
初期の黒沢明監督のDVD映画「素晴らしき日曜日」を観る。戦後すぐの1957年公開の作品。したがって、焼け跡やドヤ街も背景に出てくる。「国鉄」ができる前の満員電車も出てくる。まばらに開店しているシンプルな商店や動物園・公園も戦後らしい。だから、本作品は往年の黒沢作品の目覚ましいテンポからすれば、きわめて地味である。脚本は植草圭之助。黒澤明とは小学校の同級生だった。音楽は服部正、聴きなれた曲が流れるが曲名がわからない。主演の沼崎勲は、有名俳優になったが、「東宝争議」に巻き込まれパージにも会い、その後独立プロで活躍していたが過労で37歳の若さで逝去。恋人役の中北千枝子は、名脇役として映画・テレビ・CMで活躍。
久しぶりのデートをした二人だが、金がない。貧しくも夢や希望を捨てずに生きていこうとするが現実に直面する。挫けそうになるトラブルばっかりが続く。草野球をやっていた少年たちのだぶだぶの服装はオラの少年時代にそっくり。また、主人公のアパートは雨漏りするのもわが少年時代と符合する(実は今住んでいる古民家もいまだにそうなんだが)。そんななか、二人で行けなかった「未完成交響曲」演奏会を二人だけで野外音楽堂(日比谷だろう)でエアー演奏を楽しむこととなる。そんな一日の長ーい「日曜日」だけの映画だった。
戦後のどさくさで希望を持つことは至難の業だったが、希望はないわけではない。そんなメッセージを黒沢監督は静かに誓ったような作品だった。起用している主演俳優はその後の映画には出てこないが、今後の黒沢映画の地歩を固める作品として位置づけられるに違いない。若き黒沢の感性がにじみ出た作品だった。それは今日の日本の現実を問う作品であることにも変わりはない。