闇に響くノクターン

いっしょにノクターンを聴いてみませんか。どこまで続くかわからない暗闇のなかで…。

ショパンを聴きながら『葬送』を読む。

2012-10-25 22:33:45 | 楽興の時
ワイダの『菖蒲』を観に行く道すがら、ショパンを主人公とする平野啓一郎の小説『葬送』を読み始めた。『菖蒲』と『葬送』は、「ポーランド」と「死」という2つのキーワードで繋がっている。
『葬送』を読み始めたので、今日は仕事帰りにタワーレコードに立ち寄り、ショパンのアルバムを購入した。
購入したのは、ラフマニノフ、アラウ、ギレリスのアルバム。なかでもアラウのアルバムはCD7枚組で2,590円ととても安かった。
ということで、今はアラウの演奏するショパンのノクターンを聴いている。

静かな深みをたたえたワイダの『菖蒲』

2012-10-23 23:32:49 | 映画
このところ、ブログに何も記事が書けなくてもうしわけない。

     *     *     *

さて本日は、岩波ホールに行き、ポーランドの監督アンジェイ・ワイダの新作映画『菖蒲』(2009年作品)を観た。

作品は、ポーランドの小説家ヤロスワフ・イヴァンシュキェヴィチの同名小説を映画化したもの。舞台は1950年代末のポーランドの地方都市。死を予期した中年婦人マルタが街で見かけた若者ボグシに惹かれていくプロセスが、物語の骨子になっている。
しかし、ワイダがマルタ役を依頼した女優クリスティナ・ヤンダは、映画撮影開始の直前にワイダと親しかった撮影監督の夫エドヴァルド・クウォシンスキを亡くしており(作品は彼に捧げられている)、夫の死を看取ったことをどう受け容れるかが、彼女の演技や撮影プロセスに影響を及ぼしてしまう。
そこでワイダは、これを通常の文芸映画にしてしまうのではなく、女優ヤンダの苦悩と癒しを同時に写しとって再構成するという手法を採用した。作品全体は、ホテルの部屋でのヤンダの独白、『菖蒲』の撮影シーン(ワイダ自身も出演)、物語『菖蒲』の三重構造をとる。その構造が作品に深みをあたえ、ある女優の癒しのドキュメントとして、ずしりと重みがあった。また、ドキュメントといえば、映画の背景となっていつも流れている河(ヴィスワ川?)の静かな存在感がいい。

ヤンダ以外の出演者では、物語『菖蒲』のなかの若者ボグシ役のパヴェウ・シャイダがセクシーですばらしい。実は、彼はポーランド系のアメリカ人で、生粋のポーランド人では役のイメージに合わないという理由で抜擢されたという。プログラムの解説によれば、原作者のイヴァンシュキェヴィチには同性愛の傾向があり、このボグシにはモデルがいたとのことだが、シャイダの存在が、虚構のドラマにリアリティを付与している。死期の近いマルタが、生命力そのものの化身のようなボグシに惹かれていくプロセスの描写は、ヤンダのまなざしによる演技が中心で、ヴィスコンティの『ヴェニスに死す』を思い出した。そして、50歳を超えてからセクシーな若者に惹かれるという話に、おもわず自分自身を投影してしまった。

     *     *     *

『菖蒲』を見終わって、心地よい気持ちで、小雨の街に出る。そのまま新宿の○井に立ち寄り、細身のジーンズを購入した。このジーンズは、裾をブーツの中に入れて履くつもり。年齢不相応の若者ファッションだが、まあいいか。映画を観たあとの気持ちをもう少し整理したかったので、同じく○井のブルックリンパーラーに入り、ゆっくりビールを飲んでから帰宅した。

【映画『菖蒲』の公式サイト】
http://shoubu-movie.com/