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『ポートレイト・イン・ジャズ』について語ろう 6 マイルスの演奏を越えようとした曲

2011年08月27日 | ビル・エヴァンスについて
ミュージシャンは時にそのエピソードを劇的なものにしようと
いろいろと「かます」場合があり、事実なのかどうなのかの判断は難しいことがある。
エヴァンスがマイルスに誘われたときのエピソードも
マイルスの語っているものとエヴァンスの語っている内容は違っている。
「きちんと彼には会ったことがなかったが、ある日電話が鳴り、
 受話器を取って『もしもし』と出ると、
 『やぁ。ビルか? マイルス-マイルス・デイヴィスだ。
  週末フィラデルフィアっていうのはどうだ?』と言うんだ。
  まるで-わかるだろう?-気絶しそうだった。」
とエヴァンスは回想している。
マイルスはブルックリンの「コロニー・クラブ」でエヴァンスを連れてこさせて、
演奏をさせ、それから雇ったと言っているのだが、
とにかくマイルスがエヴァンスに注目していたことが分かる。
そうでなければ“黒人”のマイルスが
“白人”のエヴァンスをバンドに誘うということは無いだろう。
かつ、マイルスは人種に関係なく自分の求めるサウンドを追求していたことも分かる。

エヴァンスがマイルスのバンドに参加をしたのが1958年の4月である。
その1ヶ月前にマイルスと同じバンドにいたキャノンボール・アダレイは
ブルーノートに曲を録音した。
そのアルバムはマイルスの契約上キャノンボール・アダレイがリーダーとなっているが、
プロデューサーのアルフレッド・ライオンでさえも認めてしまうほど
マイルスの作品であった。
そのアルバムの名は『サムシング・エルス』で、1曲目が「枯葉」である。
メンバーはマイルス、キャノンボール以外が、
ハンク・ジョーンズ(ピアノ)、サム・ジョーンズ(ベース)、
アート・ブレイキー(ドラム)とレギュラーバンドではない。
だがリズムセッションは百戦錬磨のハード・バッパー達である。

「枯葉」はハンク・ジョーンズとサム・ジョーンズのゴリゴリッとした音で幕を開ける。
まさに「黒い」といった感じのする音だが、
その後にマイルスがミュートで抑えたテーマを吹く。
その対比がまさにマイルスサウンドの妙技だと思う。
もちろん「リーダー」のキャノンボール・アダレイのソロも「さすが!」である。
だがやはり影に“ボス”の姿が垣間見られるのだ。

さて、エヴァンスである。
『ポートレイト・イン・ジャズ』の7曲目、「枯葉」を録音する。
元リーダーだったマイルスのアルバムをエヴァンスが聴いていないとは思えない。
『サムシング・エルス』の情緒溢れるスローな演奏は、人々の心をとらえて放さない。
ならば、それと拮抗する演奏をするには…
演奏はじめのエヴァンスのピアノを聴けばそれが分かる。
つっかえるように、音節がブツブツと切れるように
それでもスリリングなソロで電光石火の如く切り込む。
方法は単純だ。マイルスがスローであったならば、その逆を行く。
『ポートレイト・イン・ジャズ』の中でアップテンポの演奏だろう。
7曲目にもなり、3人の呼吸もかなり揃っている。
それぞれが楽器で会話をするように、空間を音で埋め重ね、
原曲の魅力を最大限に引き出している。
ラファロとエヴァンスがピアノとベースでやりとりしている間に、
モチアンが邪魔をしないように、それでも的確なリズムを作り出している。
3人は一気呵成に曲を練り上げ、息をつく間も与えずにスリリングに曲を閉じる。

『サムシング』の方では、ジョーンズ兄弟がピアノの音をコロコロッと転がし、
ベースの音でアクセントを付け、最後にマイルスがもう一吹きする。
だが、『ポートレイト』では3者が「ここで終わり!」といったように
カッチリとした閉じ方をしている。

ところが何がどう間違ったのか、ステレオ録音する予定だったのが、
モノラルで録音されてしまった。
そこでプロデューサーのオリン・キープニュースは再度ステレオでの録音をする。
テイク2の演奏ではテイク1よりも若干バンド力が落ちている。
その変わりにエヴァンスの演奏はテイク1よりもノッている。
後テーマで自信ありげに、間をしっかりと取って歌い上げるエヴァンスは、
新しい「枯葉」の演奏を創り上げ、このアルバムの中核を作った。

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