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映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

雨の日は会えない、晴れた日は君を想う

2017年04月22日 | 映画(あ行)
破壊行動の裏にあるもの



* * * * * * * * * *

デイヴィス(ジェイク・ギレンホール)はウォール街のエリート銀行員。
富も地位も手にしています。
しかし高層タワーの上層部でただ数字と向き合うこの仕事には
何やら空虚を感じているのです。
そんなある日、交通事故で妻を亡くします。
ところがデイヴィスは少しも悲しくなく涙も出てきません。
そんな自分が不可解で、また、何やらわからない感情に駆られるように、
彼は身の回りのものを破壊し始めるのです。
冷蔵庫、パソコン、マイホーム・・・。



妻の突然の死を少しも悲しめない、というのは
少し前に見た「永い言い訳」と同じですね。
そちらは、悲しめない自分の気持ちを埋めるように、
主人公が他の家族の面倒を見始めるのでした。



でもこちらは、なんと意外にも破壊行動。
それは妻の父が
「心の修理も車の修理も同じ。
まず隅々まで点検して組み立て直す。」
といったのがきっかけではありました。
彼には悲しみよりもまず混乱があったのかもしれません。
始めは冷蔵庫を修理しようとして、バラバラにしてしまう。
それが次第にエスカレートしていくのです。
彼がどうしてこんな行動に出るのか、理屈では説明がつきません。
けれども、彼の内面の葛藤という意味では、
わからない上でも、何か共感を覚えてしまうのです。
ちょっぴり村上春樹的かなあ・・・と思ったりもする。



亡くなった妻の父親は、彼の職場のボスなのです。
つまりはコネ入社。
デイヴィスは自ら望み夢を持ってこの仕事についたわけではない。
そのため仕事については無味乾燥と思えていたし、
それとほぼ同列につながっている妻との結婚生活についても、
普段から虚しく思っていたように伺われます。
そして彼は、最後に妻の秘密を知ります。
彼女が書いた細やかな感情を表すメモ・・・言葉の断片を目にする。
そこではじめて彼は、妻も悩み傷つきながら「生きていた」ことに気づくのではないでしょうか。
そういう、たったひとつの「生」の喪失を改めて思う時・・・
はじめて悲しみが生まれてくる。



人の心の表層と奥底を描く秀逸な作品だと思います。



「雨の日は会えない、晴れた日は君を想う」
2015年/アメリカ/101分
監督:ジャン=マルク・バレ
出演:ジェイク・ギレンホール、ナオミ・ワッツ、クリス・クーパー、ジュダ・ルイス

破壊度★★★★★
満足度★★★★.5