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映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

藁にもすがる獣たち

2021年12月12日 | 映画(わ行)

大金を巡って過酷な運命に翻弄される

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曽根圭介さんの同名小説を韓国で映画化したもの。

欲望をむき出しにした人々が、大金を巡り、
過激な運命に翻弄されていく様を描きます。

事業に失敗し、ホテルの清掃のバイトで生計をたてるジュンマン。
あるとき、ホテルのロッカーに、忘れ物のバッグを発見します。
その中には、10億ウォンの大金が・・・!!
ジュンマンはひとまず、ホテルの保管室にバッグを隠しておくことにします。

さて、この大金はどこから来たものなのか。

ジュンマンはこの大金を無事持ちだして使うことが出来るのか。

それとも、他の誰かに奪われてしまうのか。

失踪した恋人が残した多額の借金の取り立てに追われるテヨン。
暗い過去を清算し、新たな人生を始めようとするヨンヒ。
借金のため家庭崩壊したミラン。

 

すでにどん底の道を歩んでいるそれぞれが、大金を手に入れたいと夢見て、
そしてさらに大きく人生を踏み外して行くことになる・・・
恐ろしい物語です。

悲惨な死を迎える多くの人々を尻目に、
大金のことなど何も知らなかった認知症のジュンマンの母が言います。

「生きてさえいれば、なんとかなるよ」

とはいえ、生きていくのにもにもやっとというような
低賃金での生活が続くのはやっぱりしんどいですよねえ・・・。
一発逆転を狙う人々の気持ちは痛いほど分かります。

大金の行方を追う血みどろのストーリー。

刺身工場のシーンが、恐かった~。

<WOWOW視聴にて>

「藁にもすがる獣たち」

2020年/韓国/109分

原作:曽根圭介

出演:チョン・ドヨン、チョン・ウソン、ペ・ソウウ、ユン・ヨジョン、チョン・マンシク

血みどろ度★★★★☆

欲望度★★★★★

満足度★★★.5

 


スパゲティコード・ラブ

2021年12月11日 | 映画(さ行)

行き詰まっても、なお

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悩み、揺れ動きながら生き方を模索する13人の若者たちの青春群像劇です。

 

羽田(倉悠貴)は、フードデリバリーの仕事をしていますが、
大好きなアイドルへの思いに区切りをつけるため、配達1000回を目指しています。

桜庭(三浦透子)は、シンガーソング・ライターの夢を今まさに諦めようとしているところ。

大森(清水尋也)は、フェイスブックの友だちが5000人を超えましたが、
困ったときに助けてくれる本当の友だちはいません。

黒須(八木莉可子)は、新進気鋭の広告クリエーター。
ただし、親の七光りと言われている。

他にも自殺死亡の女子高生、恋人に振られて占いにはまる女子、
恋人との穏やかな生活だけに執着する女子等々・・・

誰もが今の自分を“幸せ”とは感じていません。
それぞれに道を見失い、立ち止まり、行き詰まってしまう・・・。

とても重苦しい。
けれども本作の良いところは、それぞれが前向きにまた歩み出すところ。
やはり、それが若さでしょうかねえ・・・。

何か特別に素晴らしい出来事があるわけではないのですよ。
けれど、ささやかな出来事で気持ちの持ちようが変わっていく。
そういうことは、本当にあると思います。
それこそが人生の面白さ。
不思議に爽やかな後味となっています。

スパゲティコードというのは、それを組んだプログラマー本人以外には解読不能なほど、
複雑に絡み合ったプログラミングコードのこと。
本作も登場人物たちが微妙に関連しあっていく所もまた、見所となっています。
人の縁というのも、そんなスパゲティコードなんですね。

 

<サツゲキにて>

「スパゲティコード・ラブ」

2021年/日本/96分

監督:丸山健志

脚本:蛭田直美

出演:倉悠貴、三浦透子、清水尋也、八木莉可子、古畑新之、
   青木柚、ゆりあんレトリイバア、土村芳

 

行き詰まり度★★★★★

満足度★★★★☆

 


「オイモはときどきいなくなる」 田中哲弥

2021年12月10日 | 本(その他)

ときどきと、えいえんの物語

 

 

