特殊清掃「戦う男たち」コメント公開

戦友の意見交換の場として公開しています。

兄妹(公開コメント版)

2013-11-27 08:43:27 | 特殊清掃
故人は70代の男性。
地方の小さな街の出身。
若い頃は“いい人”がいたこともあったのだろうが結婚歴はなく、子供もおらず。
都会の小さなアパートでながく一人暮らしを続けていた。

家族は、両親と年の離れた妹が一人。
ただ、母とは血がつながっておらず。
実母は故人が幼少の頃に他界。
母は、父の再婚相手だった。
そして妹とも“腹違い”の兄妹だった。

両親は、小さな妹を可愛がった。
故人も、年の離れた妹を可愛がった。
特に、母は妹を溺愛。
そのせいもあってか、故人は母とはなじめずにいた。
自分と義母の間に立つ父の心労や、腹を痛めた我が子を持つ義母に対して遠慮する気持ちがあったのか・・・
父がすすめる高校進学も断り、故人は、中学をでると田舎を離れて上京。
家に自分の居場所がなかったというだけではなく、裕福ではない家庭に負担をかけたくないという理由もあったようだった。

故人は、上京して後、何度かは盆暮れに帰省していたが、次第にそれも少なくなってきた。
特に父親の死後は、田舎に帰ってくることもなくなった。
結果、母妹と顔を合わせることもなくなり、電話で話すこともなくなった。
それでも、故人のもとには、毎年、妹から年賀状が届いた。
ただ、故人が、返礼の賀状を送ることはなかった。

そうして年月が経ち・・・
年を重ねた故人は、寄る年波には勝てず。
身体に不調を抱えていたのか、ひっそりと自宅で死去。
そして、しばらく誰にも気づかれず、その身体を朽ちさせていったのだった。

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裏切者(公開コメント版)

2013-11-21 08:49:28 | 特殊清掃
「掃除をお願いしたい」
そんな依頼が入った。
依頼者は、ハウスクリーニングの個人事業者(男性)。
おおきく括れば同業者である人からの依頼で、例によっての事情があることは、話を聞く前から察しがついた。

男性は、取引先からマンションのルームクリーニングを請け負った。
そこは孤独死の現場。浴室腐乱。
そこで人が亡くなっていたこと、かなりの時間がたって遺体は腐敗していたことは知らされたものの、遺体が腐るとどうなるか、その現場がどんな風に汚れるのかは全く想像できず。
男性は、漠然と“なんとかなる”“なんとかするしかない”と考え、その仕事を引き受けてしまった・・・というか立場的に断ることができなかった。
そして、とりあえず、実際に現場に行ってみた。
すると、目の前に現れたのは、想定外の事象。
それまでに嗅いだことがないニオイと見たことがない汚れ・・・
“とても自分の手には負えない”と即座に白旗をあげ、当方に電話してきたのだった。

話を聞いた私は、その心情と事情が痛いほどわかった。
なんてったって、この私だって最初から特掃隊長だったわけじゃなく、腐乱死体現場にビビりまくってオエオエやっていた初心者の頃があったわけだから(今思えば懐かしいかぎり)。
また、元請業者の命令にそむけないのが下請業者の悲しい宿命。
元請業者に喰わせてもらっている立場では、どんなに酷い現場でも引き受けざるを得ない。
したがって、男性には“断る”という選択肢はなかったものと思われた。

「こりゃ、フツーの人じゃ無理だわ」
現地の汚腐呂をみた私は、フツーにそう思った。
しかも、電気が壊れているうえ、その浴室には窓もなし。
扉を開けていても懐中電灯が必要なくらい暗く、すごく不気味だった。

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短気は損気(公開コメント版)

2013-11-18 08:49:33 | ゴミ屋敷 ゴミ部屋
「引越しをするのでゴミを片付けてほしい」
そんな依頼が入った。
「うちに頼んでくるわけだから、何か事情があるんだろうな・・・」
私はそう思いながら現地調査の日時を設定した。

訪問した現場は小さな一戸建。
家屋の周囲にはゴミやガラクタが散乱しており、家の中が“案の定”であることをうかがわせた。
私は、家の前の路上に車とめ、約束の時間がくるまで待機。
自分でいうのもおかしいが、変なところで几帳面な私は、約束の時刻ピッタリになったところで車を降り、玄関のチャイムを押した。

家の中からは、恥ずかしそうな物腰と気マズそうな表情をもって依頼者がでてきた。
そして、
「驚かないでくださいね」
「靴のままでかまいませんから」
と、外からの視線を避けるようにそそくさと私を家の中へと促した。

室内は、玄関土間からゴミ、ゴミ、そしてまたゴミ・・・
依頼者は、長年にわたって生活ゴミを蓄積。
本当の床なんてどこにも見えておらず、ゴミで埋め尽くされていた。
依頼者は、近々、引っ越す予定。
そのため、“このゴミを片付けたい”とのこと。
ただ、依頼者は“特殊清掃でなんとなる”と考えている様子。
私は、実現不可能な期待を持たせてはいけないので、ゴミの撤去と清掃だけでは原状回復はできないことを伝えた。
それを聞いた依頼者は動揺。
顔をこわばらせたまま黙り込んでしまった。
そうは言っても、このゴミを片付けないと何も始まらない。
私は、作業の内容とかかる費用を説明し、当方に作業を依頼するかどうか充分に検討するよう伝えた。

