特殊清掃「戦う男たち」コメント公開

戦友の意見交換の場として公開しています。

可哀相な男

2007-04-29 11:14:37 | Weblog
とある公営の集合住宅で、腐乱死体が発見された。
故人は年配の男性で、世間から見ると可哀相な死に方だった。

現場となった部屋は、エレベーターのない上階。
こんな建物では、上にあがるにも下に降りるにも、狭い階段を歩かなければならない。
身体能力が衰えてきた私には、階段の上り下りだけでも充分な労働に値する。

いつもの通り、私が出向いたときには、遺体は警察の手で撤去されていた。
後に残るは、腐乱痕。
それだけでも充分に凄惨なのに、ベドベドに溶けた遺体を回収して署まで運ぶ警察の作業は、私でさえも想像を絶する。
毎度のことながら、警察官の仕事には脱帽だ。



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顔色

2007-04-27 22:52:19 | Weblog
仕事のせいかもともとの性分か、私は人の顔色を見ることが多い。
いい言い方をすると、
「人に気配りができる」
悪い言い方をすると、
「人の考えを気にし過ぎる」
ということか。

人付き合いが苦手な私は、生きた人の顔色を見ることより死んだ人の顔色を見ることの方が多いかもしれない。

〝死人の顔色〟というと顔面蒼白をイメージする人が多そうだね。
ひと昔前のTVドラマや映画の死人メイクが現実離れしていたせいだろう。
蒼白く塗られた死人メイクは、わざとらしいかぎり。



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時は金なり

2007-04-25 08:25:23 | Weblog
今となっては言わずと知れたこと?
私は、お金が大好き。
〝欲しいもの〟と言ったらまず「お金!」
人様に自慢できることはほとんどない私だけど、旺盛な金銭欲だけは、
「そんじょそこらの人には負けない!」
と自慢できる。
でも、本当に欲しいものは目に見えないものだったりもする。
健康・時間・愛etc

目に見えるものばかり追い求め、そのためだけに精神と時間を浪費する。
金を使うことと金に使われることの区別ができない暮らしに埋没する。
そんな自分を否定したり肯定したり。
考えれば考えるほど、今の自分に真に必要なものを見失っていく。

金を持つことは悪いことではない。
また、一生懸命に働いて稼ぐことは大切。
ただ、その金をどう使うかが問題。
たくさんの金があっても使う時間がなくては意味がない。
また、時間があっても使う金がなければつまらない。
金は時間の対価か、時間は金の対価か、難しいところだ。
なにはともあれ、金と時間には、適度なバランスが必要だと思う。


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復活(後編)

2007-04-23 08:36:30 | Weblog
人間が腐ると液状になることは承知の通り。
そして、残念なことに、この現場ではそれが布団を通り抜けて畳に到達。
布団の下の畳は茶黒く汚染され、わずかに凹みができていた。

故人の体格や腐敗環境にもよるけど、液体人間が布団やベッドマットを通り抜けて畳や床に到達しているケースは珍しいことではない。
更には、畳を通り抜けて床板にまで浸透していることもある。

私は、その他の汚染物を梱包しながら、畳の汚染面積を確認した。
布団回りの生活用品にも腐敗液・腐敗脂・腐敗粘土が付着してベトベト。
その中にウジもウヨウヨ。
そんなモノを一つ一つ手に取りながら、汚物袋に梱包していく作業は冷静にはやれるものではない。
私の場合、無意識に、言葉にならない濁点のついた声が口を突いて出る。



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復活(前編)

2007-04-21 08:58:26 | Weblog
桜の季節も終わり、暖かい季節がやってきた。
幸か不幸か、これからは特掃にとっても熱い季節。
その影響があるのかどうか、私の精神状態も復活してきた。

とにかく、これからの季節は驚くほど腐るのが早い!そして酷い!
「ついこの間まで元気にしてたのに」
というような人が、わずかの時間で悪臭をともなう変わり果てた姿になって発見される。

また、これからの季節は、ウジが復活してくる。
本blogにもなかなか登場しなかったように、寒い冬はウジ・ハエの発生は穏やか。
と言うか、「夏だったら大発生!」というような現場でも全く姿を見かけないこともある。
私にとっては、作業の手間が省けて大助かり。
しかし、こうして暖かい季節がやってくると、ウジは〝招かざる客〟としてやってくる。
もっとも、ウジにとっては私の方が〝招かざる客〟なんだろうけど。

お互い、何かの因縁で憎しみ合っているわけではない。
私とウジは、ただ生きるために戦わざるを得ない関係なのだ。



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タバコの煙

2007-04-19 07:28:40 | Weblog
嗜好品の代表格と言えば、酒・タバコだろう。
「百薬の長」
と言われる酒に対して
「百害あって一利なし」
と言われる?タバコ。
そんなタバコは、最近では肩身が狭くなってきているのではないだろうか。

禁煙スペースの増加・喫煙スペースの制限・社会の分煙化は、私にとっては歓迎できる傾向。
私は、タバコは吸わないので。
禁煙した訳ではなく、元から吸わないのだ。
それでも、喫煙者が身近にいる以上は、副流煙による間接喫煙を強いられる。
まったく、いい迷惑。
最低のマナーとして、携帯灰皿くらいは使ってもらいたいものだ。

