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日米首脳会談で安倍首相は「罠」にハマった 2017.2.11

2017-02-12 03:27:22 | Weblog

日米首脳会談で安倍首相は「罠」にハマった

 

ドナルド・トランプ米大統領は型破りで突飛なことをする。予測不可能で衝動的なので、日本をはじめ、世界は注意しなくてはいけない――。もし、あなたがこう信じているならば、すでにトランプ大統領に騙されているかもしれない。

「米国第一主義」を掲げるトランプ大統領は、これまでに通商問題や為替政策、在日米軍の駐留経費問題でさんざんと日本を批判してきた。しかし、2月10日の日米首脳会談後の記者会見では「われわれは自由で公平、両国にとって利益をもたらす貿易関係を目指す」「日本は重要な同盟国であり、日米同盟は平和と繁栄の礎だ」と日本を持ち上げた。

ニクソン元大統領の「マッドマン・セオリー」を実践

「狂気」を装いながら、結果的に極めて合理的に振舞っている。駆け引きの一環として、常軌を逸した過激な言動を意図的に繰り返し、交渉相手国に要求や条件を吞ませることに成功している。日本のメディアではあまり報じられていないが、これは、トランプ大統領が尊敬するニクソン元大統領の「マッドマン・セオリー」(狂人理論)を実践しているにすぎない。

安倍晋三首相はそんなトランプ大統領の「狂気な演技」に、外国首脳の中で、いの一番に騙されてしまったかもしれない。安倍首相はトランプ氏の大統領選挙当選後には、極めて異例となる大統領就任前の直接会談をニューヨークで急ぎ足に敢行。さらに、今回の日米首脳会談前には、米国で4500億ドル(約51兆円)規模の市場と70万人の雇用創出を目指す超巨大プロジェクトを矢継ぎ早にとりまとめた。

51兆円と言えば、日本のGDPのほぼ10分の1、日本の防衛費の約10倍にあたる相当な額だ。この投資の原資の一部としては、私たち日本人の老後の蓄えとなる年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の積立金をあてる案も検討されている。米国ではなく、需要不足で低成長にあえぐ日本の地でこそ必要な施策ではないかと思えるほどだ。

 
次ページ手持ちのカードを最初から大きく切ってしまった

 

トランプ大統領は選挙中から、自動車をやり玉に対日貿易赤字を問題視し、日本が輸出を増やすために為替操作で円安に誘導していると批判してきた。日本など同盟国の駐留経費負担が「不公平だ」と主張してきた。安倍首相は、そんな強硬な新大統領を何とかなだめるために、米国にすり寄る形で手持ちのカードを最初から大きく切ってしまった。一方、「マッドマン」を演じるトランプ氏は、一見すると突飛で非合理な行動でも、実に合理的な経済利得を得た。

安倍首相のほか、トヨタ自動車も、大統領就任前のトランプ氏からメキシコでつくる新工場についてツイッターで非難されたことから、豊田章男社長自ら米国に5年間で100億ドル(1.1兆円)を投資する計画を発表した(この投資計画自体は以前から策定されていたものであり、トランプ発言とは関係ないようだが)。

安倍首相も豊田社長も、トランプ氏の雇用創出の要求にすかさず応じる姿勢をみせることで、関係を良好に維持したいとの思いがあったのだろう。

おじけづいて次々と三振

しかし、野球で例えれば、米国人投手が最初に思いっきり日本人打者にビンボールを投げ、ひるませる。そして、「次もどんなビンボールが来るかもわからない」とおじけづいた日本人打者が次々と三振をしてしまったようなものだ。そして、官民そろって次々と米国に得点を献上している。

「思いやり予算」と呼ばれる在日米軍駐留経費負担も日本の財政難を受け、1999年度の2756億円をピークに減少傾向に転じ、現在は約1900億円で推移している。トランプ大統領の負担増を求める先制攻撃があり、日本側としてはこれ以上、減額することが事実上難しくなってしまった。