調査を終え外に出ると、私の車の脇に初老の女性が一人立っていた。
そして、私を見つけると恐い顔で睨みつけ、
「オタクが片付けんの!?」

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悲愛(公開コメント版)

2013-11-12 08:06:28 | 特殊清掃
ある日の夕刻、特掃の依頼が入った。
「住人が亡くなって時間が経ってしまった」
「作業を依頼するかどうかわからないけど、とりあえずみてほしい」
とのこと。
現場を見ないと何も始まらないので、事務所にいた私は、デスクワークを中断してデスワークに向かった。

訪問したのは、商業地に建つマンション。
依頼者の男性とは、入口エントランスで待ち合わせた。
男性は、仕事の帰りか、スーツ姿。
片手にはビジネスバッグ、もう片方の手には大きな紙袋を下げていた。

通常なら、依頼者のほうから故人との間柄を教えてくれることが多い。
例えば、「父が亡くなりまして・・・」とか「弟が孤独死しまして・・・」とかいうふうに。
また、それがない場合は、私の方から「お身内の方ですか?」と訊ねる。
そうすると、「息子です」とか「亡くなった者の兄です」等といった返事が返ってくる。
しかし、この男性は、「お身内ですか?」と訊ねても「いえ・・・昔の知り合いで・・・」としか応えず、故人との間柄を具体的に話さなかった。
その様子から、男性は、故人と自分との関係を話したくない・知られたくないのだと察した私は、それ以上余計なことを訊くのをやめた。

玄関ドアの前は、既に異臭がプンプン。
室内が相当のことになっていることは、容易に想像できた。
また、近隣から苦情がくるのは時間の問題と思われた。
管理会社もそれを心配し、一刻も早くなんとかするよう男性にプレッシャーをかけていた。
私は、ポケットに入れていたグローブと脇に挟んでいた愛用のマスクを装着。
ドアを開け、素早く中に入った。
そして、へヴィー級の惨状を前に、特掃魂の階級を上げた。

男性は、片手に下げた紙袋に、レインコート・ゴム手袋・マスク・市販の消臭剤等を用意。
どうも、自分でなんとかしてみようと考えてきたよう。
しかし、故人が倒れていたベッドマットは、腐敗体液をタップリ吸い込んだ状態。
周辺の床にも腐敗体液は滴り、その辺にあるものをかまわず汚染。
男性がそんなものを処理する術を持っているはずはなく、また、そんなところの掃除ができるわけがない。
ライト級の現場ならいざ知らず、へヴィー級の現場は素人の男性の手に負えるはずはなく、私は、
「お金のかかることなんで押し売りするつもりはありませんけど、ご自分でやるのは無理だと思いますよ」
と、正直な考えを伝えた。
と同時に、“俺ならやれる!”と、作業に備えて特掃魂に火をつけた。

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紅(公開コメント版)

2013-11-07 07:59:20 | 特殊清掃
秋も深まり、もう紅の季節。
私は、秋が好きである。
過酷な夏が過ぎ、一息つける季節だから。
ホント、身体に優しい季節だから。

また、ネクラな性格を反映してか、一日のうちでは夕方が好きである。
紅の夕陽をみると、ホッとするものがある。
だから、秋の夕暮れは格別の趣を感じる。
春夏秋冬、自分の死季も秋がいいと思っている。
秋涼の夕刻にでも、色んな思い出に微笑みながら、穏やかな気分で眠って逝きたいと思っている。

ただ、難点がひとつ。
毎年のことで、もう何度も書いていることだが、冬に向かって気分はどんどん欝っぽくなっているのだ。
一日のうちでは、朝が一番ヒドい。
寒い朝でも脂汗がでるような始末で、時には、軽い“ひきつけ”っぽいものを症してパニックに陥ることもある。
性格の問題か、脳の問題か、はたまた心の問題か、まったく厄介なものを抱えてしまっている私の気分は、サンライズに落ち込み、サンセットに落ち着くのだ。



「血の海になってまして・・・」
そこは自殺現場となったアパート。
玄関前に来て依頼者の男性は、嫌悪感を露にそう言った。

「とりあえず見てきますね」


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奇なり(公開コメント版)

2013-11-01 08:35:19 | 特殊清掃
今日から11月。
秋涼というより秋寒の季節。
台風の連打に国土は疲れ気味。
忘れられつつある大地震だって、いつまた起こるかわからない。
奇妙な自然現象は、人間の無力さを露にする。

世の中に奇なることが起こるのは常。
珍事や奇跡めいた出来事は、いつの世にも絶えない。
奇なる仕事をしている私の目の前は、奇なることばかり。
一般の目には、衝撃的なものだろう。

「大変な仕事ですね」
と、他人によく言われる。
「どんなに金をもらっても、それだけは絶対にできない!」
と、友人に言われたこともある。
それでも、私としては、
「いい仕事ですね」
と言われるよりはマシかも。
何をもって“いい仕事”と言えるのか・・・・・
お金をもらって誰かの役に立つことをしたり、誰かを助けたり、誰かに喜びや満足感を与えたりするのなんて当り前のこと。
仕事とは、本来そういうもの。そんな仕事、他にもたくさんある。
私がやっていることは、ボランティアでやるにはいいかもしれないけど、仕事としてやるには決して“いいもの”ではない。
事実、私自身も、“いい仕事”だなんて全然思っていない。
“特別視≒特蔑視”と思ってしまうことがあり、ヘソ曲がりな私は「いい仕事」と言われると、バカにされているような気がしてしまうのだ。

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