今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)の「無想庵物語」から。
「作者と読者の間には常に一定の距離があるのに、金と女について書くとこの距離がなくなる。自分はこんなに儲けた、またはこんなにもてたと書くと、それまで冷静だった読者がにわかに顔色をかえてその金どうした、今もあるのか、いくらか、またお前がそんな美人に惚れられるはずがない、寝たなんてうそつけ本当なら許せないと我を忘れるのである。
だから小説にするのである。むかし男ありけりと書くと、読者なんて愚かなものでなにがしと名をつければそういう色男がいて、それがもてたのだなと怒るどころか興がって読んでくれるのである。」
(山本夏彦著「無想庵物語」文藝春秋社刊 所収)
「作者と読者の間には常に一定の距離があるのに、金と女について書くとこの距離がなくなる。自分はこんなに儲けた、またはこんなにもてたと書くと、それまで冷静だった読者がにわかに顔色をかえてその金どうした、今もあるのか、いくらか、またお前がそんな美人に惚れられるはずがない、寝たなんてうそつけ本当なら許せないと我を忘れるのである。
だから小説にするのである。むかし男ありけりと書くと、読者なんて愚かなものでなにがしと名をつければそういう色男がいて、それがもてたのだなと怒るどころか興がって読んでくれるのである。」
(山本夏彦著「無想庵物語」文藝春秋社刊 所収)