さて、トランプ大統領の行動にみられる「マッドマン・セオリー」とはいかなるものか。もともとはウォーターゲート事件で失脚したニクソン元米大統領が、外交交渉で重宝していた戦略だ。国家安全保障政策やビジネスなど様々な場で用いられるゲーム理論の1つとして知られる。

ニクソン元大統領の首席補佐官だったハリー・ハルデマン氏はウォーターゲート事件後に出版した回顧録”The Ends of Power”の中で、ニクソン氏が「マッドマン・セオリー」について次のように語ったことを打ち明けている。

「北ベトナムに、私が戦争を終わらせるためなら、どんなことでもやりかねない男だと信じ込ませて欲しい。我々は彼らにほんの一言、口を滑らせればいい。『あなたもニクソンが反共に取りつかれていることは知っているだろう。彼は怒ると手に負えない。彼なら核ボタンを押しかねない』とね。そうすれば、2日後にはホーチミン自身がパリに来て和平を求めるだろう」

このニクソン氏の策略通り、米国はパリ和平会議で北ベトナムに米国側の条件を承諾させることに成功した。ニクソンがクレイジーだから核ボタンを押しかねないと北ベトナムの指導者に思い込ませることによって、米国は効果的に外交的成果を得たのだ。

2016年12月20日付のワシントンポスト紙の記事によると、トランプ大統領はこのニクソン元大統領の「マッドマン・セオリー」を信奉している。トランプ氏は、予測不能で、長年にわたる国際規範に敬意を払わないという自らの評判を利用し、米国の敵対国をおじけづかせて譲歩するよううまく追い込んでいる。

なぜトランプ氏はニクソン氏を尊敬するようになったのか。

 
次ページニクソン氏を尊敬するようになったキッカケとは?

実は、実業家時代のトランプ氏は、ニクソン氏から手紙をもらったことがある。1987年12月のことだ。この手紙の中で、ニクソン氏は、元ファーストレディーの妻が、テレビ出演をしていたトランプ氏を「素晴らしい」と語ったと伝え、「トランプ氏が選挙に立候補すれば勝つ」と称賛した。トランプ氏はこの手紙を大切に保管し、現在はホワイトハウスの執務室に飾っている。

また、トランプ氏は、そのニクソン政権で、国家安全保障問題担当大統領補佐官や国務長官を歴任したキッシンジャー氏とも選挙中からたびたび会談してきた。中国との歴史的な和解を実現させるなど、米国の利益を最優先に置いた「現実主義の外交」を貫いたキッシンジャー氏から教えを乞うている。

トランプ氏の国家安全保障問題担当の大統領副補佐官には、キッシンジャー氏の側近で、FOXニュースのコメンテーターも務めた女性の保守論客、キャスリーン・マクファーランド氏が就いている。このため、トランプ政権には、新設の国家通商会議(NTC)のトップに指名されたピーター・ナヴァロ氏といった対中強硬派が多い一方で、ニクソン政権下のキッシンジャー外交戦略を受け継ぎ、米中融和を目指すのではないかとの見方もある。

中国に対しても揺さぶり

トランプ大統領は就任前、正式な外交関係がない台湾の蔡英文総統と異例の電話会談を実施し、「台湾は中国の一部」だとする中国政府の「1つの中国」政策の見直しを示唆した。そして、台湾問題を核心的利益とみなす中国政府の強い反発を招いた。

結局、9日の習近平国家主席との電話会談で、「1つの中国」の政策を尊重することで合意したが、トランプ政権はこの「1つの中国」問題を材料にし、中国に為替や通商面で米国の要求に応じるようゆさぶりをかけたとみられている。

前述のワシントンポスト紙の記事は、トランプ大統領の蔡総統への電話が突発的なものではなく、事前に十分に計画された計算尽くしのものだったと指摘している。

米国などとの環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)締結交渉にあたった甘利明前経済再生担当相もこうした見方に与する。甘利氏は10日夜のBSフジ番組「プライムニュース」で、「トランプ大統領は割とその時の思い付きで、極めて重要なことに簡単に触れるように言われがちだが、相当したたかにスタッフが戦略戦術を仕組んでいるのではないかという見方がある」と指摘した。

