活字の海で、アップップ

目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

”実証”の名の下に■陸域観測技術衛星「だいち」(その4)

2011-07-11 22:19:14 | 宇宙の海

地球観測衛星による東日本大震災をはじめとした利用事例の紹介」
開催日時:2011年6月20日(月) 18時半~ 約2時間
会場:府大中之島サテライト 2階ホール
主催:Kansai Space Initiative:特定非営利活動法人関西宇宙イニシイアティブ
講演者:石館和奈氏((財)リモートセンシング技術センター 利用推進部)


■”実証”の名の下に

前回も提示した図を、説明の流れからここに再掲する。




この図からは。
平成19年(2007年)の「だいち」のデータ販売の開始以降、急速に
衛星データ販売事業の国内収入が増加していることがよくわかる。

それまでは、計画が常に実績を下回るという典型的な計画倒れの
張りぼて収支計画だったものが、一転して常に実収入が計画を
上回るようになったのである。

その乖離幅の上ぶれもH21年度では約1.9倍に達しており、当初計画時の
想定をはるかに上回る増収が発生していることが見て取れる。

その増収に、「だいち」がどれほど寄与しているのか。
RESTECの同じHP内にある事業報告書では、衛星データの総販売シーン
数における「だいち」の割合も記載されている。
その平成21年(2009年)版をみると、その比率は「だいち」が約9割と
なっており、同センターの事業において「だいち」が如何に大きな
ウエイトを占めているかがよく分るものとなっている。

これを見る限りは、「だいち」のデータ販売ビジネス事業はうまく
伸長しているように見える。

ところが。
データ販売事業の国外収入については。
「だいち」稼働後も、低下の一途を辿っている。

これは、同時期に他国の地球観測衛星も打ち上がったことにより、
データの入手先がパラレル化したことも大きな要因と言えるだろう。

 参考に、各国地球観測衛星の打ち上げ状況を以下に示す。


(出典:RESTEC HPにあった「世界の地球観測衛星」データブックより。
    最終更新年が平成16年(2004年)であり、データも当然古い
    ものであるが、「だいち」の打ち上げが決まった当時の背景
    を知る切り口として本データを採用した)

されど。
本来、そうした事態を想定し、競争力を高めるがための低価格設定
だったのではないか?
更に、自力で地球観測衛星を打ち上げられる国はまだまだ限られて
おり、途上国は既存の他国衛星データを購入していることを考慮すると、
そうした国々が「SPOT5」の1/20以下という破格値にも関わらず、
「だいち」のデータよりも他国の衛星データを選択したという推論も
浮き上がってくるのだ。


JAXAのHP等では、「だいち」データの国際利用の実態として、
 ・JICAとの連絡協議会を通じ発展途上地域へのデータ提供
  (インドネシアにおける森林資源管理支援プロジェクト等)
 ・ブータン王国経済省地質鉱山局と連携したブータン氷河湖台帳の
  の作成と、情報提供
 ・防災科学技術研究所を通じた衛星画像の提供
  チリ大地震
  ハイチ大地震
 ・国際協力プロジェクト「センチネルアジア」を通じてインド
  スマトラ沖自身の衛星画像の提供
 ・世界銀行を通じた中南米やカリブ海地域諸国に対する気候変動データの提供

 ・ブラジル JICAを通じたアマゾン森林保全・違法伐採防止のための
       ALOS衛星画像の利用プロジェクト
等が挙げられている。

そして。
奇しくも、「だいち」が力尽きたのとほぼ時を同じくして発表された
「リモートセンシングの今後の方向性と文部科学省/JAXAの基本的役割」
平成23年4月25日
 においては、「だいち」技術の国際優位性が誇らしげに
語られている。

が、しかし。
この国外部門への「だいち」データ売上の状況を見る限りは、星島氏の

JAXA-ALOS(だいち)はJAXAの支援で画像販売をはじめているが、
 国際的な賞賛は得られていない。無料同然で販売しているが、
 「高くて買えない企業が仕方なく購入」したり「国際協力で
 無理やり買わせているか、無償提供」したり「地震後の観測で
 地殻変動を観測」してJAXAは成果を誇っているのが現状だ。』


