世界文学全集でよく目にした「ジェーンエア」だけど、読んだことも観たこともない。日中は炎暑のさなかだったので、扇風機を浴びながらそのDVDのお世話になる。小説家のシャーロット・ブロンテが『ジェーン・エア』を発表したのは、1847年。産業革命が進行し、イギリスが「世界の工場」とか「世界の銀行」と言われたヴィクトリア朝時代である。イタリア・フランスに遅れをとっていたイギリスが世界のNo.1となったころが舞台となる。
イギリスの産業革命は資本主義の急速な進行を産み出し、街には労働者階級が集まり、貧富の格差が増大するとともに、貴族の従来の基盤が崩れていく時代背景が読み取れる。そんな中、孤児院で育ったヒロインは既成のルールを飛び出し、自分の意思や考え方を少女時代から固辞していく。そこに、当時の女性の自立を貫く困難さがよく出ている。したがって、著者の当初の小説のペンネームも男性名だった。
いっぽう、精神障碍者の妻を持つロチェスター家の貴族の夫がもう一人の主人公だ。しかし、彼の複雑でミステリアスな性格に最後までハラハラする。それに翻弄されるヒロインだったが、その原因を踏まえた知性を持つ女性として心ひそかに彼に思いを寄せていく主人公の心の揺らぎを重厚に描いている。ロチェスター家の貴族は、オーソン・ウェルズが演じた。彼は監督として「市民ケーン」、俳優としては「第三の男」主演が有名。
19世紀中葉の大英帝国の光と影をバックとしながら、作者が経験した学校の不衛生でいじめ・校則への告発は現代でも通用する普遍性がある。また、女性の自立を阻む社会や労働、さらには精神障碍者への偏見なども現代性がある。
当時、イギリスを覆った霧の街は大英帝国の光と影の矛盾が随所に出てくる。繁栄の副産物として、「ドラキュラ」「ジキル博士とハイド氏」らの怪物たちの登場をはじめ、実際にあった「切り裂きジャック」事件などが社会の不安感を煽る。規律やモラルを重視する従来の社会・学校の体制との矛盾がいよいよ桎梏となっていく。ロチェスター家の主人の怪しさやヒロインの自立的な生き方の貫徹が、本映画の主軸となり、時代背景となってもいる。まさに、世界文学に成長していく中身を作品は用意していったというわけだ。