酒を飲む経験をしたことがある人なら、誰しも“二日酔い”を経験したことがあるだろう。この二日酔いとは何が原因で起きているのだろうか。(以下、日経ライフから一部抜粋)
『 飲み会の翌朝…、体は鉛を着けたかのように重たく、喉はカラカラ。水さえ受け付けそうにない胃の不快感に、鈍い頭痛—。これこそ酒を飲み過ぎた翌朝に起こる二日酔いである。その元凶は、体の中でアルコールを代謝する際にできる「アセトアルデヒド」と一般的にはいわれている。
飲み会は楽しい…が、二日酔いは怖い
だが二日酔いになる日もあれば、全くならない日もある。この違いは酒の種類? 飲んだ量?それとも体調? 二日酔いに陥る原因を詳しく探ってみた。
「二日酔いのメカニズムは、実はまだ詳しく解明されていません。アセトアルデヒドだけでなく、様々な原因が複雑に関係していると考えられています」。こう話すのは、アルコールに関連する疾患に詳しい、久里浜医療センター精神科診療部長の木村充先生。 木村先生によると、二日酔いには、(1)アルコールそのものによる影響、(2)アルコールの代謝物、(3)酒の添加物—といった複数の要因が関係しているという。
■アルコールで崩れる体内のバランス
これらの要因が体にどう作用するかを、順番に解説していこう。
まず、アルコールそのものが体に及ぼす影響として、最も自覚しやすいのは「トイレが近くなる」こと。そもそも酒そのものが水分であり、過剰な水分を排出しようとするのは合点がいく。しかし実は「体内の水分調節をする抗利尿ホルモン(バソプレシン)の分泌がアルコールによって抑えられるため、水分が尿として排出されやすい」と木村先生が説明する。「必要以上に尿が排出されることで脱水気味になり、喉が渇いたり、頭痛を引き起こしたりすると考えられています」。
つまりアルコールは水分補給どころか、反対に脱水を誘発しやすいのだ。これまで風呂上がりや、スポーツの後、わざわざ水を飲むのを我慢して冷たいビールで喉を潤すことが日常的になっている人はなおさら注意が必要である。
さらに、「アルコールは、免疫反応や炎症反応、生体防御に深く関わる『サイトカイン』を脳の血管周りで増加させます。これが頭痛を起こしやすくする原因の一つ」と木村先生は続ける。サイトカインとは、体内で起こった炎症などのトラブルを細胞同士で知らせ合う物質(微量生理活性タンパク質)のこと。特に片頭痛持ちの人がお酒を飲むと症状が悪化することもあると木村先生は指摘する。
一方、飲酒によってアルコールが胃粘膜を傷つけることも二日酔いの原因になるという。胃の内部は通常、細菌やウイルスなど外敵の侵入から身を守る胃酸と、胃酸から胃粘膜を守る胃粘液のバランスが保たれている。だが食事を取らず、酒だけを大量に飲み続けたり、ウオツカやウイスキーなど、アルコール濃度の高い酒に胃粘膜がさらされると、胃粘液のバランスが崩れ胃にダメージを与えてしまう。これが二日酔いの胃の不調に関係しているのだ。
■アセトアルデヒドはすぐに分解されてしまう
次に、「アルコールの代謝物」が及ぼす影響について。アルコールすなわちエタノールは、分解されると「アセトアルデヒド」「酢酸」を経て、最終的には水と二酸化炭素になる(図1)。二日酔いや悪酔いの原因とされる「アセトアルデヒド」には毒性があり、血中濃度が高くなるとドキドキしたり(頻脈)、皮膚が赤くなる、吐き気を催すなどの症状が現れる。個人差があるものの、アセトアルデヒドの代謝は早く、翌日にはほとんどが分解されてしまうという。
図1◎ アルコールの代謝経路
アルコールの大半は分解酵素が多く存在する肝臓で分解される。最終的には水と二酸化炭素になる。
では、なぜアセトアルデヒドが二日酔いの原因になるのだろう。
