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映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

魂のまなざし

2024年06月08日 | 映画(た行)

情念に生きる

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モダニズムを代表する画家のひとり、
フィンランドの画家、ヘレン・シャルフベックを描く伝記映画です。

1915年。
高齢の母と共に田舎で暮らす画家、ヘレン・シャルフベック53歳。
画家としては、世間からは忘れられた存在ながら、
当人は情熱を失わず絵を描き続けています。

そんなある日、ある画商が訪ねて来て大きな個展を開催する話が持ち上がります。
そしてその個展でヘレンは再評価され、瞬く間に時の人に。

そしてまたヘレンは、画商が紹介した19歳年下の青年エイナル・ロイターと出会います。

まあ当然、作中にヘレン・シャルフベックの絵がいくつも紹介されますが、多くは人物画。
自画像も多いです。
写実的なモノではなくて、かといってピカソほど抽象的なモノでもない。
私的には好きな絵です。

絵がほとんど売れなくても、自分のやり方を信じ何枚も何枚も描き続ける情熱。
これは続けられること自体が才能かもしれません。

さてしかし、本作で中心になるのはヘレンが19歳年下の青年エイナルに向ける愛情。
彼は無邪気に(といっても30過ぎではあるけれど・・・)ヘレンに好意を向け、
画家としても尊敬しています。
若い肉体は美しくたくましい・・・。
ヘレンはそんな彼に魅せられて欲してしまいます。
でも自分の年齢を考えるとそのようなことは言えない・・・。
触れたい、抱きしめたい・・・。
そんな思いばかりが募っていきます。
エイナルも画家志望ではあるので、ヘレンはエイナルを留学に送り出すのですが、
ある時届いた手紙に打ちのめされるのです。
そこには、彼が18歳の女性と婚約した、とあるのでした・・・。

エイナルはおそらくヘレンの気持ちには気づいていたはず。
それなのに・・・。

おばちゃんだっていくつになっても、人を好きになる情熱くらい残っていますともさ。
うん。
けれどこの情念こそが、彼女の絵のエネルギーとなったのかも知れません。

なんとも切なくもあるストーリー。

<Amazon prime videoにて>

「魂のまなざし」

2020年/フィンランド、エストニア/122分

監督:アンディ・J・ヨキネン

原作:ラーケル・リエフ

出演:ラウラ・ピルシ、ヨハンネス・ホロパイネン、クリスタ・コソネン、ピルッコ・サイシオ

失われない情念度★★★★☆

芸術度★★★★★

満足度★★★★☆


ONODA 一万夜を越えて

2024年06月07日 | 映画(あ行)

長い孤独な戦争

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太平洋戦争終結後も任務解除の命令を受けられず、
フィリピン、ルバング島で孤独な日々を過ごし、
約30年後1974年51歳で日本に帰還した小野田旧陸軍少尉の物語。

前から見たいと思ってはいたのですが、
全体で174分という長さに怖じ気づいて、これまで見ないでいました。

私くらいの年齢だと小野田さんの帰還は当時リアルタイムでニュースで見ていまして、
実際驚いたものです。
今の若い方なら「小野田さん」と聞いても分らないのでしょうね。
であればなおさら、見る価値がある作品だと思います。

陸軍中野学校二俣分校で秘密戦の特殊訓練を受けた小野田寛郎。
フィリピン、ルバング島で援軍部隊が戻るまで、ゲリラ戦を指揮するようにと命じられます。
彼は出発前に教官から「玉砕は許されない。必ず生き延びなくてはならない。」
と言われたのです。

1945年8月。
終戦となってもこの島でその情報を得ることができず、
島内の日本兵は戦争のゲリラ戦を続けます。

小野田は4人のチームとなり、ジャングルに潜みながら
ときおり島民の畑や民家から必要なものを調達して生き抜き、
しかしおよそ30年後には彼1人となっていたのでした・・・。

本作はフィクションを交えているようですが、
事実に基づいている部分も多いようです。

小野田さんの帰還当時、私はごく一般の兵士と思っていたのですが、
陸軍中野学校と言えばエリートですよね。
その辺も、当時はニュースで伝えられたのでしょうけれど、
私自身にそこまでの理解が足りなかったというか
興味も持っていなかったというのが実のところかも知れません。

作中最後に任務解除の命令書が読み上げられるのですが、
その中で「別班」という言葉があって、おっと思いました。
つまり彼は陸軍「別班」の任務に当たっていた。
だからこその異常なほどの思い込みで仲間を引き連れて「戦争」を続け、
生き抜くことに執着していた・・・。
そうでなければとっくに投降していたのかも知れません。

それにしても、こんなところで「VIVANT」に繋がるとは・・・驚き。

 

結局、この島で生き抜いた30年を表わすのに、
約3時間の長さはやはり必要だったのです。
納得。

 

それとこの作品が日本人ではなくフランス人監督によって作られたというのは、
少し残念な気がするのです。
でも日本人には若干敗戦コンプレックスみたいなところがあって、
なかなか客観的にこの出来事を捉えられない気もします。
だからこれはこれで良しですね。

