国道122号沿いの音楽喫茶 『ドルフィン』

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有名曲が僕らに魅せる灰色の夢

2011年12月21日 | マスターの独り言(曲のこと)
あまりにも有名であるとなかなか手を出しにくいアルバムがある。
特にこの1曲目はそうだろう。
「クレオパトラの夢」
きっと曲名は聞いたことがなくともメロディーを聴けば
すぐにラジオやテレビで聞いたことがあることに気が付くだろう。
そう、バド・パウエルの『ザ・シーン・チェンジズ』の1曲目である。

このアルバムはバド・パウエルのブルーノート最後の作品であり、
日本人が最も聴くと思われるパウエルのアルバムである。
だが、どれほどの人がこのアルバムに流れる
パウエルの業を聴き取ることができただろうか。
正直僕にはできていない。

このアルバムは名曲である「クレオパトラズ・ドリーム」が入っているため
その心地よいテーマに耳を眩まされてしまう。
その根底にあるパウエルの凄みを味わうには何度も向かい合う必要がある。

このアルバムを録音した頃のパウエルは最絶頂期を過ぎたと言われており、
この後にフランスへと渡ってしまう。
確かにジャケットに写るパウエルは
「灰色の脳細胞」を十分活用できるというエルキュール・ポアロのような
卵のような丸顔に口髭で、神経過敏なところを感じさせる。

うめきながらピアノを弾く彼は、実は鍵盤の上を動く指が
彼の思考と一致させることができずについついメロディーをうなりながら
弾いてしまうのだと言われている。
確かに最絶頂期を越えたとはいえ、パウエルのピアノは速い。

不思議なことにパウエルの音というのは明るさがない。
ピアノはどれも同じ音がするだろうと思っていてはいけない。
パウエルの弾く音はどれも暗く、マイナー調になってしまうのだ。

「クレオパトラズ・ドリーム」では、
テーマのあとにパウエルの軽やかにメロディーを流す。
だが時折落ちる和音が要石の如く重い。
跳ねるような音ではなく、横に連なるようなメロディーは艶やかで美しい。
しかし明るさはなく、音に濁りがあり、どこか忙しなさを感じさせ、
深くどこまでも落ちていくような陶酔感を与える。
「クレオパトラの夢」と情調的タイトルは付いているが、
それもあくまで雰囲気的なタイトルであり、意味があったわけではない。
それでもその灰色の夢は悲劇的で美顔の女王が見た夢の印象を与えてくる。

最後にひとつこぼれ話。
パウエルから影響を受けた秋吉敏子はずいぶん後になってこの曲を知ったそうだ。
初めて聴いて「なかなか良い曲ね」と感想を言った。
パウエルの曲はこれ一曲では決まらないし、
この曲だけではパウエルの凄みにははまれない。

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