さらに、「あの大統領だから本当にやりかねないという雰囲気の中で、一番中国が嫌なことをあえてぶつけておいて、ある種、観測気球のように、貿易赤字の解消について真面目に取り組む意志があるのかどうか、踏み絵を踏ませながら行っている戦術ではないか」と述べた。

日本政府には、トランプ大統領の度重なる批判や挑発に踊らされることなく、「マッドマン・セオリーに基づくトランプ政権の次なる手」を見抜く眼力が必要とされているのである。

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日米首脳会談はいよいよ国民に見えない水面下の本物の交渉に入った

2017-02-12 01:16:45 | Weblog

日米首脳会談はいよいよ国民に見えない水面下の本物の交渉に入った
田中良紹 | ジャーナリスト
2/11(土) 21:23 (有料記事)

http://bylines.news.yahoo.co.jp/tanakayoshitsugu/20170211-00067596/


フーテン老人世直し録(281)
如月某日

10日に行われた日米首脳会談は想定通りの内容になった。安全保障では米国が沖輪の尖閣諸島を対日防衛義務を定めた日米安保条約第5条の適用範囲であると確認し、経済では麻生副総理兼財務大臣とペンス副大統領の間で経済関係強化のための枠組み作りを進めていくというものである。

尖閣への安保条約第5条の適用は、前回のブログにも書いたが米国にとっては痛くもかゆくもない。米国の基本原則は他国の領土問題に関わって自国の利益を損ねることは決してしないところにある。

米国は中国にびくつく日本から「言ってくれ」とせがまれるから言うだけで、そのために米国民の税金を使うことや米国民の血を流すことはしない。反面、適用すると言えば日本国民の税金が米国経済を強化するために使われ、米国経済にプラスになることが約束されるので言う。

これほど割の良い話はない。さらにそれを言えば日本人は米国の利益が日本の利益になると考えてくれるのだから大歓迎である。安倍総理をフロリダの別荘に招待するぐらいは安いものでお釣りが余るほどの話になる。

このところ移民問題で司法との関係を批判されてきたトランプ大統領は、日米首脳会談後は終始ご満悦の表情で会見に臨み、日米の協力関係を大いに持ち上げる一方、首脳会談の内容を具体的には言わず、これからフロリダの別荘で安倍総理と長い時間を一緒に過ごすことで「交渉を行う」と会見を締めくくった。

フーテンはここからが本当の首脳会談、トランプの言うディール(取り引き)が始まるとみている。おそらくビジネスマンとしてのトランプはこれまでもゴルフをやりながら数々のディールを行ってきたはずだ。ゴルフ場はトランプにとってディールのホームグラウンドなのである。

そこに安倍総理は引き込まれた。本人は祖父の岸信介がアイゼンハワー大統領とゴルフをやって信頼関係を築いた事を真似したいのだろうが、アイゼンハワーとトランプでは人間性に「月とスッポン」の差がある。第二次大戦の将軍で組織を束ねてきた人物と不動産業というヤクザな世界を生きてきた人間が同じであるはずはない。

しかも岸信介は吉田茂の敷いた「対米従属路線」を変更し、米軍を日本本土から撤退させて自主独立を勝ち取るために安保改定を行おうとした政治家である。社会党の加藤シズエらの提案を受け入れ、米国の前にまずアジア諸国との信頼関係を築き、それをバックに米国との交渉に臨んだ。その意味で米国大統領との信頼関係を構築する必要はあった。
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田中良紹
ジャーナリスト
1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。89年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■「田中塾のお知らせ」2月28日(火)19時~21時 場所:東京都大田区上池台1-21-5スナック「兎」(03-3727-2806) 東急池上線長原駅から徒歩5分■ 参加費:1500円 ■申込先:agoto@K6.dion.ne.jpに住所氏名明記で
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フーテン老人世直し録(279)

睦月某日

トランプ大統領の背後には、ベトナム戦争を終わらせるため中国と秘密外交を行い、米中国交正常化を果たしたキッシンジャー元国務長官がいて、「外交指南」を行っていると言われている。

