特殊清掃「戦う男たち」コメント公開

戦友の意見交換の場として公開しています。

女もつらいよ(公開コメント版)

2015-11-30 08:51:04 | 特殊清掃
「ウァッ!!!!!!!」
衝撃的な光景に思わず悲鳴を上げた私。
その背中には悪寒が走り、同時に、その身体には裸のまま寒風に吹かれたかのような鳥肌が立った。

私の目に飛び込んできたのは猫の腹部。
しかも、フツーの状態ではなく、薄い腹の皮と内臓はとっくにウジが喰い尽くし、そこに無数のウジがひしめき合っている状態のもの。
その気持ち悪さといったら言葉にならないくらい。
あえて言うと、「イカ飯状態」というか、「いなり寿司風」というか・・・・肋骨の丼に大盛のウジライスが盛られたような感じ。
それは、実際に音は発していなかったもののグツグツといったような異音が聞えているような錯覚を覚えるくらい迫力のある光景。
これには、さすがの特掃隊長も仰天!し、彼らが飛び掛ってくるわけでもないのに、思わず後ずさり。
ただ、私が驚いたのと同じように、ウジ達も突然の環境変異に仰天したのだろう、身体を寄せ合って球状に固まっていたところから蜘蛛の子を散らすように(蜘蛛よりはるかにノロマだが)一匹一匹が離脱。
「捕まってたまるか!」と思ったがどうか知る由もないが、何千匹?何万匹?すべてのウジが一斉に逃走をはじめた。

私に驚いているヒマはなかった。
目の前のウジは次々と逃亡を図っている。
もう「触りたくない」「気持ち悪い」などと甘えたことを言ってられる状況ではない。
一刻も早く対処しないと、多くのウジを逃してしまう。
それがわかっていても、あまりのグロテスクさに、頭は混乱し、なかなかすべきことが決断できず。
私は、肝心なことが何もできず、右往左往するばかりだった。

いくら相手がノロマでも、時間を与えれば逃げきってしまう。
しかも、地面は砂利と雑草。
彼らが隠れる場所はいくらでもあった。
更に、私一人に対してウジは無数。
追いかけるにも限界があり、この勝負、どこからどうみても私の分の方が悪かった。

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男はつらいよ(公開コメント版)

2015-11-24 09:07:41 | 動物死骸撤去 特殊清掃
「勤務先の店舗の脇に動物死骸らしきものがある」
「店の正面にまで異臭が漂っていて営業にも支障がではじめている」
「何とかできないか?」
ある日、会社にそんな電話が入った。

一口に「動物死骸」と言っても、その種類はまちまち。
犬もいれば、猫もいる。
ネズミであることもあり、珍しいところではハクビシンなんてこともある。
ただ、多いのは猫・・・圧倒的に猫が多い。

幸は不幸か、動物死骸の処理は、年に何回かは(何度も?)遭遇する。
だから、私にとって珍しい仕事ではない。
しかし、何度やっても慣れない。
身体は慣れても気持ちが慣れない。
腐乱死体現場の特掃等とは違い、死体そのものがあるわけで、それを始末する作業は、死痕の処理とは違った独特の重さがあるのだ。

生き物はいつか死ぬものだし、その肉体が腐っていくことも自然なこと。
誰もその摂理に逆らうことはできないわけで、それに従って受け入れるしかない。
しかし、すんなり受け入れられないこともある。


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二人三脚(公開コメント版)

2015-11-05 09:13:24 | 遺品整理
遺品処理の問い合わせが入った。
電話の向こうの声は初老の女性。
上品な言葉遣いと穏やかな語り口。
日常において、私みたいな下世話な人間と関わることはなさそうな雰囲気の人だった。

そんな女性の用件はこう・・・
しばらく前に母親が死去。
それにともなって、遺品が大量に発生。
友人や知人の手を借りながら、かなりの物は処分。
ただ、家具等の大型重量物が手に負えない。
そこで、その処分をお願いしたい。
・・・というものだった。

問題の大型重量物は、たったの数点。
手間はかかるが、費用は行政の粗大ゴミ処分を利用したほうが安く済む。
その他の遺品は自分の手で処理したわけだから、粗大ゴミだってできないわけはないはず。
したがって、女性の用件は、仕事になる可能性が低いうえ、仮に仕事なったとしても少額の売上にしかならないことが容易に想像され、私は、いまいちやる気が起きなかった。

私は、遺品の内容を確認し、概算の費用を伝えた。
そして、「行政の粗大ゴミ処分を利用されたほうが費用も安く済むと思いますけど・・・」と、アドバイスして、この話を締めかけた。
しかし、女性は、私が提示した金額を「高い」とも「安い」とも言わず。
どうも予算が決まっていないみたいで、「とにかく、一度、見に来て欲しい」と言う。
私の頭は、金にならなそうな依頼に難色を示したが、「これも何かの縁」と考えをあらため、スケジュールは私の都合を優先させてもらうことを条件に、現地調査に出向くことを約束した。

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ワンワン ワンワン(公開コメント版)

2015-11-05 09:13:24 | 遺品整理
11月11日、胸のすくような快晴。
一並びの今日はチビ犬の命日。
一年・・・はやいような、遅いような、とにかく一年が経ち、また、寒い季節がやってきた。
ついこの前までは半袖でいられたはずなのに、もう重ね着しないと寒さを防げない。
しかも、この寒さは、これからもっと厳しくなるわけで、考えただけで憂鬱になる。

