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「遠い唇」北村薫

2017年08月18日 | 本(その他)
ほんのり何気ないラブストーリーがおすすめ

遠い唇
北村 薫
KADOKAWA


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コーヒーの香りとともに蘇る、学生時代の思い出とほろ苦い暗号。
いまは亡き夫が、俳句と和菓子に隠した想い。
同棲中の彼氏の、"いつも通り"ではない行動。
―ミステリの巨人が贈る、極上の"謎解き"7篇。

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北村薫さんの短編集です。


やはり一番のおすすめは表題作で巻頭の「遠い唇」。
大学教授が、コーヒーの香りから、
ふと学生時代に姉のように慕っていた先輩のことを思い出します。
遠い昔、その彼女から受け取ったハガキには不可解なアルファベットが並んでいた・・・。
結局その時にはどういう意味かも全然わからなかったのですが、
今改めて見てふと気がつくことがあり・・・。
それはやはり巧みな暗号だったのですが、
解読するといかにも切ない・・・。
コーヒーの香りと遠い昔の切ない感情がこみ上げる秀作。


それから「パトラッシュ」
パトラッシュというと、まさか・・・と思ったのですが、
やはりあのアニメ「フランダースの犬」に登場する大きな犬の名前のことでした。
主人公翆(みどり)は、少し辛いときに、
大きな犬にすがりつき「パトラッシュ」とつぶやくイメージで、
癒される感じがするのです。
それで、今共に住んでいる彼氏が、彼女にとっての「パトラッシュ」。
そんな翆が仕事で遅くなった夜帰宅すると、
バスルームに、自分しか使わないボディスクラブの香りが残っていた・・・。
もしや自分がいない間に女が上がり込んで・・・と
一瞬想像してしまった翆ですが・・・。
翆の想像上の謎を解く日常のミステリとも言えるかもしれません。


こんなふうな、本当に何気ないほんのりしたラブストーリーが、
この本での私のお気に入り。
宇宙人カルロロンが登場する、北村作品とは思えない怪作もあります。


「遠い唇」北村薫 角川書店
満足度★★★★☆
図書館蔵書にて


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