ロシア政府と太いパイプを持つ石油企業エクソン・モービルの会長兼最高経営責任者レックス・ティラーソン氏を国務長官に推薦して米ロ関係を再構築させようとする一方、自らが訪中して習近平国家主席と会談するのと並行し、トランプ氏に台湾の蔡英文総統に電話させ、米国が「一つの中国政策」を見直す構えを見せたのはキッシンジャーのアドバイスだと言われる。

米国、ロシア、中国という三極のパワー・ゲームはキッシンジャー外交の得意とするところである。かつてキッシンジャーはニクソン政権の大統領補佐官として米国が泥沼に陥ったベトナム戦争から脱するため、米国の敵である旧ソ連と中国の間に楔を打ち込み、米中が手を組むことで旧ソ連を孤立させ、同時に旧ソ連ともデタント(緊張緩和)を行って危機からの転換を図った。

つまり米ソ二大国の対立という「冷戦構造」に中国を引き込み、三極によるパワー・ゲームによって世界を対立から安定の方向に向かわせたのである。そのキッシンジャーが93歳の老体に鞭打ってトランプ大統領の「外交指南役」を引き受けたのは、それだけ今の米国が危機的状況に陥っているということだ。

米国にとっての悪夢はロシアと中国が手を組み、そこに欧州も加わることである。欧州とアジアを合わせたユーラシア大陸は世界最大の大陸だが、ロシア、中国、欧州が一体となれば世界の覇権はユーラシアに握られる可能性が強まる。その悪夢が現実に近づいているとキッシンジャーは見ているのではないか。

 

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差別大国アメリカの「タテマエ」と「ホンネ」

  • トランプ大統領が次々に打ち出す大統領令で米国社会は真っ二つの様相だ。特に中東とアフリカ7か国の国民に入国禁止令を出したことで国民の反応は二つに分かれた。

ロイターの世論調査では49%が賛成、41%が反対なのに対し、ギャラップ社の調査では反対が56%と賛成を上回る。いずれにしても賛否は拮抗しているので米国社会は分断されたと言って良い。

そんな折に、現状を見通すかのようなアメリカ映画をケーブルテレビで見た。5年前に公開された犯罪映画『ジャッキー・コーガン』である。ブラッド・ピットが殺し屋のジャッキー・コーガン役を演じた。殺し屋が賭場荒しの強盗3人を始末する話なのだが、そのストーリーが08年のアメリカ大統領選挙と並行して展開する。

まず冒頭、うらぶれた白人の若者が新聞紙やほこりが風に舞う汚れた街を歩く姿に、どこからか黒人初の大統領候補オバマの演説が聞こえてくる。「アメリカの国民よ!この瞬間は我々にとってチャンスだ。自由の精神こそこの国を象徴するものだ。我々が自由に人生を描けるという約束だ」。

歩く若者の後ろにオバマの「チェンジ」の看板が見え、物語が08年の大統領選挙の時なのがわかる。その選挙戦の最中にリーマン・ショックが起きアメリカ経済は100年に一度という危機に見舞われた。

白人の若者は刑務所で知り合った男から仲間と2人で賭場から金を奪う計画を持ちかけられる。ここで格調高いオバマの演説と金も未来もない現実の若者とが対比される。2人は賭場荒しを引き受け大金を奪うことに成功する。賭場を仕切るヤクザは殺し屋ジャッキー・コーガンを雇い強盗と黒幕の殺害を一人1万5千ドルで依頼する。

いろいろ曲折はあるが殺し屋は3人を殺害する。その間にカーラジオや空港のテレビから未曽有の経済危機に陥った後のブッシュ大統領の言葉などが聞こえてくる。殺し屋が報酬を貰うためバーで雇い主と落ち合うラストシーン、バーのテレビには勝利演説をするオバマの姿が映っている。

