国道122号沿いの音楽喫茶 『ドルフィン』

さぁ、音楽を聴け!
コーヒーは自分で沸かして用意して…
そんな仮想の音楽喫茶

エリック・ドルフィーが揺さぶるもの

2010年11月05日 | マスターの独り言(アルバムのこと)
「異質」なものというのは、僕らを根本的から揺さぶる。
この揺さぶりは非常に大切なものだ。
「感じ動く」ことを「感動」というのであれば、
渦巻くような異質な音は、人の立ち位置をぐらぐらと揺り動かし、
不安感を与えるとともに、新しい価値に気づかせてくれる。
エリック・ドルフィーという人は、そうした可能性を十分に秘めた人だったと
僕は信じて他ならない。

音楽は美しい旋律にのり、人を癒してくれるものだというのは幻想である。
確かにヒーリングを目的とした音楽もあるだろう。
だが今現在に残っている音楽に無理矢理に癒し効果を求めるのはどうだろうか?
その答えはエリック・ドルフィーが握っている。

ドルフィーの吹き出すサックス、バスクラリネット、フルートは癒しとはほど遠い。
不安を大きく固めたような巨大な音の塊である。
目的も行き先もよく分からないまま、とにかくジェットコースターのように音が踊り、
それがときどきライン川に出てきそうな
セイレーンの歌声のように甘美な響きまで持っているのだから、
ジャズ、いや、エリック・ドルフィーという人の奥深さを感じずにはいられない。

『アウト・トゥ・ランチ』
鬼才ドルフィーとジャズ名門レーベル、ブルーノートとの奇跡に出会い。
ドルフィーがリーダーとしてブルーノートに残したのはこれだけだ。
このアルバムは「難解」の二文字を持って語られることが多いのだが、
それはまだドルフィーという人のイメージに縛られている。
ただドルフィーの出す音と、サイドの音との絶妙かつ奇妙な混じり合いに耳を向けよう。
捻れ曲がった旋律が僕らを不安へと誘いながらも、
その先に音の面白さと奇っ怪な世界があることを教えてくれる。
そこまで来ればエリック・ドルフィーの目指したものが、
いつしか自分の血肉に溶け込んでいることだろう。