映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

孤高のメス

2010年06月30日 | 映画(か行)
必要なのは手先の器用さと、根気と、使命感



              * * * * * * * *

大鐘稔彦ベストセラー小説の映画化。
といっても私には馴染みのない作家さんなのですが、
医師でもある方なので、現在の医療について大変リアルで厳しい状況を描き出しています。
そしてこの映画作品も相当リアルな手術シーン満載。
いい話です。

舞台は1989年、と少し古い。
ある地方都市の市民病院に、外科医当麻鉄彦が赴任してくる。
看護師浪子はそれまで、いかにも適当な手術を見ているのが嫌で嫌で、
すっかりやる気をなくしていました。
けれどこの当麻医師の手術を見て考えが変わります。
素早く正確。
何よりも患者の立場に立ったその熱意ある行動に感化され、
自らも器械出しで少しでも助けになるようにと、勉強していく。



けれどその当麻医師は立派で近寄りがたい、というのではないのですね。
手術のバックミュージックは都はるみだし、
自分のお見合いとして設けられた席なのに、それと気づかなかったりする。
ただただ、仕事熱心、仕事馬鹿。
そんなところがまた魅力なのです。
そんなある日、当時ではまだ法的に認められていなかった
生体肝移植の必要性とチャンスが同時に舞い込んでくる。
それを実行したとして、
返ってくるのは売名行為とのそしりか、もしくは殺人の罪。
どちらにしてもろくなことはないに違いないのですが、
そこに苦しんでいる病人がいて、臓器提供を望む脳死患者の家族がいる。
当麻医師には、余計なことは目に入らないのです。





病院内の欲・怠惰・技術の未熟・・・非常に嫌な面も語られます。
そんな中で、自らの理想に従おうとする当麻医師のその姿は、まさに孤高なのです。
でも、彼は孤独なのではありません。
自身のビジョンを持ち、ぶれない。
そうした人物に人々は自ずとついて行くものなのです。
院長や他の医師、看護師、皆が力を合わせて最良の医療を行おうとする。
当たり前のことの様で、現状は当たり前ではないのでしょう。
この当麻医師のような医者がたくさんいれば、地域医療の問題も相当改善するんですけどね!

ここの市長がいっていましたねえ。
当麻医師は、ブラック・ジャックみたいだと。
当の本人は言います。
アニメやドラマでは外科医は派手だけれども、実際は地味なものです。
一針一針セーターを編むようなもので。
ちくちくちくちくと・・・。

あの手術の様子を見ていたら納得です。
手先の器用さと根気がすべてのような気がする。
そしてやはり自らの使命感かな。




以前にドナーカードを持つべきか・・・。
考えたことがあります。
けれど、自分で引っかかってしまったのは、脳死の場合の臓器提供。
脳死、といっても立派に心臓は動いていて、息をしていて体も温かい。
このようなときに、
脳は死んでいるからもう回復の見込みはない、
といわれて納得できるのかどうか。
その暖かな体にメスを入れて心臓やら肝臓やらを取り出してしまう・・・というのが、
どうにも恐ろしく思えてしまう。
そんなところが自分の限界。
それを考えると、この作品中の「母」は強かったですねえ・・・。
あのような決心はなかなかつくものではないと思います。
ということで、
万が一の時には、無駄に生きながらえるくらいなら・・・。
もうこの年でさほど思い残すこともないとなれば、またちょっと考えてみようかなあ・・・・。


2010年/日本/126分
監督:成島出
出演:堤真一、夏川結衣、吉沢悠、中越典子、矢島健一


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