「これが答えだ。老若男女、金持ちと貧困層、民主党と共和党、黒人、白人、先住民族、ゲイ、ストレート、みな平等だ。我々は個人の寄せ集めではない。我々は今も、これからも、党の違いを超え、我々はアメリカ合衆国だ。我々は一つの国家として栄え、衰える。我々は証明した。この国の真の力は武力や富でなく、たゆまぬ理想の力によると。民主主義、自由、チャンスと希望の力なのだ」。

オバマの支持者たちの熱狂的な歓声がテレビから流れてくるが、バーの中は静かで客は誰もテレビを見ていない。殺し屋は「金額が足りない」と文句を言う。雇い主は「不景気だから値下げした」と答える。そこに再びオバマの演説が聞こえてくる。「アメリカン・ドリームを取り戻し、我々は一つだと確認しよう」。

すると殺し屋が「一つの国民なんてジェファーソンの作った幻想だ」と言う。「ジェファーソンは聖人だ。すべての人は平等だと言った。だが子供たちに奴隷を所有させ、英国に税金を払うのを嫌がった。そしてワイン好きだ。民衆を扇動して大勢を戦争で死なせ、その間、ワインを飲み奴隷を犯した。何が一つの共同体だ。笑わせるな。アメリカで生きるのに頼れるのは自分だけだ。アメリカは国家じゃない。アメリカはビジネスだ。ちゃんと金を払え」。そのセリフで映画は終わる。

ジェファーソンとは、アメリカ建国の父、イギリスの植民地支配に抵抗して基本的人権を柱とするアメリカ独立宣言を起草したトーマス・ジェファーソンである。「すべての人間は平等である」というアメリカ独立宣言はフランス革命などその後の世界に大きな影響を与えた。アメリカ民主主義の源と言える。

しかし殺し屋が言うように本人は奴隷制廃止を主張しながら「黒人は白人より劣る」と考え、黒人奴隷を性の対象とする当時の風習を自らも実行した。第三代大統領になると先住民族インディアンの強制移住を立案し、反抗する部族には皆殺しの方針で臨んだ。背景には先住民族を優生学的に劣悪と見る差別主義があったと言われる。

またジェファーソンは個人の自由と権利を守るには政府を縛る必要があり、同時に自分のことは自分でする自己責任の原則こそがアメリカの美徳と考えた。「小さな政府」の考えはここから出てくる。殺し屋が言うようにアメリカは決して国民の面倒を見てくれない。自分の面倒は自分で見なければならない。だからアメリカは国ではない、ビジネスなのだ。

黒人初の大統領は世界を主導する普遍的価値、すなわちアメリカ民主主義を前面に押し出して国民を統合しようとした。しかしアメリカ人の「タテマエ」の裏には「ホンネ」が隠されている。オバマ大統領が弁舌巧みにアメリカ民主主義を訴えると、そのたびに隠れていた差別主義の「ホンネ」が呼び覚まされる。それを映画は見通していた。

オバマの頭脳が明晰であればあるほど、弁舌が巧みであればあるほど国民の中に違和感が残り、沈潜していた「ホンネ」が呼び戻される。自分より優れた黒人を見ることへの嫌悪感が湧いてくる。それが平気で「ホンネ」をしゃべるトランプに引き寄せられ、隠さなければいけないと思っていた差別主義が日の当たる場所に出てきた。

しかしアメリカ独立宣言の影響を受けた世界は、個人の基本的人権や民主主義を普遍的価値と考え、君主制国家の多い欧州にもその価値観は根付いた。これまでアメリカが世界をリードしてきたバックボーンにはアメリカこそ普遍的価値を追求する先頭ランナーだという世界の認識がある。

それが初の黒人大統領の誕生で証明されたと世界は考えていた。しかしアメリカ国内では黒人大統領の誕生が「タテマエ」の裏に潜む「ホンネ」を引き出しトランプ大統領を誕生させた。そのトランプ大統領は現在オバマの業績を消すことに躍起になっている。

入国禁止の大統領令はその現れで、欧州の政治指導者は軒並みこれを批判しているが、アメリカ国民の半数が支持している状況は、アメリカが「タテマエ」より差別大国としての「ホンネ」に傾斜していることを示している。

