映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「空芯手帳」八木詠美

2023年04月18日 | 本(その他)

空っぽのお腹を満たすものは?

 

 

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女性差別的な職場にキレて「妊娠してます」と口走った柴田が辿る奇妙な妊婦ライフ。
英語版も話題の第36回太宰治賞受賞作が文庫化! 
NYタイムズ、ニューヨーク公共図書館の2022年オススメ本にあげられ、
世界14カ国語で翻訳進行中。

世界的に話題のデビュー作、待望の文庫化!

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世界的にも話題となっているという本作、なるほどーと思いました。
現実にほぼ重なる「私小説」が「文学」と思われていたような日本よりも、
ちょっと現実離れしているけれど、
奥深いいろいろなことを示唆しているこのような小説は、
海外の方が受けがよい。
村上春樹さんなどもその一つの例かもしれません。

 

本作の主人公はとある会社に勤める女性・柴田。
ある日、「コーヒーカップを片付けておいて」と上司に言われたときに突然キレて、
「私は妊娠しています。」と言ってしまう。
全く事実無根であります。
今の柴田には、その可能性すらありません。

 

なにも、女性だから・・・と押しつけられる雑用は、その時に始まったわけではない。
けれど、積もり積もった理不尽さに対する鬱屈が、そこで爆発してしまったわけです。

ところが、世間一般がそうであるように、妙なところで「気遣い」のある職場。
誰も結婚してたっけ?とか、付き合っている人がいたんだ?などとは聞いてこない。
周囲は、いっとき妙な雰囲気にはなったものの、
皆さん無理矢理にも納得して、妊婦・柴田を気遣い始めます。

残業もなくなって、明るいうちに家に帰ることができるという、嬉しい初体験。
柴田はそのまま、お腹にタオルを巻いたり、
生理の時にはバレないようにオフィスとは別のフロアのトイレに行ったりと、
奮闘を続けるのですが・・・。

 

柴田の会社は、アルミホイルやラップなどに使う「紙の芯」を扱っています。
つまり中身が空っぽ。
柴田も、実は空っぽのおなかをかかえ、そこを何で満たそうとするのか・・・
と言うことがテーマではあるのでしょう。
実に秀逸な設定です。

しかも、読者は途中から混乱して来ることになります。
柴田のお腹は次第にタオルを巻く必要もなくせり出して、
病院のエコー検査で不鮮明ながら影が映ったりする・・・。
息を潜めて、そのなりゆきを見守るほかありません。

 

男女同権といいつつも、体のつくりははっきりと違う。
けれど女性だからといって必ず妊娠するものでもなく、
「女は子供を産むものだ」という固定観念的なものも薄れてきている今、
では「女性」性や母性はどこへ行こうとしているのか。

そんなことを思うのでした。

 

「空芯手帳」八木詠美 ちくま文庫

満足度★★★★★

 



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