tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

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観光地奈良の勝ち残り戦略(36)第四銀行の観光支援事業

2010年06月05日 | 観光地奈良の勝ち残り戦略
金融専門誌「週刊 金融財政事情」(2010年5月3-10日号)の「地域振興に銀行が果たす役割」特集で、新潟県の第四銀行(金融サービス部地域振興室)の活動が紹介されていた。タイトルは「第四銀行が取り組む観光支援事業 観光客アンケートの分析から始まる地元と一体のプロモーション」だ。語り手は同室の真藤高明氏である。

きっかけは、中越地震(04.10.23)だった。新潟県北部(下越)や南部(上越)に特段地震の影響はなかったにもかかわらず《「地震で大変なときに遊びにいったら迷惑ではないか」という気遣いや、「新潟県は地震でメチャクチャになっている」という風評被害が広がったことから、その後も新潟県全域で観光客が激減した。そこで04年12月、地域とともに生きる地方銀行として観光地の復興や活性化に地元の人たちと一緒になって取り組みたいとの思いから、当行の金融サービス部内に地域振興室を設立》した。同行関連のシンクタンクである新潟経済社会リサーチセンターも、この事業に協力する。



※これら3枚の写真は、松之山温泉「ひなの宿 千歳」のサイトより拝借
http://web.travel.rakuten.co.jp/portal/my/jyouhou_page.main?f_no=14679&f_teikei=kt105

この銀行の活動は、早くから金融専門紙で報じられていた。ニッキン(04.12.10付)によると《第四銀行は12月1日、県内経済の活性化および災害復興支援などで調査・提言などを通じて地域貢献活動を強化するため「地域振興室」を設置した。同室は金融サービス部の部内室で専担者は2人。活動内容は、新潟県を代表する農業、観光業、旅館業など地場産業支援策の企画立案と推進をする。商店街の活性化や町づくりなども積極的に支援する》。

《また、支援の一環として日本政策投資銀行など政府系金融機関や地公体との連携で、各種講演会なども開催。さらに、新潟県経済社会リサーチセンターと共同で各種調査をし、経済活性化や地域振興策を推進していく。「これまでも黒子として地域支援に取り組んできた。今後は主導的な立場で県内経済の活性化を長期的展望に立って進めていきたい」(小島国人頭取)としている》。

観光支援事業の流れは、以下のステップを踏む。
1.支援地域の決定
2.支援事業の概要説明(第1回懇談会)
3.観光客(1000人程度)・旅館・旅行エージェント・行政へのヒアリング、専門家(東京から招いた観光コンサルタント)の意見聴取
4.専門家による報告と議論(第2回懇談会)
5.アンケート調査結果の公表(第3回懇談会)
6.新たな取り組みに向けた議論、活動のスタート



ヒアリングで、問題点が浮かび上がってきた。「週刊 金融財政事情」によると《観光客から聞こえてくる多くは、「もてなしが悪かった」というような不満ではなく、「チェックアウト後にどこにいったらいいのかわからない」「観光地の情報がほしい」「観光地ならではの情報がほしい」という要望の声。確かに、観光客の行程のうち、旅館はチェックインからチェックアウトまで、土産物店は来店している時間しか対応してくれない。その観光地において、観光の行程をサポートするプランナーのような人が不在なため、多くの観光客が観光情報の入手や観光スポットへのアクセスを手助けするプランニング的なサービスを求めている》。

そこで松之山温泉の場合は《自分たちでツアーを催行できる旅行会社を立ち上げることになり、地元の旅館や商店、タクシー会社、建設会社などの方々に出資を仰ぎ、松之山温泉合同会社「まんま」を立ち上げた》。この会社に出資している8軒の旅館の板長を集め、東京の著名シェフの指導で、地元食材を使った郷土料理を開発した。阿賀町でも「考える会」を立ち上げ、温泉巡りを楽しみながら願掛けができる「幸せ絵馬」、湯巡りが厳しい冬場用の入浴剤「八湯巡り」などを開発するとともに、地場食材を使った料理も準備中である。

《観光支援事業はたんに観光客がたくさんくればいいというものではなく、地域が一つになっていくことも大きな目的である》《ツアーをつくり、食の開発に取り組んだところで、“売り方”が下手だとその効果は十分に発揮されない。そこで観光支援事業では、情報発信や販売促進などについてのセミナーもあわせて開催している》。しかも《こうした一連の観光支援事業はすべて無償で行い、東京から招く観光コンサルタントや料理長の交通費・日当のほか、会場費などはすべて当行が負担している》というからすごい。商売ではなく社会貢献活動と位置づけているのだ。

これまで支援を行った地域は、湯沢町、村上市、松之山温泉、岩室温泉、阿賀町の5地域だという。対象域には約1年かけて、徹底的に取り組むという。「観光は最大の地場産業である」といわれるが、観光業が活性化すれば地域が潤い、それは銀行の本業にもハネ返る。同行地域振興室の活動は、「日経ベンチャー」(08.6.1号)でも紹介された。