アセトアルデヒドはアルコールの代謝とは別のところで影響を及ぼす。「体内にアルコールが入ると、肝臓は最優先でアルコールやアセトアルデヒドを分解しようとします。これにより、他の栄養素の代謝が遅れてしまうだけでなく、肝臓の糖新生(グリコーゲンという物質から体を動かすエネルギー源であるブドウ糖を合成すること)も抑制されてしまいます」(木村先生)。
血糖値が上がらない状態(アルコール性低血糖)では、体に力が入らず無気力に陥りやすいと言う。飲んでいる最中から感じる方もいるかも知れないが、やたら空腹感をあおられるのもアルコール性低血糖によるもの。散々飲んだ後、シメにラーメンやお茶漬けといった炭水化物(糖質)が恋しくなるのは、体の正直な声だったのだ。
■“酒の風味や個性”が二日酔いを誘引する
最後に、酒の風味や個性を決めるエステルやメタノールといった不純物について触れておこう。なかでも「メタノールは分解に時間がかかるため、体内に長時間とどまり、疲労感やだるさがいつまでも残るのです」(木村先生)。
ちなみに、不純物の含有量の多さは、ブランデー、赤ワイン、ラム、ウイスキー、白ワイン、ジン、ウオツカ、ビールの順(※1)。機会があれば、酒の種類と自分の二日酔いの程度を比べてみるのもいい。自分の体質と酒との相性が分かればしめたものだ。例えば、「赤ワインではひどい二日酔いになるのに、日本酒では翌日に響かない」とか、「ビールならどんなに飲んでも平気なのに、ウイスキーは少量飲んだだけで使い物にならなくなってしまう」など、合う・合わないといった傾向が見えてくるはずだ。
冒頭でも記したよう、二日酔いのメカニズムは、厳密にはいまだ謎。木村先生は「残念ながら、二日酔いの特効薬はありません」と断言する。極論を言えば「飲み過ぎないことが一番」なのだろうが、理性を保ち続けながら飲むのはたやすいことではない。今宵(こよい)もひそかに忍び寄る二日酔い。酒飲み達は一刻も早い二日酔いの原因究明を待ち望んでいるに違いない。 』
『 飲み会の翌朝…、体は鉛を着けたかのように重たく、喉はカラカラ。水さえ受け付けそうにない胃の不快感に、鈍い頭痛—。これこそ酒を飲み過ぎた翌朝に起こる二日酔いである。その元凶は、体の中でアルコールを代謝する際にできる「アセトアルデヒド」と一般的にはいわれている。
飲み会は楽しい…が、二日酔いは怖い
だが二日酔いになる日もあれば、全くならない日もある。この違いは酒の種類? 飲んだ量?それとも体調? 二日酔いに陥る原因を詳しく探ってみた。
「二日酔いのメカニズムは、実はまだ詳しく解明されていません。アセトアルデヒドだけでなく、様々な原因が複雑に関係していると考えられています」。こう話すのは、アルコールに関連する疾患に詳しい、久里浜医療センター精神科診療部長の木村充先生。 木村先生によると、二日酔いには、(1)アルコールそのものによる影響、(2)アルコールの代謝物、(3)酒の添加物—といった複数の要因が関係しているという。
■アルコールで崩れる体内のバランス
これらの要因が体にどう作用するかを、順番に解説していこう。
まず、アルコールそのものが体に及ぼす影響として、最も自覚しやすいのは「トイレが近くなる」こと。そもそも酒そのものが水分であり、過剰な水分を排出しようとするのは合点がいく。しかし実は「体内の水分調節をする抗利尿ホルモン(バソプレシン)の分泌がアルコールによって抑えられるため、水分が尿として排出されやすい」と木村先生が説明する。「必要以上に尿が排出されることで脱水気味になり、喉が渇いたり、頭痛を引き起こしたりすると考えられています」。
つまりアルコールは水分補給どころか、反対に脱水を誘発しやすいのだ。これまで風呂上がりや、スポーツの後、わざわざ水を飲むのを我慢して冷たいビールで喉を潤すことが日常的になっている人はなおさら注意が必要である。