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モモヨは小学三年生。
おねえちゃんのみどりちゃんは中学生。部活は科学技術部。
なんだか早口言葉みたい。
赤科学技術部青かばこぎじゅぷじゅ黄かがちゅきちゅぶちゅ。
近くにモモヨがよく遊びに行ってた、レオンさんの住んでるお屋敷がある。
レオンさんはかなりおばあさん。
オイモはモモヨの家の犬のこと。
子犬のときジャガイモみたいだったからそういう名前になった。
今はシカっぽい。
オイモはときどきいなくなるけど、いつも暗くなる前に帰ってくる。
それが、その日は晩ごはんの時間になっても帰ってこなくて、
モモヨは、ずっとあわあわしてた。
でも心配してるのはモモヨだけで。みんななんでか気にしてなくて。
そこにいること、もうそこにはいないこと、
今のこと、昔のこと、ほんとうのこと、ゆめのこと。
そのすべての境目が浮かんでは消えながら、四季の移り変わりのなかで、
『つみきのいえ』の加藤久仁生の絵とともにつむがれる、ときどきとえいえんの物語。

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本作、児童書です。
先日、福音館の編集者である岡田望さんの話を聞く機会があり、
「物語を立ち上がらせるものたち」というその一例として取り上げられたのがこの本。
当然、岡田氏が編集に携わった本であります。

 

小学3年生のモモヨをとりまく世界が舞台です。
科学技術部に入っている中学生のお姉ちゃん・みどりちゃんがいます。
オイモというのはこの家に飼われている犬の名前。
このオイモが時々いなくなってしまうのですが、
ご近所のおばあさん、レオンさんの家にお世話になっていたりします。
モモヨが住んでいるところはかなり自然環境に恵まれているようで、
美しい自然に囲まれながら息づくモモヨの「世界」が、
モモヨが語りかける親しみを感じる文体で描かれていきます。
その世界は、決して楽しいことばかりではありません。
いやむしろ本作、二つの「死」について描かれているわけですが、
作中に「死」という直接的な言葉は出てこないのです。
それは、残酷なことを子供に突きつけたくない、などという馬鹿げた配慮ではなく、
もっと、生活の中には隣り合わせである「死」を、
実は自分にとても近いものとして感じ取って欲しい、
喪失の痛みを知って欲しい、そういう意図のものだということが分かります。

 

児童書で特徴的なのは、挿絵があること。
絵本とも違う児童書で、挿絵の役割とは何なのか、
岡田氏はそのことについて述べていました。

あってもなくてもいい単なる添え物ではなくて、
物語世界をより深く、広くイメージを作り上げていくもの・・・、
ということで、そういえば「不思議の国のアリス」や「ムーミン」の挿絵は
今や物語と切っても切れないものになっていますね。

本作中、みどりちゃんがモモヨの髪を切っている絵があるのですが、
その本文は、二人の会話シーン。
髪を切っているなどという文章はどこにもありません。
それは挿絵を描かれている加藤久仁生さんのイメージなんですね。
相当深くこの物語を読み込んで理解していないとこういう絵は描けない、
と岡田氏はおっしゃっていました。
確かにこの姉妹の関係性を表わすにも、実に良い絵なのです。
みどりちゃんは、さすが科学技術部だけあって、事実関係を冷静に判断できる。
まだそういうことの出来ないモモヨをちょっぴり思いやっているところが見えます。
そして、何よりもモモヨのことが大好きなんですね。

児童書というのは、そういう気持ちがすごくピュアに飛び込んでくる感じがして、
いいなあ・・・と思いました。

 

図書館蔵書にて

「オイモはときどきいなくなる」田中哲也  加藤久仁生 画 福音館書店

満足度★★★★☆

 


奈緖子

2021年12月09日 | 映画(な行)

今見ると、さらにみずみずしい

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同名コミックの映画化です。

喘息の療養のため長崎県波切島を訪れた12歳奈緖子。
走ることの大好きな10歳雄介を知ります。
そんな時、海に落ちた奈緖子を助けようとした雄介の父は、
奈緖子を救った後、帰らぬ人となってしまいます。
奈緖子も雄介も心に大きな傷を抱えてしまいました。