※写真は阿賀町・阿賀野川(新潟地域振興局のサイトより拝借)
http://www.pref.niigata.lg.jp/niigata_kikaku/1203008438576.html

《地方銀行の挑戦-7-農業・観光・産学連携で地場産業を包括的に支援-第四銀行》《同行が地元経済復興を目的に「地域振興室」を設置したのは04年12月。その柱は「農業支援」「観光支援」「大学など外部との連携支援」の3点だ》《農業支援では05年12月から、農家、食品加工業者、県内外の仕入れ業者にビジネスマッチングの場を提供する「だいし食の交流会」を県内各地と東京で開催している。交流会での商談成約数は、08年3月末時点で約300件に達した》。

《観光関連では04年以降、観光客誘致イベントを東京など各地で定期的に開催。越後湯沢温泉、村上市・瀬波温泉、岩室温泉・松之山温泉など県内の観光地関係者と議論の場も立ち上げ、活性化に向けた具体策についても提言している。さらに05年3月には、新潟大学と包括的連携協定を締結した。これは新潟大学の知的財産と、第四銀行のネットワークを融合して、産学の連携効果を高めることを狙ったものだ》。

《第四銀行の取引先企業の技術上の問題を、新潟大学の教員に取り次ぐ「だいし技術相談サポートサービス」では、08年3月末までに約50件の課題を解決した。また、長岡地区では、長岡技術科学大学などが参画する長岡産業活性化協議会に参加。上越地区でも信州大学と連携を強めるなど、各地で産学の橋渡しに積極的だ。06年11月からは、新潟大学との共同研究、受託研究を実施する企業を対象とした「だいし産学連携ローン」も開始した。「米菓や日本酒などで培った技術が、バイオやITと融合すれば、新産業の創出につながる可能性は高い」(小原頭取)》。

地方銀行には、地域のいろんな情報が集まるし、各方面に人脈がある。いわばヒト・モノ・カネの集合体なのだ。これらをうまく活用して地域を活性化させている第四銀行地域振興室の活動は、素晴らしいお手本である。

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3 コメント

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Unknown (yugi)
2010-06-05 12:52:09
このような成功例は話題が明るくなりますね。成功例によって成功を間接的に体験できるような感じです。心まで明るくなります。

>>地域とともに生きる地方銀行として観光地の復興や活性化に地元の人
>>たちと一緒になって取り組みたい
>>観光支援事業はたんに観光客がたくさんくればいいというものではなく、
>>地域が一つになっていくことも大きな目的
>>阿賀町でも「考える会」
>>県内の観光地関係者と議論の場
>>「だいし食の交流会」
新潟県民は新潟を愛し、新潟復興についての交流の場を作っています。他府県民から見ると、奈良県民が奈良を愛しているようにはとても思えないです。奈良県民が好きになるような奈良の魅力をもっと作りたいです。

>>新潟県経済社会リサーチセンターと共同で各種調査
>>県内経済の活性化を長期的展望に立って進めていきたい
>>情報発信や販売促進などについてのセミナーもあわせて開催
>>観光支援事業はすべて無償
各種調査、長期戦略、セミナー、それらを無償の社会貢献活動として行う事ができるのは新潟を愛しているからでしょうね。好きな新潟に社会貢献する事は楽しいと思います。奈良の魅力をもっと作りたいです。
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銀行の役割 (あをによし南都)
2010-06-05 19:06:00
各地域における地元銀行の役割は本当に大きいですよね。
東京に本社があるような銀行では対応しきれない観点でどんどん差別化が可能かと。
B2Bの観点では地元にユニークな企業へのコンサル機能役割大きいですし、B2Cでは地域住民への金融を含む様々な地元に密着した情報発信ができますし。
南都銀さんの場合はさらに地域・環境にマッチしたいかにも奈良らしい外観の支店建物意匠にも注力されていて素晴らしいと思います。
さらに預金だけでなく南都銀さんの株主層としても地元個人投資家が増加し、お互いに地元を応援していく立場で支え合っていければもっと素晴らしいと思います。
そういう意味ではCSR、ESG、IRなど奈良ならではのお取組みが今後も楽しみです。
地元密着ならではの凄みがあるという意味でスーパーリージョナル銀という時代の到来になって欲しいと願っています。
返信する
地銀の役割 (tetsuda)
2010-06-07 04:33:38
yugiさん、あをによし南都さん、コメント有り難うございました。

> このような成功例は話題が明るくなりますね。成功例によって
> 成功を間接的に体験できるような感じです。心まで明るくなります。

素晴らしい実例です。これらをやり遂げるには、相当の意志・覚悟があったのだろうと、敬服しています。

> 地元密着ならではの凄みがあるという意味でスーパーリージョ
> ナル銀という時代の到来になって欲しいと願っています。

メガバンクと違って、地銀は地域特性を活かした戦略を出せますので、本業においてもCSRにおいても、特色のある活動を行うべきです。第四銀行の成功例は、良い刺激になります。
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