 

<Amazon prime videoにて>

「ONODA 一万夜を越えて」

2021年/フランス・ドイツ・ベルギー・イタリア・日本/174分

監督:アルチュール・アラリ

出演:遠藤雄弥、津田寛治、仲野太賀、松浦祐也、千葉哲也、カトウシンスケ、井ノ脇海、イッセー尾形

 

歴史発掘度★★★★★

不屈の魂度★★★★☆

満足度★★★★☆


トリとロキタ

2024年06月05日 | 映画(た行)

理不尽な現状

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アフリカからベルギーのリエージュにやって来た少年トリと少女ロキタ。
2人は偽りの姉弟として暮らしています。
年上のロキタは社会からトリを守り、
しっかり者のトリは、時々不安定になるロキタを支えています。

ロキタにはビザがないため、正規の職に就くことができず、
ドラッグの運び屋をしてお金を稼いでいます。
しかし移民の仲介業者に借金があって、ほとんどそちらに取られてしまい、
故郷の母に送金したくてもほんのわずかしかできません。

ビザを取得するための面接では、トリとの姉弟関係をうまく言いつくろうことができずに失敗。
なんとしてもビザを取得して、まともな職に就きたいと思うロキタ。
やむなくロキタは偽造ピザを手に入れるため、さらに危険な仕事を始めるのですが・・・。

 

本当の姉弟ではないこの2人が、
どのように出会い、どのようないきさつで姉と弟を演じることになったのか、
本作ではそのことには触れられていません。
でも、異国の地にやってくるという2人にとって極めて困難な道のりの間に、
2人は互いに助け合い、強い信頼と親愛の情で結ばれるようになったに違いありません。
その絆は実際の姉弟以上のように思われます。

それにしても、移民という立場の弱いものにつけ込んで
搾取しようとする人々の悪辣さには腹が立ってなりません。
本作はもちろんフィクションですが、実際にもこんなことが普通に行われていそうです・・・。
本作もなんとも言えずショッキングなラスト・・・。
世界はなんとも理不尽で悲しい・・・。

 

<WOWOW視聴にて>

「トリとロキタ」

2022年/ベルギー・フランス/89分

監督:ジャン・ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌ

出演:パブロ・シルズ、ジョエリー・ムブンドゥ、アルバン・ウカイ・ベティム

 

姉弟愛度★★★★☆

社会の矛盾度★★★★★

満足度★★★★☆


碁盤斬り

2024年06月04日 | 映画(か行)

武士って生きにくい・・・

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白石和彌監督、初の時代劇。
古典落語「柳田格之進」をもとにしています。

身に覚えのない罪を着せられた上に妻も失い、
故郷彦根藩を追われた浪人・柳田格之進(草なぎ剛)。
娘・お絹(清原果耶)とともに江戸の貧乏長屋で暮らしています。
実直な格之進は囲碁が得意で、その人柄を表わすように、嘘偽りのない勝負を心がけています。
そんなことがきっかけで格之進は、江戸の大店・萬屋の主(國村隼)と知り合い、
親交を深めていきます。

そんなところへ、旧知の藩士からかつての彦根での冤罪事件の真相を知らされ、
格之進は復讐を決意。

ところがそんな中、萬屋で大金の紛失事件が発生。
その時に居合わせた格之進に疑いがかかりますが・・・。

武士たるもの、常に清廉潔白でなければならない。
あらぬ疑いをかけられることこそが恥。
それは命をかけても晴らさなければならないこと。
そうした思想がバックボーンとなっているわけです。
そんなストイックな有り様が、草なぎ剛さんに合うんだなあ・・・。

ネタばらしになってしまうかもですが、
萬屋でお金を盗んだと疑いをかけられた格之進は、思わず切腹しようとしますが、
そこは娘・お絹がかろうじて引き留め、
それならばと自分から遊郭に身を売ってお金を作り、
そのお金を萬屋に渡すようにと言うのです。

そんなことをすればかえって自分の盗みを認めるようなモノなのでは?
と思ってしまうのですが・・・。
なんとしてもいざこざの中心に自分がいることに耐えられないということなのか。
それでも、自分は盗みなど働いていない、いつかきっと疑いを晴らす、
その時には番頭と主の首をいただく、と言い捨て、姿を消す格之進。

いやいや、格之進の覚悟もさることながら
武家の娘、お絹さんの決断がまたすごすぎます・・・。

ともあれ、なんとも武家だの武士だのは生きにくい。
こんなに肩肘張って生きなければならないのは本当に、つらそう・・・。

 

ところで「碁盤斬り」の題名の意味は、最後に分ります。
ウソ!!と思います。

そうそう、齊藤工さんの武士姿というのもなかなかイケてた。
敵役ですが。

 

<シネマフロンティアにて>

「碁盤斬り」

2024年/日本/129分

監督:白石和彌

脚本:加藤正人

出演:草なぎ剛、清原果耶、中川大志、奥野瑛太、音尾琢磨、齊藤工、國村隼、小泉今日子

 

