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映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

白いリボン

2011年08月29日 | 映画(さ行)
純真で無垢な心を守るように・・・



             * * * * * * * *

第一次世界大戦直前のドイツ、小さな村を舞台としたモノクロ作品です。
平和であるはずの農村。
しかし、そこに不可思議な事故・事件が連続しておこるのです。
村唯一のドクターが、木と木の間に張り巡らされた針金にひっかかり、落馬。
大地主である男爵家の納屋の床が抜けて、小作人の妻が死亡。
牧師の机の上には、小鳥が磔に。
男爵家の納屋の火災、息子の行方不明・・・

でもこれは犯人捜しの作品ではありません。
というか、最後までそれは、謎のままなのです。
けれども、これら男爵や、ドクター、牧師という
村のコミュニティーの権威である彼らの生活を中心に描き出すうちに、
それぞれの抑圧された状況が克明に浮かび上がってきます。
それは高潔でなければならないという思いにしばられた彼ら自身でもあり、
彼らに抑圧された村の人々であり、
また彼らの子供たちでもある。
こうした様子が見えてくるにつれて、
どんな事件があってもおかしくない気がしてくる・・・。
恐ろしい作品です。



白いリボンというのは、牧師が彼の子供に巻き付ける“罰”を意味する白い布です。
“純真で無垢な心を守ることができるように”と、腕にその布を巻く。
しかし、その牧師自身が、とうに純真で無垢な心などなくしたように見受けられる。
男爵しかり、ドクターもまた・・・。
本当は彼ら自身がそのリボンを巻くべきなのでしょう・・・。
いえ、彼らにはすでに、見えないリボンが巻かれていると見なすべきでしょうね。


ではこの作中、子供たちは純真で無垢かというと、そうではないのです。
彼らは彼らで、こうした大人たちの行動を見知っている形跡がある。
時には大人たちの抑圧された心情のはけ口にされている子供たちもまた、
大きな抑圧を背負っており、
無表情で言葉少なの彼らもまた、不気味で謎の存在なのです。


解説によると、この作品、
ファシズムに向かうドイツの状況を正に象徴しているというのですが、
そこのところはよくわかりません。
けれど、こういう構図は現代にもそこらにありそうな気がする。
そういう普遍的な意味があるからこそ、
万人の共感を生み、数々の受賞につながったのでしょう。



白いリボン [DVD]
ミヒャエル・ハネケ
紀伊國屋書店



2009年/ドイツ・オーストリア・フランス・イタリア・ドイツ/144分
監督:ミヒャエル・ハネケ
出演:クリスティアン・フリーデル、エルンスト・ヤコビ、レオニー・ベネシュ、
デトレフ・ブック、アンネ=カトリン・グミッヒ