そして6年後、奈緖子(上野樹里)は駅伝のランナーに成長した
雄介(三浦春馬)と出会いますが、雄介は彼女を拒絶。

そんな2人の様子を見た、陸上部の監督であり、
雄介の亡き父の親友でもあった西浦(笑福亭鶴瓶)が、
奈緖子に駅伝合宿の手伝いを依頼します。

自分のせいで父親を亡くした少年に対して、
どう接すれば良いのか分からない奈緖子。
もうなんとも思っていない、と言いながら実のところ拒否してしまっている雄介。
監督はそんな2人の過去のいきさつを知っていて、
2人は過去に囚われたまま時間が止まっていると感じたのです。

雄介の走りに魅了された奈緖子は、彼に近づくのは恐いと感じながらも、
島の合宿にマネージャーとして参加することになるのですね。

 

2007年作品で当然のことながら、上野樹里さん、そして三浦春馬さんが若い!! 
ストーリーのみずみずしい青春の息吹が、そのことと相まって、
なんだかたまらなく愛おしい・・・。
三浦春馬さんだから、余計に、ね。

駅伝チームのちょっとこじれた先輩が柄本時生さんだし、
ライバルチームのエースはなんと綾野剛さんだ!! 
この頃はまだ売り出し中ですよね。
カッコイイ♡♡♡

今見るとすごくお得感のある作品です。
オススメ。

 

<WOWOW視聴にて>

「奈緖子」

2007年/日本/120分

監督:古厩智之

原作:坂田信弘、中原裕

出演:上野樹里、三浦春馬、笑福亭鶴瓶、佐津川愛美、柄本時生、綾野剛

 

青春度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


愛のまなざしを

2021年12月08日 | 映画(あ行)

病んだ心には、歯止めがない

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精神科医の貴志(仲村トオル)は、6年前に亡くした妻・薫(中村ゆり)のことが忘れられず、
未だに精神が不安定なのを、薬でしのいでいます。

あるとき、患者として現れた綾子(杉野希妃)が、
医師と患者の関係を超え、貴志に寄り添うようになります。
しかし、亡き妻への思いが断ちきれない貴志に、
綾子は嫉妬し、貴志への独占欲を膨らませていく・・・。

精神科に患者としてやって来た綾子はもちろんなのですが、
この医師・貴志自身もかなり危うい精神状態にあるのです。
貴志の妻は心を病み、自死したことが分かってきます。
自分が精神科医でありながら、妻を助けることが出来なかった。
妻を深く愛していたから、というよりも、
そういった自責の念が彼を苦しめていたようです。

そんな心の闇につけ込もうとしたのが綾子で、彼女は
「薫は本当は別に愛している人がいて、貴志の息子はその人の子供」
だと、ウソをつきます。
綾子のウソに翻弄され、ほとんど錯乱状態になっていく貴志。

なんとも救いようのない物語・・・。
どこまでが正常で、どこからが病なのか分からない。
しかし、病んだ心はなんの歯止めもなくストレートに
おのれの欲望に従ってしまうものなのかも知れません。

斎藤工さんは、薫の弟役。
姉をほとんど見殺しにした貴志を恨んでもいるのですが、
まずまずの良識人なのでホッとします。

そして、貴志のクリニックで受け付けをしているのが、片桐はいりさん。
クリニックのもぎりさんだ・・・、と密かに私は独りごちる。
彼女もまた良識人で、良い仕事をしています。

そんな受付に、貴志と一緒にいたいといって強引に勤務を始める綾子は、
常にタイトなワンピース姿。
派手。
いやー、ほんと恐いわあ、この人。
殿方はこういう人に言い寄られたらイチコロなのかなあ、やっぱり・・・。

 

<サツゲキにて>

「愛のまなざしを」

2020年/日本/102分

監督:万田邦敏

出演:仲村トオル、杉野希妃、斎藤工、中村ゆり、片桐はいり

 

心の病度★★★★☆

満足度★★.5

 


フリー・ガイ

2021年12月06日 | 映画(は行)

ゲーム内、モブキャラの覚醒

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ルール無用のオンライン参加型アクションゲーム「フリー・シティ」。
そのゲーム内で、銀行の窓口係として銀行強盗に襲われる毎日を繰り返している
モブキャラのガイ(ライアン・レイノルズ)。
そんな彼が、謎の女性モトロフ・ガールとの出会いをきっかけに、
この同じことの繰り返しの退屈な日常に疑問を抱き始めるのです。
そして彼は、悪を懲らしめ、「正しいことをする」ヒーローに成長していく。

一方、このゲームの制作者やプレイヤーのリアル世界では、
プレイヤーが操作しているわけでもないのに
勝手に動き出しレベルを上げていくナゾのキャラクターに
憤慨したり、拍手喝采したり・・・。