ストイック度★★★★★

ハラハラ度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


「鴎外青春診療録控 千住に吹く風」山崎光夫

2024年06月03日 | 本(その他)

開業医見習いとしての森鴎外

 

 

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森林太郎(鷗外)は明治14年(1881)7月、満19歳で東大医学部を卒業。
同年12月に陸軍に出仕するまで、千住で開業医をしていた父の診療を手伝っていた。
卒業時の席次が8番と不本意なものだったため、
文部省派遣留学生としてドイツに行く希望はかなわなかった。
幼少時から抜群の秀才として周囲の期待を集め、
それに応えつづけた林太郎にとって、わずか半年足らずとはいえ、
例外的に足踏みの時代だったといえる。
本作は、自分の将来について迷い煩悶しつつも、
父とともに市井で庶民の診療に当たっていた林太郎が、
さまざまな患者に接しながら経験を積み、
人間的にも成長してゆく姿を虚実皮膜の間に描く連作小説集である。

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本作の主人公は、かの森鴎外であります。

明治14年。
作中は本名、森林太郎で表わされていますが、満19歳で東大医学部を卒業(!)。

その後進路が定かには決まらないまま、
開業医である父親の診療所で見習いとして働き始めます。
その後陸軍で軍医として働くまでの数ヶ月間の出来事を、
小説として表わしているわけです。

この診療所を訪れる患者たちの心の機微。
医師として患者に真剣に向き合う父親の姿に大いに学ぶ林太郎。
そして友人や周囲の人々の動向。
ここには実在の人物も登場するので、興味深いのです。
林太郎自身は本を読むことはもちろん大好きなのですが、
この時点では小説家になりたいなどとは思っていません。
むしろドイツ留学などして、もっと知識を身につけたいと思っていた。

明治という時代性も大いに感じさせられ、とても興味深く読みました。

 

<図書館蔵書にて>

「鴎外青春診療録控 千住に吹く風」山崎光夫 中央公論新社

満足度★★★.5

 


エンドロールのつづき

2024年06月01日 | 映画(あ行)

情熱が道を開く

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パン・ナリン監督自身の実話を基にしています。

インドの田舎町ニクラス、9歳のサマイ。
学校に通いながら、父のチャイ店を手伝っています。
父は厳格で、映画などは低俗なものと考えていますが、
信仰するカーリー女神の映画だけは特別として、家族で映画を見に行きます。

初めて経験する映画の世界にすっかり心を奪われてしまったサマイ。
それが忘れられず、後に映画館に忍び込みますが、
バレて追い出されてしまいます。
それを見た映写技師のファザルがサマイに声をかけます。
料理上手なサマイの母の作ったお弁当と引き換えに、
映写室から映画を見せてくれるというのです。

サマイは映写窓から様々な映画を見て圧倒され、自分も映画を作りたいと思うのです。

映写室から多くの映画を見て、映画に魅せられる・・・。
「ニュー・シネマ・パラダイス」を思い出しますが、
インドのこの作品、これはこれで実に面白い。

サマイは、映画は「光」が物語を紡ぐのだと思います。
映画館を離れても、色ガラスの破片や、色のついた空き瓶を通して
風景や人々を眺め、映画を思う。

サマイは頭が良くて、そして近所の子供たちのリーダー格でもあるのです。
仲間たちをも、映画の魅力にひきずり込んでしまいます。

驚くべきは、廃品の中から使えそうなものを寄りだして、
映写機のようなモノを創り上げてしまう。
はじめ彼は、フィルムに光を当ててそのままフィルムを動かしてみたのですが、
それだと全く「動く」映像にならないのです。

そのわけを教えてくれたのはファザルで、
フィルムのコマとコマの間に暗闇がなければならない。
私たちは気づかずに、映画の半分は暗闇を見ているのだ・・・と。
この話、私が知ったのは、なんの本を読んだ時だったっけ・・・? 
まあともかく、サマイはそこも工夫して、
なんとか映像が動くマシン(手回しですが)を作り上げます。
スバラシイ!!

 

サマイの学校の先生は言うのです。

「インドの身分の違いには二つある。英語が話せる者と、話せないもの」

「なにかになりたいのなら、この地を出なければならない」

・・・そうは言っても、チャイの売り上げで日銭を稼ぐ貧乏な自分の家。
そんなことはとてもムリと、サマイは思う・・・。

映画が好きで好きで・・・映画を作ってみたくて・・・。
でもどうして良いか分らない。
そんな少年の憧れ、挫折、何もかもがみずみずしく、そして力強いのでした。

いい作品だなあ・・・。

それと、サマイのお母さんが作るお弁当がと~ってもおいしそうでした!!

<Amazon prime videoにて>

「エンドロールのつづき」

2021年/インド・フランス/112分

監督・脚本:パン・ナリン

出演:バビン・ラバリ、リチャーミーナ、ディペン・ラバル、バベーシュ・シュリマリ

憧れ度★★★★☆

創意工夫度★★★★☆

満足度★★★★★