さらに、「アルコールは、免疫反応や炎症反応、生体防御に深く関わる『サイトカイン』を脳の血管周りで増加させます。これが頭痛を起こしやすくする原因の一つ」と木村先生は続ける。サイトカインとは、体内で起こった炎症などのトラブルを細胞同士で知らせ合う物質(微量生理活性タンパク質)のこと。特に片頭痛持ちの人がお酒を飲むと症状が悪化することもあると木村先生は指摘する。
一方、飲酒によってアルコールが胃粘膜を傷つけることも二日酔いの原因になるという。胃の内部は通常、細菌やウイルスなど外敵の侵入から身を守る胃酸と、胃酸から胃粘膜を守る胃粘液のバランスが保たれている。だが食事を取らず、酒だけを大量に飲み続けたり、ウオツカやウイスキーなど、アルコール濃度の高い酒に胃粘膜がさらされると、胃粘液のバランスが崩れ胃にダメージを与えてしまう。これが二日酔いの胃の不調に関係しているのだ。
■アセトアルデヒドはすぐに分解されてしまう
次に、「アルコールの代謝物」が及ぼす影響について。アルコールすなわちエタノールは、分解されると「アセトアルデヒド」「酢酸」を経て、最終的には水と二酸化炭素になる(図1)。二日酔いや悪酔いの原因とされる「アセトアルデヒド」には毒性があり、血中濃度が高くなるとドキドキしたり(頻脈)、皮膚が赤くなる、吐き気を催すなどの症状が現れる。個人差があるものの、アセトアルデヒドの代謝は早く、翌日にはほとんどが分解されてしまうという。
図1◎ アルコールの代謝経路
アルコールの大半は分解酵素が多く存在する肝臓で分解される。最終的には水と二酸化炭素になる。
では、なぜアセトアルデヒドが二日酔いの原因になるのだろう。
アセトアルデヒドはアルコールの代謝とは別のところで影響を及ぼす。「体内にアルコールが入ると、肝臓は最優先でアルコールやアセトアルデヒドを分解しようとします。これにより、他の栄養素の代謝が遅れてしまうだけでなく、肝臓の糖新生(グリコーゲンという物質から体を動かすエネルギー源であるブドウ糖を合成すること)も抑制されてしまいます」(木村先生)。
血糖値が上がらない状態(アルコール性低血糖)では、体に力が入らず無気力に陥りやすいと言う。飲んでいる最中から感じる方もいるかも知れないが、やたら空腹感をあおられるのもアルコール性低血糖によるもの。散々飲んだ後、シメにラーメンやお茶漬けといった炭水化物(糖質)が恋しくなるのは、体の正直な声だったのだ。
■“酒の風味や個性”が二日酔いを誘引する
最後に、酒の風味や個性を決めるエステルやメタノールといった不純物について触れておこう。なかでも「メタノールは分解に時間がかかるため、体内に長時間とどまり、疲労感やだるさがいつまでも残るのです」(木村先生)。
ちなみに、不純物の含有量の多さは、ブランデー、赤ワイン、ラム、ウイスキー、白ワイン、ジン、ウオツカ、ビールの順(※1)。機会があれば、酒の種類と自分の二日酔いの程度を比べてみるのもいい。自分の体質と酒との相性が分かればしめたものだ。例えば、「赤ワインではひどい二日酔いになるのに、日本酒では翌日に響かない」とか、「ビールならどんなに飲んでも平気なのに、ウイスキーは少量飲んだだけで使い物にならなくなってしまう」など、合う・合わないといった傾向が見えてくるはずだ。
冒頭でも記したよう、二日酔いのメカニズムは、厳密にはいまだ謎。木村先生は「残念ながら、二日酔いの特効薬はありません」と断言する。極論を言えば「飲み過ぎないことが一番」なのだろうが、理性を保ち続けながら飲むのはたやすいことではない。今宵(こよい)もひそかに忍び寄る二日酔い。酒飲み達は一刻も早い二日酔いの原因究明を待ち望んでいるに違いない。 』