喫煙率は、男性は10人中4人くらいで、女性は10人中1人くらいらしい。
身の回りを見渡すと、喫煙者はもっと多い気がするけど、数字にしてみると意外と少ない。
また、肺癌を患う確率も、喫煙者は非喫煙者の3倍らしい。
「たった3倍?少ないんじゃないの?」
と思ってしまう。



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朝靄

2007-04-17 07:59:33 | Weblog
不眠症の私は、目覚時計がなくても寝坊することはない。
時計を見なくてもだいたいの時刻が身体で分かり、どんなにゆっくり寝ていたくても、毎朝、決められた時間を前に目が覚めてしまう。
特に、デカい現場・困難な現場を抱えている時や夜中の電話が鳴るときは、熟睡なんてしていられない。
重い緊張感とプレッシャーが、一晩中、私の神経にチョッカイをだし続けるのだ。

胸騒ぎの夜も平安な夜も、時は冷たく過ぎるのみ。
そのうちに明るくなってくる窓のカーテンが、重圧になってのしかかってくる。
疲れている時などは特に、カーテンが明るくなるのが辛い。
「このまま夜が明けなければいいのに・・・」
なんて、靄がかかる気分を晴らせないままガックリ。

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ゴホン!ゴホン!(後編)

2007-04-15 08:40:03 | Weblog
「ゴホン!ゴホン!」
玄関ドアを開けた依頼者は、肺がエンストしたような咳を吹き出した。
と同時に、言葉にならない驚嘆の声を上げた。
依頼者は、部屋の中から噴出してきた濃い!腐乱臭パンチを見舞われたのだった。

ドアの前に立ってもかなりの臭いがしたので、
「こりゃ、中はかなりイッてるな・・・素人だったらKOもあり得るかも」
と思っていたら、まさにその通りだった。
ただ、私は、でしゃばったマネはよくないと思って少し離れたところに控えていたので、そのパンチを避けることができた。
まぁどちらにしろ、私は、この後でイヤ!と言うほどの悪臭ストレートパンチを浴びることになるのだが・・・しかも、レフリーもセコンドもいない状態で。

「後でトラブルになると困るので、貴重品や必要なものは先に出しておいて下さい」
私の要請に依頼者は
「え゛!?この部屋に入れって言うんですか!?」
との文字を顔に書いて、驚きと恐怖の表情を浮かべた。
怯えるように硬直した依頼者を見ていると、段々と気の毒に思えてきて、
「私が代わりに行ってきましょうか?」
と言わざるを得なくなった。



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ゴホン!ゴホン!(前編)

2007-04-13 08:07:23 | Weblog
「ゴホン!ゴホン!」
今から十何年も前、死体業を始めて一年を迎えようとしていたある日の夜、私はヒドイ咳に襲われた。
何の前兆もない、いきなりのことだった。

しばらくすると咳は落ち着いてきたが、今度はその代わりに呼吸が苦しくなってきた。
気管が細くなったような感じで、空気の通りを圧迫。
肺に力を入れて空気を吸ったり吐いたりしないと酸素が得られないくらいの状態に陥ったのだ。

そうして、自分でも何が起こっているのか分からないまま、眠れない夜を過ごした。

当初、その呼吸困難の発作は決まって夜に襲ってきた。
始めの頃は、何日か毎に起こっていたのだが、次第にその間隔は狭まってきた。
そして、咳がでなくても急に気管が詰まるようになってきた。
満足に呼吸ができない苦しさは、私を泣かせた。



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夜の出来事(後編)

2007-04-11 08:14:00 | Weblog
「なるほどぉ・・・お゛!?」
辺りを探すまでもなく、私の目には、黒い不気味な物体が飛び込んできた。

床板を上げた場所は、まさにドンピシャ!
〝ホールインワン〟は大袈裟にしても〝ニアピン〟には違いなかった。
「さすがぁ」
誰も褒めてくれる人いないんで、私は自分で自分を褒めた。
そして、次の策を練った。

悪臭の根源はやはり動物の死骸、それも依頼者の女性が強く嫌悪するネコだった。
腐乱したせいで原形をとどめていなかったけど、ネコであることはすぐに分かった。
しかし、ネコはネコでもその体勢が確認できず、やや大きくも見える。
「何だか様子がおかしいなぁ」
私は、警戒感が増してきた。

私は、懐中電灯と自分の目を汚物に近づけて凝視。
そして、すぐさま身を硬直させた。
「ひょっとして・・・二匹?」
なかなか見分けにくかったけど、そこには、間違いなく二匹の死骸があった。
二匹は、重なるように腐乱していたのだった。
「夫婦?兄弟?親子?友達?」
どちらにしろ、二匹が同時に死んでいる姿は妙にモノ悲しい光景だった。

私は、予想もしていなかった状態に戸惑いを覚えながらも、女性に何と報告しようか考えた。
「動物じゃなかったことにしようかなぁ・・・でもこの臭いは明らかに動物だしな・・・」
「ネコじゃなかったことにしようかなぁ・・・でも、女性は事実を知りたいだろうし・・・」
床下でネコが腐乱していたことを知ったら、女性は腰を抜かすかもしれない。
しかし、この家に暮らす女性にウソをついていいものかどうか迷った。



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