ゲーム内の世界と、リアル世界が平行して描かれるのがミソですね。

ゲーム会社のトップは、このゲームの続編を出そうとしているのに、
意図せず行儀の良い内容になってきていて、
これでは売れなくなる・・・と言うことで、
このゲームをリセットしてしまおうとするのですが・・・。

実はガイはAIによって自分で成長していて、
回りの他のモブキャラにも影響を与えていくのです。
そこが、トイ・ストーリーのような単なるファンタジーというか夢物語ではなく、
もしかすると現実にあり得るかも・・・という気がしたりするのが面白い。

フリー・シティではプレイヤーのアバターが強盗や殺人、好きなことをし放題。
平和に暮したいモブキャラがいつも殺されたりしているのですが、
殺されたあとはまたベッドで平和に目を覚まして新たな一日が始まる、
と言うしかけになっています。

ゲーム好きの方は、こんなゲームの裏側を想像してみるのも楽しいですね。

 

「フリー・ガイ」

2021年/アメリカ/115分

監督:ジョーン・レビ

出演:ライアン・レイノルズ、ジョディ・カマー、ジョー・キーリー、リル・レル・ハウリー、
   ウトカルシュ・アンブドゥカル、タイカ・ワイティティ

 

ファンタジー度★★★☆☆

満足度★★★.5

 


「ポーの一族 秘密の花園2」萩尾望都

2021年12月05日 | コミックス

人の世の苦さ切なさ

 

 

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エドガーは目覚めたアランを連れてアーサーの館を離れ、
アーサーはますます病重く死を迎えようとしていた。
そんなおり父と再婚相手との娘・セスが現れアーサーの看病をすることに・・・?

アーサーの過去、パトリシアとの秘めた初恋の行方、そして目覚めたアラン。
全てが絡み合い運命が1つの結末をつむぐ。

「秘密の花園」の章、完結巻。

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ポーの一族、「秘密の花園」の続編です。

アーサーの館に身を寄せているエドガー。
アランは相変わらず庭の片隅にある小屋で眠り続けています。
エドガーは秘密を知ってしまった者を「狩ら」なければならなくなり、
バンパイアとして生きることは、
時には非情でなければならない苦しさを滲ませます。
彼は結局人間が好きなんですね・・・。
だからポーの村で過ごすよりも人間界を旅していたいのでしょう。

さて本作、アーサーとパトリシアの恋模様がとても切ない。
若き日のすれ違いが、後々までも2人を苦しめていたのです。
でも、それは結局アーサーのほんの一時の心ない行動が起因したことだった・・・。

人生の苦さ、切なさ・・・。
こんなことを、ロマンを持ちつつも的確に、著者は描き出します。
そしてちょっぴりのユーモアも忘れない。

巻末、ひたすら実直にアーサーのことを案じ続けていた使用人マルコの
その後が描かれていたのには、ひたすら涙・涙・・・。

定められた人生を歩む者と、常世を生きる者は、
時の流れの中でほんのひとときすれ違うしかないのですね。

 

さていつも思うけれど、この物語においてアランは、
常にやっかいごとの元凶のような気がします。
いっそずっと眠り続けていて欲しい・・・(?)

 

「ポーの一族 秘密の花園2」萩尾望都 フラワーコミックススペシャル

満足度★★★★★

 


ドント・ウォーリー

2021年12月04日 | 映画(た行)

心の向きが変わるとき

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風刺漫画家、ジョン・キャラハンの半生を描きます。
2014年に亡くなったロビン・ウィリアムズが
自身の主演で映画化の構想を温めていたもの、とのこと。

オレゴン州ポートランド。
酒浸りの毎日を送っていたキャラハン。
自動車事故により胸から下が麻痺し、車椅子の生活となってしまいます。

自暴自棄となった彼はこれまで以上に酒浸りとなり、
周囲の人々と衝突を繰り返します。
しかしあるとき、ふとしたきっかけで酒を断ち、
不自由な手で絵を描き、風刺漫画家として第二の人生をスタートするのです。

ジョン・キャラハンの絵は、手が不自由なこともあって
微妙に線が震えたりしているのですが、
それがまたいい味となっていて魅力的です。
ただし、あまりにもその内容が過激なので、
好む人も多いけれど、眉をひそめる人、嫌悪感をあらわにする人も多い。
けれど、それこそが彼自身の強烈な個性というもの。
おのれのままで生きる以外の道を彼は知りません。