イギリスの歴史学者クリストファー・ソーンは『太平洋戦争とは何だったのか』(草思社)でルーズベルト米国大統領とチャーチル英国首相の書簡などからこの戦争には「人種差別的側面」があると指摘し、「欧州諸国よりアメリカの対日差別意識の方が強い」と書いた。

私は知日派のアメリカ人からかつて「日本は北朝鮮とキューバと並び、最も理解不能の国」と言われて驚いたことがある。中国は理解できるが日本は理解できないというのである。確かに中国人の国民性は日本人よりアメリカ人と共通する部分が多い気はする。日本人は自然を征服しようと思わず共生を考えるが、彼らは自然を征服しようとする。

そう考えると日本人はアメリカの先住民族と近い文化を持っているかもしれない。トーマス・ジェファーソンは先住民族の合議制で物事を決めるやり方やその文化に畏敬の念を抱き、アメリカの政治システムの参考にしたと言われる。しかし一方で、その独自の文化や生活習慣を捨てさせ、白人文化に同化させることを目指した。

「1000年はかかるだろう」とジェファーソンは言ったというが、それでも同化政策を推進するため先住民族を強制移住させ、反抗する部族は皆殺しにする政策を採った。80年代から日米摩擦を見続けてきた私には、異質な日本経済をアメリカに同化させるために採られてきた政策の数々にはジェファーソン時代と変わらぬ差別主義の「ホンネ」が見え隠れする。

トランプ大統領はしきりに80年代の日米摩擦時代と同じことを言う。それは同化政策がまだ未完了という意識の現れだと私は見る。ジェファーソンは「酋長」に命令すれば部族全体が従うと考えたが、合議制の先住民社会はそうしたやり方を認めなかった。それが皆殺し政策につながったと言われる。

トランプ大統領は安倍総理という「酋長」をワシントンDCとフロリダの別荘で歓待する予定だと聞いている。その狙いは自らの命令を実行させることにあるのだろう。「酋長」はその命令に従うのか。そして先住民と似た文化を持つ日本社会はそれに従うのか。我々は差別大国の「ホンネ」とどう向き合うかが問われている。

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フーテン老人世直し録(278)

睦月某日

米国のトランプ大統領は、オバマケアの見直し、TPP離脱、メキシコとの「壁」の建設、移民の制限強化など次々に大統領令に署名して選挙公約の実行を国民にアピールしている。オバマ時代の記憶を1日も早く消し去りたいようだ。

「ケミストリーが合わない(相性が悪い)」とみられたオバマ前大統領に安倍総理は「ネギ背負った鴨が這いつくばる」ように取り入り、日米同盟の復活強化を大々的に宣伝したが、トランプ大統領への交代によって再び「ネギ鴨」を演じなければならなくなった。

安倍総理にとってトランプ大統領とは「反リベラル」という共通項があり、オバマ前大統領よりケミストリーは合うはずだが、しかしオバマ時代に築いた日米関係をすべてゼロにしなければ許してもらえない。今度の「ネギ鴨」はこれまでより厳しくなることが予想される。

第一次政権時代の安倍総理にとって最大の敵は実は小泉純一郎元総理であったというのがフーテンの見方である。小泉元総理は安倍総理を後継指名して育て上げるつもりでいたが、安倍総理は就任するや否や、小泉総理が自民党から追放した郵政民営化反対議員たちを自民党に復党させた。

飼い犬に手を噛まれた思いの小泉元総理は中川秀直幹事長を通じて安倍政権をコントロールしようとし、安倍総理と中川幹事長の間には終始隙間風が吹き続けた。また小泉元総理の靖国参拝が日中関係を悪化させたことで安倍総理は自らの靖国参拝を封印せざるを得ず、それが支持者を裏切ることにもなった。

しかも誰もが認めるブッシュ・小泉の盟友関係に安倍総理は立ち入ることができない。米国の信頼を得たい安倍総理はインド洋で海上自衛隊が米軍に給油活動することを国際公約したが、2007年の参議院選挙で自民党が惨敗し国際公約を果たすことが難しくなった。

 

 

 

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