特殊清掃「戦う男たち」コメント公開

戦友の意見交換の場として公開しています。

家族(前編)

2007-01-31 13:40:08 | Weblog
特掃の依頼が入った。
亡くなったのは中年女性、独り暮らしだったらしい。
依頼者してきたのは、故人の夫から委託された管理会社。
当の夫は、仕事の都合で遠方に単身赴任。
仕事の都合がなかなかつかず、葬式を済ませるのが精一杯で部屋の片付けまでは手が回らないらしかった。

現場は、閑静な高級住宅街に建つマンション。
現場に着いて驚いた。
「うわぁ~いいマンション!俺には場違いなところだなぁ」
敷地内の駐車場には高級車ばかり、出入りする住人達は上品そう。
勝手な想像ながら、人々は生活に追われているように思えず、みんなが笑顔で暮らしているように見えて羨ましかった。
「一体、何をどうすればこんな暮らしができるんだろう」
私は、諦めの溜め息をついた。



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榴の咲くころ(後編)

2007-01-29 09:28:28 | Weblog
病院から出発する頃、時間は明け方近くになっていた。
それでも、晩冬の夜明けは遅く、まだまだ空は暗い。
澄んだ空に、光る星がきれいに見えていた。

「行き先は、ご自宅じゃないんですか?」
「自宅なのですが、その前に行きたいところがありまして・・・」

料金メーターこそついてないものの、遺体搬送業務の料金体系はタクシーと同様。
走行距離・時間帯・待機時間によって、かかる料金が変わってくる。
私は、時間のことも気になったが、増額されていく料金が気にかかった。
しかし、夫を亡くして消沈している女性に
「料金が上乗せされますが、よろしいですか?」
なんて確認はできなかった。


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榴の咲くころ(前編)

2007-01-27 08:49:09 | Weblog
夜の長い晩冬、今と同じ寒い時季。
そんな夜中に、一本の電話が鳴った。
2:00頃だったから、いわゆる丑三つ時だ。

私にかかってくる夜中の電話は、誰かが死んだ話に決まっている。
仕事と割り切りながらも、とても明るい気分にはならない。

そんな毎日だと、
「どこかの夫婦に赤ん坊が生まれた」
「どこかの男女が結婚する」
なんて、たまにはめでたい知らせが欲しい。
(そんなニュースがどっかにない?)

その電話は、遺体搬送の依頼だった。
私は、寝ボケ口調にならないように気をつけながら、病院名と所在地、氏名と連絡先を素早くメモに落とした。

昼間に比べると夜間の電話本数は少ない。
が、夜中に電話が鳴ることは決して珍しいことではない。
そんな具合だから、私の枕元には携帯電話・電気スタンド・筆記用具を置いておくことが欠かせない。



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血闘

2007-01-25 09:10:38 | Weblog
今回の表題は、「決闘」ではなく「血闘」。
言葉としてはおかしいかもしれないが、特掃の中には「血闘」と言いたくなる現場が多くある。
まさに、人間の血と格闘する現場だ。

そのほとんどは、血管を切ったうえでの自殺。
そんな現場は強烈なインパクトをもって、何かのメッセージを視覚に訴えかけてくる。
ホントは、何のメッセージもないのかもしれないけど、少なくとも、その時私の精神が揺れ動かされることは間違いない。

人の血は、どうして赤いのだろう。
そして、その色にはどんな意味があるのだろうか。
血は、鮮度に応じて赤から黒へと変色していく。
赤い血には生を、黒い血には死を感じる。
赤は命の色、黒は闇の色。



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おでん(後編)

