50歳のフランス滞在記

早期退職してパリへ。さまざまなフランス、そこに写る日本・・・日々新たな出会い。

コミック・ヒーローの生みの親たち。

2007-11-26 05:27:58 | 美術・音楽
いつもはユダヤ民族の歴史や悲劇を紹介しているユダヤ美術歴史博物館が、今展示しているのは、何とコミック。こうした博物館までがコミック(マンガ)を取り上げるようになったのかと、驚いてしまいますし、コミックの世界的な広がりを感じてしまいます。



展示会のタイトルは、“De Superman au Chat du Rabbin”(「スパーマンからラビの猫まで」)。でも、どうしてここにスーパーマンが・・・


(博物館の中庭。ドレヒュス大尉の像の向こうに今回の展示会用のバナー)

実は、この展示会で紹介されているコミックの作者たちは、いずれもユダヤ人。だから、ユダヤ美術歴史博物館の企画展になっているのですね。でも、ご存知でしたか、スーパーマンの作者。



「スーパーマン」が誕生したのは1938年。アメリカのDCコミックス社が出す『アクション・コミック誌』の第1号に登場したのが始まりだそうです。原作はジェリー・シーゲル、作画がジョー・シュスター。クリプトン星人カル=エル、地球での名前、クラーク・ジョセフ・ケント。コミックはもちろんですが、テレビドラマや映画でも人気を博しているアメリカンヒーロー。日本でも1956年からテレビドラマとして放映され、何と視聴率74.2%を記録したとか! 1979年に日本で封切られた映画は、その年の配給収入、洋画部門で1位。スーパーヒーローと呼ぶに相応しい人気ぶりですね。

アメリカでのユダヤ人作家によるコミックは、1890年頃から現れてきたそうで、移民、あるいはその子供たちが、アメリカへわたってきてすぐの頃の苦労を描いている作品が多いようです。

そして、1930年代以降、次ぎ次ぎとヒーローが誕生していきます。ユダヤ人たちがアメリカ社会へ同化しようと模索している頃です。スーパーマンのあとは、1939年に産声を上げた「バットマン」。作者は、ボブ・ケーン。シリーズ映画化されていて、ご覧になった方も多いことと思います。スーパーマンともども、フィギュアの世界でも、人気の的ですね。

1940年(日本の資料では41年)には「キャプテン・アメリカ」が誕生。原作者はジャック・カービー。通称キャップと呼ばれるヒーローが、アメリカのため、自由のために超人的活躍をします。

この時代に生まれたヒーローたちに共通するのは、ユダヤ人たちの経験やその伝統が通奏低音として響いているとはいえ、前面に出ているのはアメリカという国に貢献しようという気持ち。ヒーローたちは、悪からアメリカを救うために活躍します。背景にはヨーロッパで拡大するファシズムに対する脅威があるようだとも言われていますが、さらに広い意味で、世界の秩序、人類普遍の価値・正義を守るために戦うわけです。だからこそ、多くの国で受け入れられているのでしょうね。

そして戦後、ホロコーストを生き延びた人々もアメリカへ移民してきます。また、アメリカ社会に同化しつつ、政治に関わるユダヤ人もふえてきます。そうした流れを背景に、新たな作品が登場します。

1952年に世に出たのが“MAD”。ハービー・カーツマンがはじめたパロディなど政治風刺の効いたコミック誌ですね。確か、早くから日本でも入手できたと思います。その風刺には、アメリカ社会への同化の曖昧さが影を落としているとも言われているようです。

また、ホロコーストを取り上げた作品では、1986年に、アート・スピーゲルマンによる“MAUS”が登場。副題に「アウシュビッツを生きのびた父親の物語」とあるように、実父の体験に基づいています。その内容もさることながら、登場人物を動物に置き換えたところが、斬新であり、分かりやすくなっています。

このスピーゲルマン、生まれはスウェーデン。ヨーロッパでも、ユダヤ人のコミック作家たちは活躍しています。彼らの作品に共通するのは、ユダヤの歴史・伝統が色濃く反映されていること。

今回の展示タイトルになっている“Le Chat du rabbin”はJoann Sfar(ジョアン・スファール)によって2005年から出版されているバンド・デシネ(マンガ)で、猫の口を借りて、アルジェリアのユダヤ人世界を描いており、フランスで人気の作品です(上の写真、左側の冊子の猫です)。



会場には、1912年から2007年の作品まで230点、そして資料が40点展示されています。ユダヤ人作家による、マンガ。その時代、その暮らす社会の特長もありますが、やはり底にはユダヤの歴史・伝統が共通してあるようです。しかし、それにしても、これほど多くのマンガ作家がユダヤ人にいるとは思ってもみませんでした。正直な感想です。

“De Superman au Chat du Rabbin”
ユダヤ美術歴史博物館(Musee d'art et d'histoire du Judaisme)
来年1月27日まで
土曜と1月1日休館
入場料=5.5ユーロ

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ユダヤ博物館 (ぐらっぱ亭( ̄ー ̄))
2007-11-26 11:23:27
そもそもこういう博物館の存在すら知りませんでした。無知は恐ろしい。次回パリに行く時は必ず訪問します。いろいろ啓蒙してもらって、ただ感謝です。
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開館 (take)
2007-11-26 18:39:12
ぐらっぱ亭さん

一般に開館されたのは1998年12月だそうで、まだ9年ですね。日本の旅行ガイドブックにはまだ載っていないかもしれないようですね。こちらの週間情報誌でご確認されて訪問されては、と思います。
返信する

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