悲しみに暮れたアノ日・・・
はじめから、この悲しみは時が解決してくれることがわかっていた。
そして、代わり映えしない毎日ながらも、一年は確実に過ぎた。
少しずつだけど、その分、悲しみも寂しさも癒えてきている。
そうは言っても、チビ犬のことを忘れる日はほとんどなく、毎日のように思い出していた。
無意識のうちに・・・この現実世界にチビ犬がいた痕は少なくなってきているのに、思い出さなかった日は数えられる程度しかないと思う。

アノ時は、ホントに悲しかった!
いい歳のオッサンが子供のように泣く姿を思い出すと気恥ずかしい部分もあるけど、ま、それも私という人間。
そう・・・死んだ日とその後の三日間は涙の材料に事欠くことはなかった。
どこに行っても何を見ても涙が溢れる状態だったが、とりわけ、ヤバかったのは食器に残された食べかけの竹輪。
「ちょっと前まで喜んでかじってたのに・・・」
「全部食べないまま逝っちゃったんだ・・・」
その姿を脳裏に甦らせると、もう・・・悲しくて!切なくて!胸が痛くなった。
そして、ワンワンと号泣した(そのことを思い出すと、今でも目が潤んでくる)。

使い手のいなくなったペットフードや消耗品類は、早々にボランティア団体(動物愛護団体)に寄贈した。
ただ、その他のモノはなかなか始末できず。
いなくなって数ヶ月の間、トイレや食器等のチビ犬用品はそのままの状態で部屋に置いていた。
そして、時間を置きながら少しずつ片付けていった(しまっただけで捨ててはいない)。
今は、部屋の隅にハウスだけが残っている。
これもいつかしまわなければならないのだけど、なかなか気持ちが決まらない。
邪魔になっているわけでもないし、誰かに迷惑をかけているわけでもないし・・・
結局、もうしばらく、そのまま置いておくことになるのだろうと思っている。


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マ田力気 ~後編~(公開コメント版)

2015-11-05 09:13:24 | ゴミ屋敷 ゴミ部屋
私には、忘れたい過去でありながらも、忘れてはいけない過去がある・・・
その一つが、引きこもりの経験。
これまで何度か書いてきた通り、この仕事に就く直前、私は、実家に引きこもっていた。
それは、大学卒業後、23歳のとき。
衣食住、家事雑用から生活経費まで、すべて両親が負担。
生産性のあることは何もせず、人目を気にして外出もせず、実家の一室にいるだけ。
ただ飯を食べ、用を足し、寝るだけの毎日を過ごしていた。

PCや携帯はもちろん、自室にはTVもなかった。
(ちなみに、PCや携帯電話が一般に普及したのは、この数年後。)
読書は嫌いだった(今も嫌いだけど)から、本を読むこともなく。
部屋に閉じこもって一日をどう過ごしていたのか・・・細かくは思い出せない。
ただ、当り前の話だが、実家といえども居心地が悪かったことは憶えている。

もちろん、楽しいことなんて何もない。
夢も希望も何もない。
頭に浮かんでくるのはネガティブなことばかり。
危機感、絶望感、劣等感、敗北感、罪悪感、虚無感・・・
自意識過剰、履き違えた自尊心、精神不安定、そして極度の欝状態・・・
上向きなことを考えようとしても気力がともなわず、すぐに萎えてしまっていた。

悩みながら生きることの意味、苦しみながらも生きなければならない理由・・・
そんなことばかりが頭を過ぎる毎日。
そして、そういう状況では、当然、悲観的・否定的な考えばかりが頭に浮かんでくる。
「無理して生きる必要なんかない!」
「誰か俺のこと殺してくれ!」
そんな思いに苛まれて、心を掻きむしっていた。

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マ田力気 ~前編~(公開コメント版)

2015-11-03 09:52:09 | ゴミ屋敷 ゴミ部屋
ある日の午後、私は、街中に建つマンションに呼ばれた。
その上階にある一室で、住人が腐乱死体となって発見されたのだ。
依頼者は、マンションの管理会社で、私はそこの担当者と待ち合わせ。
私より少し遅れて現れた担当者はハイテンション。
近隣から苦情がでているわけではなかったが、苦手な何かにプレッシャーをかけられているようにピリピリしていた。

このエリアは一等地。
間取りは1Rや1LDKばかりで、独身者用の造り。
高級マンションではなかったが、築年数は浅く家賃は高め。
経済的に余裕のある学生や独身のビジネスマン等が多く居住。
部屋ごとにオーナーがおり、それぞれが賃貸で運用するタイプ・・・いわゆる投資型マンション。
そして、問題の部屋のオーナーは故人の父親だった。

1Fエントランスで担当者から鍵を預かった私は、専用マスクを脇に隠すように持ち、エレベーターで上階へ。
現場の部屋の玄関前に立ち、とりあえず深呼吸。
そして、周囲に人影がないのを確認して開錠。
マスクもつけないままドアを開け、素早く身体を室内に滑り込ませた。

ドアの奥には薄暗い部屋が。
それも、どこかに何が隠れていてもおかしくないようなゴミ部屋。
そんな光景に、慣れた私でも少なからずの不気味さを覚えた。

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