2007-01-23 08:35:20 | Weblog
「殻を剥くのを面倒臭がった!?」
「おでんの玉子に殻?」
私は、思わず手を止めて奥さんの顔を見た。

「おでんの玉子って殻つきだっけ?」
「アレ?そうだっけ?」
私は、自分の常識に自信がなくなってきた。

ことの真相を確かめたかったが、仕事には関係ないことだし、私はそんな質問ができるような立場ではない。
でも、奥さんの発言が気になって仕方がなかった。

すると、私の疑念を察するかのように他の親戚が声をだした。
「玉子の殻を剥くってどういうこと?」(親戚)
「食べる時に殻を外すことだよ」(遺族)
「おでんの玉子って、普通は殻はついてないだろ?」(親戚)
「そう?・・・」(遺族)
「殻つきの玉子なんて変だよ!」(親戚)
「なんで?」(遺族)
「ひょっとして、生玉子をそのままおでん鍋に入れる訳?」(親戚)
「そうだけど・・・」(遺族)
「え゛ーっ!?まさか!」(親戚)
「何かおかしい?」(遺族)
「おかしいに決まってんだろ!」(親戚)



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おでん(前編)

2007-01-21 09:35:23 | Weblog
故人を納めた柩に、生前の愛用品や嗜好品を入れる遺族は多い。
そして、お菓子など、軽い食べ物を入れることも珍しくない。
ただ、食べ物でもやっかいなモノがある。
水分を多く含んだものだ。
水分が多いものは中途半端に燃え残るだけでなく、火葬炉の燃焼効率を落としてしまうらしい。
場合によっては、遺骨を汚してしまうことも。

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最期の日

2007-01-19 08:47:59 | Weblog
ある女性が亡くなった。
死因は乳癌、30台半ばの死だった。

その一年半前、女性とその夫は二人の間に子供ができたことを喜んでいた。
お腹の中で胎児がスクスクと育っていることを実感し、幸せな日々を送っていたことだろう。

そんなある日、女性は胸の異変に気づいた。
念のために病院で検査。
そこでの診断は乳癌。
しかも、かなりの悪性。
軽率な表現になるが、まさに「天国から地獄」と言ったものだっただろう。




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再会(後編)

2007-01-17 07:49:08 | Weblog
玄関ドアを開けた私は、女性を後ろに置いて一人で部屋に入っていった。
中に充満していた腐乱臭は相変わらずの濃さで、精神的にもかなりの苦痛だった。
臭いの種類には慣れても、悪臭そのものに対する免疫はなかなかできないものだ。

玄関ドアの開閉は、ほんの2~3秒の間のことだったが、その腐乱臭は後ろにいた女性にも届いたはずだった。
「どう感じただろうか」と思いながら、私は中に進んだ。

腐乱臭というヤツは、驚くほど瞬時に身体(服)に付着する。
濃い腐乱臭の場合はアッと言う間である。
その中に、ほんの数十秒もいれば、すぐに「生きた腐乱死体(ウ○コ男)」になれる(なりたくないだろうけど)。




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再会(中編)

2007-01-15 15:58:37 | Weblog
私は、住民達の立場を考えてみた。
その苦境は容易に想像できた。

地域に葬式場が建設されるだけでも、近隣住民が反対運動を起こすような世の中。
死や死体は、それだけの嫌われ者なのである。
しかし、このマンションにとってはそんなの可愛いもの。
何てったって、腐乱死体現場が放置されたままになっているのだから。

想像してみてほしい。
自宅の隣家が腐乱死体現場で、更に腐乱臭まで漂ってくる状態での生活を。
ツラいに決まっている。
この私ですら、そんな暮らしはまっぴら御免!無理だ。
賃貸マンションなら住み替えも考えられるけど、ここは分譲マンション。
逃げたくても、そう簡単には逃げられない。




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再会(前編)

2007-01-13 12:09:15 | Weblog
独り暮しの中年男性が死んだ。
現場は、大規模な分譲マンション。
中の状況をほとんど知らされないまま、私は現場に出向いた。
私が到着すると、管理組合の人達(近隣住民)が何人も集まってきた。

見積を依頼してきたのは、マンションの管理人。
管理会社も管理組合(住民)も、その部屋をどうすればよいのか、ホトホト困り果てているようだった。
そのまま放置しておく訳にもいかず、かと言って何をどうすればいいのか見当もつかない。
そんなところで探し当てたのが「特殊清掃戦う男たち」、とりあえず私の出番となった訳だった。




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