「ジャージの二人」 長嶋 有 集英社文庫
これは映画化されているのですが、先に読んでしまいました。
北軽井沢の山荘・・・といえばかっこいいですが、ものすごいボロ家。
そこに、一応避暑に出かけた、父と息子。
この二人の物語。
いえ、物語というほどの大きな出来事もないのですが、淡々と日常を語ります。
父はカメラマン。
今は3度目の結婚相手と暮らしていて、娘は中学生。
息子は、小説家志望。
定職にはついていない。妻には他に好きな男がいることを知っている。
この二人は山荘にきても、かび臭い布団を干したりお風呂を沸かしたりするくらいで、単にだらだら過ごすだけ。
祖母が残した、どこかからもらった大量の古着のなかから、
小学生用と思われるダサいジャージを見つけてそれぞれ着用。
お互いの家族から離れて、二人の男がただただ無為に過ごすこの小説は、
しかしなぜか、ぜんぜん退屈ではなく、面白く読めてしまいました。
二人の会話も、ぽつぽつとたまにしかないのですが、
そのあたりが本当に日常っぽいのです。
そのような、退屈な日常の中で、東京の妻を思い、また男とあっているのではないかと心は乱れ、・・・。
ああ、あるなあ、そんな感じ。
心に引っかかることはあるけれど、でも、日常はだらだら平和に流れていく。
無為。
でも、なんだか、そんな意味のない時の流れが、
ほんのちょっぴり、気持ちを癒していくような気がします。
こんな時間も、時には大切かな。
そんな時は一人ではちょっと寂しいし、気を使わない家族と一緒がいい。
でも、完全に何もしないで、人が作るご飯を食べるだけ、というのではなく、
とにかく自分で何か作って、面倒ならコンビニでお弁当を買って、
布団を干して、お風呂のまきを割って・・・、
最低限「生活」しているところがなんだか、いいんだなあ・・・。
これがリゾート地のバカンスだったら、怒るよ。
この本の後半は、「ジャージの三人」になっていて、始めの話から1年後の夏。
息子の妻が、まず来て、帰り、
その次には、父の中学生の娘が来ます。
彼女らも、ジャージを着るのですが、こちらはバーゲンとはいえきちんとしたブランドもの。
女性が入ると、それなりに華やぎますな。
それにしても、この家、アシナガグモやら、カマドウマやら、虫がわさわさ出てきまして、私は、住めそうにありません・・・。
満足度★★★★