不思議ですよね。
酒浸りの日々から抜け出そうとしたとき、
彼はその先の道を見つけていたわけではなかった。
相変わらず下半身は動かないし、誰の役に立っているわけでもない。
介護人は適当で、自分を邪険に扱う。

そんな彼が感じた「何か」は、
人によっては嘘っぱちだとか、幻覚だとか言うかも知れないけれど、
私は本当だと思うのです。
スピリチュアルなことには懐疑的な私ですが、
一生に一度くらい何か説明のつかない奇跡があってもいいと思う。
ほとんど願望ですかね。

とにかく、その「何か」によって、同じ困難な状況であるのに、
彼の心の向きが変わっていく。
前向きに生きる方向へ。

心のありようはこんな風に変化するものなんですね。
だからひどく落ち込んだとき、もう立ち上がることも出来ないと思ったとき、
そんな時はなんとかしのぐことにして、いつか良い風が来ることを待てばいい。
ほんの何かのきっかけで、それは起こるのではないかな・・・。

まあそれはともかくとして、
彼が参加していたアルコール依存症の人々が集まるグループセラピーが、
力になったのも確かかもしれません。

いろいろな映画で、こうしたグループセラピーのシーンが描かれますが、
本作中の皆さんはなんとも言うことが辛辣。
容赦なく切り込んできます。
けれど、変に優しい物言いでは彼の心に響かなかったでしょう。
無理に優しくされると、まるで哀れまれているようで逆に反発してしまうかも知れない。
そしてまた、その厳しい言葉を言うのが
同じ依存症をくぐり抜けた人たち、という所も大事なのでしょうね。

事故の時、飲んで居眠り運転をして、自分はかすり傷だけだった友人。
(でも自分も、しこたま酔っていた)

幼い自分を捨てていなくなってしまった母。
(その母の気持ちを考えたこともなかった)

恨んで、憎んできた人たちを許すこと。
そして最後に自分自身を許すこと。

こうしたことを一つずつクリアして、どんどん彼自身が「自由」になっていく気がします。

 

<WOWOW視聴にて>

「ドント・ウォーリー」

2018年/アメリカ/113分

監督・脚本:ガス・バン・サント

出演:ホアキン・フェニックス、ジョナ・ヒル、ルーニー・マーラ、ジャック・ブラック

 

人生再生度★★★★★

満足度★★★★☆

 


樹海村

2021年12月03日 | 映画(さ行)

絶対に検索してはいけない言葉

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「犬鳴村」に続き、実在した心霊スポットを題材とする「恐怖の村」シリーズ第2弾。
先日「犬鳴村」を見たので、せっかくだからこちらも、ということで拝見。

自殺の名所などと言われる富士の樹海。
禍々しい呪いがその樹海の奥に封印されているのです。
それは、「絶対に検索してはいけない」と語り告げられる「コトリバコ」。

友人の引っ越し手伝いに出向いた天沢鳴(山口まゆ)、響(山田杏奈)姉妹。
その家の床下で不気味な小箱を見つけます。
それこそが「コトリバコ」で、この箱に関わった人々が次々と不可解な死を遂げます。

以前から少し言動がおかしかった響は、
いよいよ様子がおかしくなり、統合失調症として精神病院に収容されますが・・・。
これらの出来事は13年前の姉妹の体験に関係していて・・・。

「絶対に検索してはいけない」言葉、などと言われると、ちょっと恐いですね。
いつでも簡単に「検索」出来る状態に私たちはいて、
それをするなと言われたら余計にしたくなってしまう。
響が見ていたパソコンの画面が次第に不気味なものに埋め尽くされていく、
というのもなかなか恐い。
「リング」でテレビ画面から人が這い出してくるショッキングシーン、
アレのさらに進化バージョン、まさに現代の恐怖です。

でも終盤、富士の樹海でゾンビみたいのがぞろぞろ出てくるシーンでは、
ちょっと白けてしまいました。
やたらと長いし・・・、いや、もういいわ、
どうでもいいから早く終わらせて、と思ってしまう。

