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映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ゲド戦記 Ⅳ 帰還

2017年04月26日 | 本(SF・ファンタジー)
男と女の性と生

ゲド戦記 4 帰還 (ソフトカバー版)
清水 真砂子
岩波書店


* * * * * * * * * *

魔法の力を使い果たしたゲドは故郷ゴント島に戻り、テナーと再会する。
大火傷を負った少女も加えての共同生活が軌道にのりだした頃、
三人は領主の館をめぐる陰謀に巻き込まれてゆく。
太古の魔法を受け継ぐのは誰か。


* * * * * * * * * *

ゲド戦記の4巻目です。
前作で、魔法の力を使い果たしたゲドは、故郷ゴント島に帰ってきます。
そこでテナーと再会。
テナーはなんと、島の男と結婚し二人の子どもを作っていました。
今はすでに夫は亡くなり、二人の子どもも家を出て、ひとり暮らし。
というかすっかり貫禄も出た「おかみさん」になっています。
あのテナーがごく普通の男と結婚してごく普通の生活をしている
というのがまずは意外。
しかしテナーは、ごく普通の女の生を生きてみたかったと言っています。
確かに、それもわかる気がします。
そしてストーリーはその後からはじまるのです。
妻であり母であるという役割を終えて、
一人の「女」となったテナーが次にどう生きようとするのか。
そこにゲドが深く関わってくるわけですね。
本巻は、こんなふうな「男と女の性と生」ズバリ、これがテーマです。
ファンタジーといえば魔法で悪を倒す、
そんなストーリーを期待している方には実に肩透かしなストーリーかもしれません。
しかし私にはこれがものすごく面白かった!!


魔法をなくした魔法使い・・・。
作中でまじない師のコケばばは言います。

『男は硬い殻をかぶったクルミみたいな皮をかぶっている。
その中身は「男」。
そしてそれが魔法使いなら、その中身は「力」。
もし、その力が失われたのなら、「男」もなくて中身はからっぽ。』

つまり、魔法使いというのは、
通常「男の本能」を押し殺し、包み隠しているもののようです。
ないものとして、無視している。
ところがゲドはこの度魔法の力をすっかりなくして、
もはや魔法使いではありません。
だから本当に空っぽになってしまった。
男ですらなくなってしまった・・・。
だから本作に出てくるゲドはしばらくのあいだ腑抜けのようにぼーっとしているだけなんです。
また、コケばばは言う

「老いていても15の少年のようだ・・・」


一方テナーは、はぐれものの暴力を受けて焼き殺されかけた少女テルーを救い、養女にします。
この子を守り育てくことがまた新たなテナーの生きがいになっていくのですね。
そしてテルーは、ただの子どもではなかった・・・。


さて、腑抜けていたゲドは、ある時テナーとテルーに降りかかった危機を救います。
魔法をなくし、体も衰えてきていたゲドにはなかなか大変なことではありましたが・・・。
が、それをやり遂げたゲドが、「男」になるのです。
・・・その夜のこと。

「二人はその晩、暖炉の炉石の上で寝、
そこでテナーは最も知恵ある男でさえゲドに教えられなかった神秘をゲドに教えた。」


ヒュ~、ヒュ~!!
まさかこんなシーンにお目にかかろうとは・・・!


また、二人は男と女のことについて語り合ったりもします。

「女の力ってなんだろう? 
女はどんなときに女であるがゆえの力というのを持つんだろう?―――」
「真の力、真の自由と呼べるものは、物理的な力なんかじゃなくて、
信頼の中にこそ見出されるものかもしれない。」


このように考えるテナーこそが、
テルーとゲドとの第二の人生を「女の力」を持って歩き始めたように思えるのです。
まことに味わい深い一冊でした!

「ゲド戦記 Ⅳ 帰還」ル=グウィン 岩波書店
満足度★★★★★