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映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「サービスの裏方たち」 野地秩嘉

2011年08月09日 | 本(その他)
それぞれのプロ意識に感動

          * * * * * * * *

確かなプロの技を持つ人々。
普段表には出てきませんが、様々な場所でこういう人たちが活躍しています。
この本では、このような「裏方」の人たちにスポットを当て、
取材したノンフィクションです。

★ 学習院初等科の伝統を支える給食のおばさん

★ ハマトラと横浜の頑固なファミリービジネス

★ 崖の上にある世界一のシェークスピア劇場

★ 戦後日本の腹を満たした魚肉ソーセージの父

★ 空を目指さなかったエンジニアの車なんて・・・

★ めでたいお赤飯は、和菓子店で購うべし

★ 絶景の特等席に座る女性クレーンオペレーター

★ 銀座の老舗は、商売替えを厭わない
★ 高倉健が魅せられたレンブラントの模写

と、巻末対談として
★ 日本一サービス精神のあるロックバンド

以上10篇が掲載されています。


多くは日本の方ですが、外国篇もふたつ。
そのうちの一つが、
「崖の上にある世界一のシェークスピア劇場」
これは、イギリスのコーンウォール地方にあるミナック・シアターなのですが、
本当に断崖に作られている野外劇場です。
この劇場は、なんとたった一人の女性、ロウィーナ・ケードという方が自分で設計し、
海岸から岩を運び、セメントと砂を混ぜて作り上げたというので驚かされます。
当初、海に面した彼女の家のガーデンで
「テンペスト」を上演したことがきっかけだったとか。
それ以後、90歳になるまで、
彼女の人生はこの劇場作りと、運営に費やされた・・・と。
客席から舞台と海を見下ろす、非常に風の強い劇場だそうです。
ちょっと行って見たいですね。


「魚肉ソーセージ」の話も興味深いのです。
愛媛県の菅原傅。
彼は1950年に日本で初めて魚肉ソーセージを売り出しました。
安価で、常温で保存できるため、たちまち家庭のおかずとして日本全国に広まったのです。
菅原氏が子供の頃、皆貧しくて、肉など誰も食べたことがなかった。
八幡浜という漁村に暮らしながら、
輸送のための道路も整備されておらず、
むろん冷蔵庫なども普及していない当時、
鮮魚すらもまともに食べられなかった・・・。
菅原氏は、東京で教職に就くのですが、
45歳で職を辞し、故郷に戻ってソーセージ作りに着手。
アジのすり身に豚肉と豚の脂を混ぜ、
練るときに燻液をいれる・・・とのこと。
ところで私に一つ思い出があります。
こどもの頃、もちろん我が家も魚肉ソーセージを愛用していました。
ところが時々お隣のうちでご馳走になるソーセージが
何故かおいしいのですよね。
家で食べるソーセージはきめ細かくて、食感はかまぼこに近い。
でもお隣のうちのソーセージは、もっときめが荒くて、ボロボロした感じ。
そしてもう少し油っぽい。
でも、こっちの方が確かにおいしい。
私は母にいったものです。
うちもお隣みたいなソーセージにしようよ、と。
でもそれはむなしく却下されました。
つまりお隣のソーセージは本物のお肉のソーセージだったのですね。
どうしてそういう違いがあるのか、
私が理解したのはもう少し後のこと。
でも、味の違いだけは子供心にもわかったんですねえ・・・。


余計な話になってしまいました。
もう一つご紹介しましょう。
「銀座の老舗」のお話。
大黒屋さんです。
婦人物バッグの専門店。
商品は1万円からせいぜい3・4万円くらいといいますから、
銀座のイメージとはうらはらに、庶民的なお店なんですね。
でも、店内はいつも大賑わいで中年婦人で混雑しているといいます。
この大黒屋が商売を始めたのは明治以前、江戸時代のこと。
元は鶏卵問屋。
明治になった頃には、海産物小売店となっていました。
ところが昭和20年の空襲で店は焼失。
戦時中には、西銀座通りも昭和通りもイモ畑となり、
これらの通りに面した住人はアヒル、ニワトリ、ヤギを飼ったなどとあります。
銀座でアヒルにヤギ・・・。
見たかったですね。
さて、戦後店の再建となりますが、
海産物は止めて今度は婦人用品、アクセサリーの販売を始めます。
鰹節の販売ではこの先店を維持できないだろうと読んだのですね。
しかし、その後銀座はデパートが建ち並び、婦人物雑貨の販売も苦しくなってくる。
そこで、ハンドバック専門店へと切り替えたといいます。
現社長さんは、
「自分はリレーのランナーのようなもの。
土地も商売も後に引き継ぐことが使命」といいます。
銀座で商売して生き残るためなら商売替えも厭わない。
そういう信念なんですね。
銀座で商売をすることの意地。
これもなかなかよい話です。

いろいろな人がいろいろなことに一生懸命。
働くってステキです。

サービスの裏方たち (新潮文庫)
野地 秩嘉
新潮社



「サービスの裏方たち」野地秩嘉 新潮文庫
満足度★★★★☆