活字の海で、アップップ

目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

ほんとにあった怖い話 2010年 3月号

2010-03-10 22:21:23 | マンガの海(読了編)
出版社:朝日新聞社 編集人:長谷川まち子 
定価:400円(税抜) 発売日:1月25日
特集:幽霊アパート・マンション


今回は、何とか次号発売前にレビューをお届けすることが出来る。

とはいえ。
発売日より、一月以上経過した今となっては、間延び感もアリアリ
ではあるが…。

気を取り直して、今号のレビューを。


今回のラインナップは、以下のとおり。

第1弾!
山の神秘と怪異
~日本の神山・霊山をたずねて~

第2弾!
氷室奈美のオーラドローイング
ゲスト・小林 薫

コミック:
・霊感お嬢★天宮視子「祟りの波紋」ひとみ翔
・霊感ママシリーズ「暗鬼の咆哮」<前編>高野美香
・「家庭教師は見た!~奇妙な友達~」 伊藤結花理
・「怪眼」伊藤三巳華
・スター・インタビュー ネズ村上「僕と僕らの狭間」画・筒井りな
・心の処方箋「インナーメディスン」『つながる想念』
                    原案:神楽ゆう 画・堆木庸
”幽霊アパート・マンション”特集
・「市内3LDKのケース」画・鯛夢
・「心を蝕む部屋」画・たにぐち智子
・「安家賃の理由」画・七色虹子
・「空室の呼び声」画・さがわれん


さて。
この中から、僕の私的ベスト3を選出すると…。
  

第1位:「家庭教師は見た!~奇妙な友達~」伊藤結花理

 この作品。
 正直に言えば、決して好みのタッチではない。
 僕がもっとも重視する画力も、ほん怖作家陣の中では標準的なレベルで
 あるが、決してうまい!と絶賛する程でもない。

 では。
 なぜ、あえてこの作品を推挙したのか。

 それは、偏に22ページ目(表紙含む)のインパクトによる。

 庭一面に置かれた小皿に、盛られた盛り塩。
 このページの持つ絶望的な狂気に、僕は惹かれたのである。

 この物語は、ある少女(とその家族)が霊をきっかけにして?崩壊して
 いく様を、その少女の友人の目線で述懐している。

 その少女は、崩壊していくその家の中で唯一、その崩壊を推し進めよう
 とする陰の力(どうやらそれは、行方不明になっている父親の霊らしい
 のだが…)と戦おうとする。
 
 その術として。
 少女は、周囲に結界を張るべく、盛り塩を盛り続けるのだが。

 最初は、部屋の窓辺に置く程度だったものが。
 霊のアプローチが酷くなるにつれて、それは徐々に日常空間のあらゆる
 ところに進出してくる。

 そして、とうとう教室の机の上にまで、盛り塩を置くようになった少女。
 その様を見て、盛り塩を片付けるように叱責する教師に対して、彼女は
 きっぱりと拒否をする。

 それは。

 自分たちを不幸に誘おうとする霊的なものへの徹底した抗弁のスタイルで
 有りながら、既に少女がのっぴきならない世界にまで引き込まれている
 ことを、悲しく示唆する。

 そして。 
 冒頭に記したように、少女がとうとう庭にまで盛り塩を置き出した時。
 それは。
 逆に少女を封印するための罠の口が閉じたことを意味していたのだろう。

 それ以降、少女は行方不明となり、その行く末はようと知れない。

 ただ。
 一人、陰と戦おうとして取り込まれていった、少女の哀しさが全編に
 漂っている感がよく出ていた。
 これをもって、1位に推挙した次第である。


第2位:「市内3LDKのケース」画・鯛夢

 僕の大好きな鯛夢先生の作品。

 しかも、この作品。
 作画中に、先生からtwitterで「今回は熟女の入浴シーンがあります」と 
 予告されていたために、楽しみ感も倍増であった(笑)。

 ストーリーは、札幌のとある一等地のマンションに出た格安物件。
 それに入居した一家が遭遇した怪異とは…。
 という、オーソドックスなもの。

 それでも。
 オーソドックスであるが故に、そのストーリーの持つ真実味が増してくる
 のだし、そもそも体験者の手記を脚色せずにそのままの形でビジュアライズ
 することがこの雑誌の真骨頂なのだと、鯛夢先生も仰られていたので。
 オーソドックスこそ、王道なのである。

