「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2006・05・22

2006-05-22 07:25:00 | Weblog
 今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。

 「これまでなぜ新聞をとっていたか。ただただ習慣である。家の三千円は誰の金だか分らない。だから読まないのにムダだとも思わない。一人アパートぐらしをしている男女にとっては新聞を見る習慣がすでにない。このとき三千余円も金だと気がつく。
 むかし四ページだった新聞が三十なんページになったのはもっぱら大企業の大広告のためである。新聞は広告が命である。ただし広告が半分以上を占めると、それは広告であって、新聞ではないと見なされる。故に広告収入で半ば以上を経営している新聞は、記事を半分以上にしなければならない。増ページに次ぐ増ページをした。
 本来雑誌にまかせていい記事を載せた。政治経済の記事は分らない。ある日突然新聞は要らないものだと分った。新聞もとってないのは恥ずかしいと思うのは誤りだと分るに至った。あれは隣家がとっているからとっていたのだ、隣家がとらなくなれば皆々とらなくなる。こうして新聞は総くずれになる。キオスクはがらがらになる。
 明治の昔陸羯南(くがかつなん)主宰の『日本』という新聞は、一万部も出なかったから宅配はできなかったが、日本中の読書人は郵送によって読んだ。クオリティペーパーだった。このたぐいが一紙か二紙残ればいい。なければ創刊されるだろう。」

   (山本夏彦著「一寸さきはヤミがいい」新潮社刊 所収)
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