国道122号沿いの音楽喫茶 『ドルフィン』

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2011年05月23日 | マスターの独り言(曲のこと)
もう少しエヴァンスについて話そう。
『ターン・アウト・ザ・スターズ』では、
1980年の6月4日から8日まで(7日は除く)の演奏が収録されている。
収録場所はニューヨークのヴィレッジ・バンガードということで
エヴァンスにとってはホーム・グラウンドとも言える場所だ。
この録音から約3ヶ月後に命を失ってしまったエヴァンスの最後の公式録音でもある。

僕がこのアルバムから「何か」を受け取ったのが、「ナルディス」という曲である。
この曲はいわく付きで、マイルス・デイヴィスの作曲である。
あの『カインド・オブ・ブルー』で、3曲目に「ブルー・イン・グリーン」がある。
実はエヴァンス作曲なのだが、クレジットはマイルスになっている。
マイルスの下ではよくあったようなのだが、まぁ、要するにアレだ。
そのお返しというわけではないが、
「ナルディス」をマイルスがエヴァンスに送ったという。

これがよく耳にする話なのだが、事実は違う。
「ナルディス」は元々同じマイルスバンドに所属していた
キャノンボール・アダレイに送られた曲だった。
キャノンボール・アダレイがリーダーでエヴァンスは3枚ほど共演をしている。
その中で「ナルディス」を聴いたエヴァンスが気に入り、
自分のレパートリーに加えたというのが本当の話だ。

出会ったのが1958年であるから
20年以上もエヴァンスは「ナルディス」を演奏している。
エヴァンスのリーダー作『エクスプロレイションズ』の演奏は有名だが、
それはあくまでジャズの域を超えていない。
晩年になるほど「ナルディス」の演奏は長くなっていく。

最初はエヴァンスのピアノソロから始まる。
出だしでは何の曲をやっているのか分からないが、
このころのエヴァンスは締めの一曲に「ナルディス」を選んでいる。
いつ終わるとも言えない長いソロからは、
エヴァンスがこの曲をひたすらに解体し、再び構成していく様子が分かる。
晩年のエヴァンスの指はドラッグの影響から膨れあがり、
ピアノへのタッチも時折ミスがあったと言われている。
だが、そんな中でもエネルギッシュに、
しかも体調の悪さを全く感じさせない演奏でエヴァンスは突き進んでいく。
やがてテーマが出てくるころには、もう本日の演奏のゴールが見えてくる。
ベースのマーク・ジョンソンが力強く低音を弾き出し、
ドラムのジョー・ラバーベラが控えめ成れどもシンバルレガートでリズムを作り出す。
スピードは『エクスプロレイションズ』のころよりも速くなり、
もうそれは巨大なエネルギーの塊のように迫ってくる。

約15分から17分ぐらいの演奏時間にまで「ナルディス」は伸びている。
この演奏がまるでコルトレーンの「マイ・フェイバリット・シングス」と
重なるように思えてくる。
ただ美しく演奏するだけならば今までの演奏を踏襲すれば良いだけだ。
だが、エヴァンスはことある事に「ナルディス」の違う演奏を繰り返した。
そこにひたすら自分を追い求める姿が見えてくるのだ。

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