を悪く言っても不敬罪なんかにならないんです、内閣批判は。
夏彦 うーん、そうですね。自分が選んだなんて思ってないんですよ。アハハ。
七平 思ってない。思ってない。ところがアメリカ人は、自分たちは大統領批判をしてもいいけど外国人が批判すると途端に態度変わるんです。あれが面白い点ですよね。
夏彦 ああそうですか。
七平 レーガンの悪口なんてアメリカ人はいくらでも言うけど、日本人が言った瞬間ちょっと変わるんです。
 それは日本人が言うべきことじゃない。いかに批判さるべきものであっても、あれはわれわれが選んだ大統領で、お前たちが批判することはアメリカ人に対する侮辱であると、こういう意識が顔に出るんです。
 ところが鈴木内閣を世界中が悪口言おうと日本人は何とも思わないんですよ(笑)。でも天皇だとちょっと違うんじゃないかなあ、今でも。」

(山本夏彦・山本七平著「意地悪は死なず」中公文庫 所収)

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