不意に車が飛び出して来て跳ね飛ばされたり、
病院の玄関から出たところで上から人が落ちてきてぶつかって死んでしまったり、とか。
こうした原因不明の、事故を装った理不尽かつ不可解な死のシーンこそは、
虚を突かれて恐ろしいのですが、
それが形を表わすと途端に陳腐なものになってしまう。
見えないものこそが恐ろしいと、私は思います。

 

<WOWOW視聴にて>

「樹海村」

2021年/日本/117分

監督:清水崇

出演:山田杏奈、山口まゆ、神尾楓珠、倉悠貴、塚地武雅、國村隼

 

斬新さ★★★☆☆

恐怖度★★★☆☆

満足度★★★☆☆

 


かもめ

2021年12月02日 | 映画(か行)

女はたくましく生きていく

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日本未公開作品。
チェーホフの戯曲「かもめ」の映画化です。
とは言っても、その題名だけは聞いたことがあるような気もするけれど、
実際には見たことも読んだこともない、未知の作品。

 

イリーナ(アネット・ベニング)というベテラン舞台女優が、
拍手喝采のうちに舞台を降りると、
兄が危篤であるということを聞き、急ぎ田舎へ戻る、
という所から話は始まります。

田舎に集う人々。
実はイリーナがここを訪れるのは2年ぶりで、
その2年前の出来事こそが本作のストーリー。

 

イリーナは有名作家ボリス(コリー・ストール)と愛人関係で、同行しています。
イリーナの息子コンスタンチン(ビリー・ハウル)は作家志望の青年。
この地にニーナ(シアーシャ・ローナン)という恋人がいます。
ニーナは女優を目指しており、敬愛するボリスに会えたことで舞い上がっています。
そして、ボリスの成熟した男の魅力にひかれ、女優志望にもますます火がついていく。
彼女の眼中に、もうコンスタンチンはありません。

ニーナに捨てられ、自己の作家としての才能も信じ切れなくなった
コンスタンチンは自殺を図りますが・・・。
その場は、命を取り留めたコンスタンチン。

一方ニーナは、女優を目指してモスクワへ出て
ボリスと共に暮し始めるのですが、それもつかの間・・・。

 

ニーナがボリスに恋をして、自分の夢を語るシーンが印象的です。
若く、みずみずしくてキラキラと輝いている。
どんな未来をも切り開いていけそうな自信に満ちている。

けれど、時というのは残酷なもので、結局ボリスとはうまく行かなくなり、
女優にはなったものの、有り余る才能というほどのものは無かったようで、
3流のドサ回り女優止まり。

コンスタンチンも、その後物書きとして歩み始めましたが、
酷評を受けたりして落ち込みます。

 

若く、未来が揚々と広がっているように思えたあの頃・・・。
でも夢は叶わず、苦しみばかりが多い。
そんな時、女はそれでも歯を食いしばり生きようと思う。
けれど男は絶望して生きていく気力さえも失ってしまう・・・。
そういう物語なのかと思いました。

ところで、イリーナとボリスはやり直してまた親密になっているのです。
若き日にあまりにも大それた夢を抱くと、それが破れたときの苦しさが大きい。
けれど、一定年齢の大人は、さして大きな望みも持たず、
とりあえずこのまま生きていければ良いと思っている。
こんな人にとっては相変わらず平穏な年月が流れていく。

これは、あまりにもチャレンジ精神のない日和見的な生き方なのか・・・?
う~ん、とは言っても、多くの人がこうして生きていくのかも知れません。

 

そうそう、作中もう一人気になる人物がいて、
この屋敷の支配人の娘・マーシャです。
彼女はコンスタンチンを強く愛しているのですが、
コンスタンチンはニーナに夢中でマーシャの気持ちなど考えてみたこともない。
完全なるマーシャの片思いです。
彼女はその自分の愛を葬り去るために、常に黒い服=喪服を着ているのです。
そして、どうしたって自分の思いが叶わないと知ったときには、
思いあまって以前から自分に言い寄っていた貧乏教師と結婚してしまいます。

苦しみの中でも、とにかくまずは生きようとする、
やはりそういう女性像なのかも知れません。

 

<WOWOW視聴にて>

「かもめ」

2018年/アメリカ/99分

監督:マイケル・メイヤー

出演:アネット・ベニング、シアーシャ・ローナン、コリー・ストール、エリザベス・モス、ビリー・ハウル

 

人生模索度★★★★★

満足度★★★☆☆