 流れるようなカット割と、構図の見事さは。
 さすがに鯛夢先生である。

 今回も、その絵柄と合わせて本誌最高のゾクゾク感を味わわせて頂いた。
 
 特に気に入ったのは、11ページ目。
 ムンクの「吸血鬼」をオマージュしたかのような構図が、とても迫力あり、
 思わずヒンヤリとしたものを背筋に感じた。

 クライマックスの21ページ目の女の霊の後姿も、鬼気迫るものであったし、
 勿論目玉の熟女の入浴シーンも楽しませていただいた♪

 ただひとつ残念だったところは。
 3ページ目の食事が、登場人物が自画自賛するほどには美味しそうには
 見えなかったこと。
 
 食事の描画については、今ひとつのご研鑽をお願いしたいものである。
 (すみません。えらそうで…)


第3位:心の処方箋「インナーメディスン」『つながる想念』
                    原案:神楽ゆう 画・堆木庸

 今回のこの作品では。
 
 純粋に、”嫌だなあ”という思いを味わった。

 勿論それは、作画に対してではなく、「こんなことが本当にあったら
 嫌だなあ」というものである。

 誰かが、誰かを思うとき。
 その思いの念の強さによっては、生霊となって相手に実際に飛んでしまう
 ことがある、という。

 しかも、その本人の意思に関わらず。

 それは、怖い話しではないか。

 誰だって。
 誰かに対して、愛憎その他諸々の感情を持つことは有る。
 
 別に恋愛感情であれ、ビジネスライクな感情であれ。
 
 人間は感情の生き物である以上、人と接するところには必ず何らかの
 感情が生まれる。

 それを正直に相手にぶつかるかどうかは、当然その時に抱えた思いの
 内容や、相手との距離感様々な状況によって異なってくる。

 まあ、殆どの場合は。
 剥き出しの感情をぶつけることなんて稀で、自分の中に深く沈ませたまま
 となる場合が多いだろう。

 それでも。
 そうした(この思いは抑えておこうといった)本人の思いとは裏腹に。
 原初的に感じた思いが勝手に発動し、相手のところに現れるとすれば。
 
 自分でコントロール出来ないだけに、始末に負えない。
 
 思わず、”止めてくれ!”と叫びたくもなるではないか。

 「禁断の惑星」は、映画として純粋に楽しめたが、この作品ではなまじ
 登場人物も全て日本人で、身近な感情が扱われているだけに、かなりな
 インパクトをもって迫ってきてしまった。
 
 ちなみに、この作品では。
 誰かに恣意的にではないにせよ恨みを買ってしまった登場人物が、
 その人物の生霊に悩まされるという現象が描かれている。

 それに対する対処として、紹介されたものが。
 相手の欠点をあげつらい嫌うのではなく、相手のいいところを積極的に
 認める中で、今はお互いに関わる必要は無いから縁を断とうと相手を
 ”潜在意識の世界で”説得する、というもの。

 そうした潜在意識下での対話が相手に伝わっているとすれば。
 まさに、ユングの集合的無意識を地で行く訳であり。

 そうすれば、自分がこんなことやあんなことを思ったことも、相手が
 潜在意識にアクセスする術を持っていれば知られてしまうのか?
 それは嫌だぁ!という思いが、冒頭の叫びとなった次第である。


さて、主だったお気に入り作品は以上の3点だが。
自分としては、カラー第一特集の「山の神秘と怪異」も面白かった。

特に。
一度は行ってみたいと思っている富士山と三徳山が紹介されていたので、
尚更である。

霊感ママシリーズは、面白いんだけれど、最近スーパーママ化してきて
おり、おいおいどこまでいくんだろう?と思えてしまっている。

今回なんて、とうとう玲子さんでもあまりない前後編だもんなぁ。


後、自分の中では別枠扱いなのが、伊藤三巳華。
この人については、じっくりと書きたいので、いま少しコメントは避ける
とする。
したがって、ランキングも対象外。
それは、決してこの人の作品が面白くないのではない。
画力、ストーリーともに十二分に面白いのだ。
次回作では、じっくりと取り組みたいと思うので、しばしのご猶予を。


(この稿、了)


ほんとにあった怖い話 2010年 03月号 [雑誌]

朝日新聞出版

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