国道122号沿いの音楽喫茶 『ドルフィン』

さぁ、音楽を聴け!
コーヒーは自分で沸かして用意して…
そんな仮想の音楽喫茶

春が来たから

2012年04月01日 | ビル・エヴァンスについて
4月になった。
3月末までの少々不安定な気候から、いよいよ温かな日々が続くようになる。
福音館書店から出ている『魔女の宅急便』(角野栄子著)では、
春を招こうと街に楽団が呼ばれるのだが、
そこで楽器を列車に置き忘れてしまい、それを魔女のキキが取りに行くという話がある。

そう、春の訪れは音楽とともにやってくるというわけだ。
この心が浮き立つような気候にあった曲がある。
ビル・エヴァンスの『ハウ・マイ・ハート・シングス!』から
タイトル曲の「ハウ・マイ・ハート・シングス!」である。
和訳にすれば「どうして私のハートは歌うのだろう!」
(もしくは「なんて私のハートは歌うのだろう!」であろうか?)となる。
その名の通り、心が弾むようなワルツ形式の楽曲である。

作曲者はアール・ジンダースで、彼の婚約者のためにこの曲を作り、
婚約者がタイトルを付けたというエピソードの通り、
明るさと華やかさがある。

このころのエヴァンスはファースト・トリオの崩壊とドラックの影響により、
ほぼまともに演奏ができない状況を脱し、
徐々に復活へ向けての準備をしていた時期でもある。
新ベーシストにチャック・イスラエルを向かえ、
初のレコーディングアルバムがこれと同日の『ムーン・ビームス』である。

しかも「ハウ・マイ・ハート・シングス!」は一番最初に録音されている。
それまでの廃人エピソード溢れるエヴァンスから想像できないほどの
生き生きとした演奏は、冒頭のピアノの音から伝わるだろう。
鍵盤の上を滑り出すエヴァンスの指は慎重さと緊張感をもちながらも
「たたたん」と軽やかに弾み出すメロディーに喜びを感じ取ることができる。

ポール・モチアンの静かで技巧的なシンバルワークとブラシは、
静寂とともに弾みを与え、イスラエルのベースは安定したラインを形成する。

晩年近くまでエヴァンスはこの曲をレパートリーに入れている。
実は最初に録音されたこのアルバムのアレンジが一番ゆったりしていて、
その後少しずつピッチが上がっていくのだが、
それは拍子と間を自在に行き来し、曲を構成させていこうという
エヴァンスの生涯をかけた工夫へとつながっていく。

ここら辺はあまり聴かれていないエヴァンスなのだが、
ぜひ春の訪れのお供に1枚加えては…

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