清水末子先生(私の声楽の先生)の命日。鎌倉霊園まで。
先生のお誕生日は5月末、命日は8月。
いずれにせよここに来ると、太陽が熱く、私の肌を焼く。
今日も例外なく。空青く、太陽ぎらぎら。風の音。トンビの声。
「先生。しばらくです」
去年、来なかった。何故だろう。来なかった。
「先生、すみません」
いつものように、チーズケーキとレモンティー。
先生の大好物と、ワインの小瓶は自分のため。
「先生、何処までお話ししましたっけ」
ぶつぶつと、ほんの少しのご報告。そして後は、ただ黙って座っていた。
うなじを、肩を、腕を、太陽がじりじりと焦がしてゆく。
私はじいっとしていた。
峠を渡る風の中、しぃんと、しみじみ、先生を感じる。
帰りのバス停。蝉時雨。
カナカナカナカナ・・・ カナカナカナカナ・・・
ヒグラシが、季節の終わりを告げる。
カナカナカナカナ・・・
人間は、私は、昔、蝉だったのかしら。
何故にこんなに、狂おしく鳴くその声を、
他人事とは思えない。懐かしくて愛しくて、体が震える。
カナカナカナカナ・・・
ヒグラシ。その命儚くとも、その声は永遠なり。
先生の命日。そしてハナエさんの誕生日。
大事な大事な、夏の日よ。
短い人生と知っていたなら、私は何を歌うのだろう。
カナカナカナカナ・・・
カナカナカナカナ・・・・・・
私は馬鹿みたいに空を見ていた。
峠を渡る風に、心身を洗う。
先生。また来ます。
ありがとうございました。