「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2007・07・10

2007-07-10 13:55:00 | Weblog
今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。

 「人は何より醜聞が好きだということを認めなければならない。むろん私も大好きである。」

 「このごろの醜聞の本家は外務省である。外務官僚某室長はふつう容疑者と書くところをいつまでたっても新聞は室長と書いた。この室長は同じ部署に十年近くいたとある。十年いりゃ腐敗するにきまっている。たいてい二年か三年で異動させられる。税務署は同じ署員に二度と同じバーを調べさせないそうだ。
 この室長は全く無名である。名をあかされても初耳である。それなのに一大スキャンダルの主になったのはひとえに『外務省』が有名だったからである。
 外務省にあるなら汚職は通産省、大蔵省、文部省以下あらゆる省にあるにきまっている。それなのに検察は他をあばかない。一罰百戒のつもりかもしれないが、外務省に手がはいったなら、わが省庁にもとあわてる気配は全くない。
 私は痛烈だの辛口だのと言われるのが嬉しくない。これらの言葉は手垢にまみれている。痛烈というのは自分のことは棚にあげ、他を論難攻撃することである。辻元清美女史は鈴木宗男議員を国会で追いつめて、痛烈だったという。テレビの見物は手をうって喜んだのもつかのま、今度は自分の政策秘書の給金の猫ババが露見して、弁明もできなかったという。痛烈の正体をこれほど短時間に見ながら、なお人は痛烈が大好きなのである。」

 (山本夏彦著阿川佐和子編「『夏彦の写真コラム』傑作選2」新潮文庫所収)
コメント
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