闇に響くノクターン

いっしょにノクターンを聴いてみませんか。どこまで続くかわからない暗闇のなかで…。

形見分け

2010-05-24 00:16:29 | わが酒と薔薇の日々
今日は、3月に亡くなったMくんのパートナーKさんから連絡があり、二人で住んでいたマンションからの転出が正式に決まり、今部屋を整理しているが、よければ、Mくんの遺書に私あてにと記してあったPCをとりに来ないかというお誘いをうけた。私の方も、今日は特に急ぎの用事があるわけではなし、Mくんのにおいのする部屋もこれが見納めと、小さなブーケをもって、さっそくKさん宅を訪問した。
3月にMくんの死の連絡を受け以来Kさんに会うのはこれが三回目だが、これまではいつも第三者が一緒で、二人だけで会うのははじめてだったので、今日は、Mくんのことをいろいろ語り合った。はじめ連絡を受けたときはあまり時間がないということだったが、結局二時間弱、Kさん宅で過ごした。
最後は、約束どおりPC(レッツノートのコンパクトタイプ)を受け取ったが、そのまま辞去しようとすると、Mくんはたくさん本をもっていたが、新しい住まいに運びきれないので、興味ある本があったら思い出になるように引き取って欲しいという。勧められるままMくんの私室に案内してもらい、本棚から気になる本をあれやこれやと抜き出した。
その後、実は衣類や食器も、なにか形見に差し上げたいという申し出があり、ネクタイを数本とコーヒー・カップを頂いた。クローゼットや食器棚のなかには、よくみると私がMくんにプレゼントした衣類や食器も大事そうにしまってあり、見ていると、どうしても複雑な気持ちになってくる。
遺品を頂いての帰り道、私鉄の駅に向かう途中、今自分のカバンのなかにはいっているのはMくんの形見なのだと考えたら、さすがに重い気持ちだった。

さて寓居に戻って、今度は頂いてきたPCを接続。さっそくなかを開こうとすると、パスワード設定がしてある。パスワードのことはなにもきいていなかったので、Kさんに電話を入れて教えてもらおうかともおもったが、あまり手をわずらわせるのもいかがなものかと思い直し、Mくんが残したヒントにしたがって、思いつく言葉を数語いれてみる。さすがに一度でどんぴしゃりとはいかないが、三番目におもいついた言葉がまさにそのパスワードで、それを入力すると画面がさっと開いた。
実は、私あてにPCが残してあるときいたときから、PCのなかになにかメッセージがはいっているのではないかとずっと気になっていたのだが、ドキュメントを開くと、パートナーのKさん、お母さん、私にあてたファイルが見つかった。ただしそれらの中身はすべてすでに移動されて空ファイルになっており、それ以外の文書等をこのPCで作成した形跡はまったくない。また、ファイルを移動させた時間から、Mくんの死亡時刻もおおよそ推定できた。
そこであらためてそのことを報告しようとKさんに電話したところ、PCの中身のことはKさんもずっと気になっており、なにか残っているのではないかと、私にわたす前にPCを開こうとしたのだが、パスワードがどうしてもわからず、開くことができずにいたのだという。Kさんからは、そのパスワードがすぐにわかったというのは、やはり、Mくんは私だけにこのPCを使わせたかったのであり、だからパスワードのメモも残さなかったけれど、私ならすぐにそれがあけられるだろうとわかっていたのだろうと、あらためていきさつをきいた。
また、MくんがこのPCを購入したのは、実は死の旅行に出かける直前で(Kさんには、新しい仕事が見つかりそうなので、その仕事用に新しいPCを買ったのだと説明していたらしい)、自分が使いこんだPCを遺品として私に託したのではなく、あらかじめ死を決意したうえで、私に使ってもらおうとわざわざ新しいモバイルPCを購入し、ウィンドウズ7等をセットアップしてすぐに使えるよう準備し、このPCでは、3通の遺書をつくっただけだということもわかってきた。
そこまでしてなぜと考えたら、目頭があつくなってきた。
そう、Mくん、なぜ…。
今日までは、Mくんの死の連絡をうけても、葬儀に参列しても、どこかよそで起こっている他人事のようで、なにか実感がわかなかったが、こうして目の前で動かぬ証拠を次々とつきつけられているうちに、Mくんの死という事実が、厳然たるものとして急に胸に迫ってきた。