という辛辣な指摘も、あながち誇張とばかりも言えないのではないか、と
思えてしまうのである。

 ※ ただし、星島氏の記述にある「」付き発言は、出典が明示
  されていないため、その真偽を確認する術がない。

ただ。
そもそもが、少なくとも現時点ではJAXAが衛星データの販売を事業として
みていないことが、明示されている資料がある。

平成23年3月10日に開催された、宇宙開発戦略専門調査会 リモート
センシング政策検討WG。

そこに、文部科学省とJAXAが連名で提出した「リモートセンシングの
今後の方向性と文部科学省/JAXAの基本的役割」という標題の
資料が提出
されている。

先ほど、約ひと月後に発表された全く同名の資料も紹介した。
どちらも、宇宙開発戦略専門調査会にて発表されたものであるが、
先に紹介した資料は本会議で用いられたものであり、より基本的かつ
概要的な内容であるのに対し、今回紹介する資料は分科会に相当する
リモートセンシング政策検討WGにて発表されており、
 ・より、内容が専門的になっていること 
 ・記名資料であること
が大きな違いとなっている。

そこから、インパクトがある一文を抜粋して紹介しよう。

 「(参考)JAXAの現在のデータ配布方針
    1 JAXAが開発・運用する衛星について、JAXAが原則実費
     または無償で提供
    2 ただし、高分解能衛星などの市場が形成されている分野に
     おいて、JAXAが開発・運用する衛星が活用可能な場合は、
     民間を通じて、民間が自ら設定する価格で提供」

「リモートセンシングの今後の方向性と文部科学省/JAXAの基本的役割」
  文科省研究開発局宇宙利用推進室長 松浦重和
  JAXA 宇宙利用ミッション本部理事 本間正修 

 平成23年3月10日 宇宙開発戦略専門調査会
            リモートセンシング政策検討WG資料 P18より

つまり。
文科省とJAXAは、現時点では衛星データで金儲けをする積りはない。
そう、言いきっているに等しい。

しかも、この資料が周到なところは、ちゃんと逃げ道も用意されている
ことである。

P6にある、「PPPによる官民連携の推進」と題された資料。
PPP:Public-Private Partnership (官民連携)の意味であり、この標題は
文脈的におかしい。
が、問題とするのはそうした些末なところではない。
その下にある、今後の日本の地球観測衛星(ALOS)のロードマップイメージ
において、
 ・2014年度に打ち上げ予定(これすらも、まだ決定はしていない)の
  ALOS3までは、利用実証であること
 ・20XX年度以降(つまり、現段階では全くの絵に描いた餅)のALOS4より
  実利用を目的とする
と明示されているのである。

つまり、今はまだ利用実証期間中なので、金儲けは考えていません。
そこで得られた知見はあくまで衛星技術開発に関するものが主体であり、
それ以外の衛星運用によるデータ等は副次的なものなので、それらは
無償で提供しても問題ありません、という布石を打っているのである。

しかしながら。
先にも触れたとおり、フランスがスポット・イマージュというPD会社を
通じて世界各国で積極的にデータの外販活動を行っているスタンスと
比較すると、その後ろ向きさ加減が際立つではないか。

そして。
文科省とJAXA自らが語った、以下の言葉。

「高分解能衛星などの市場が形成されている分野において、JAXAが
 開発・運用する衛星が活用可能な場合は、民間を通じて、民間が
 自ら設定する価格で提供」

この言葉と、RESTECにおける国外データ販売の低迷を掛けあわせれば、
結局は「だいち」のデータが他国の地球観測衛星と伍するレベルの商品
価値を有していないことを、雄弁に物語っているのである。


もっとも。
この問題を複雑にしている大きな要因が、まだ一つ有る。
それが、「日米衛星調達合意」である。


(この稿、続く)


「だいち」の目 宇宙から写した世界の壮観・奇観
クリエーター情報なし
日経ナショナルジオグラフィック社


宇宙をつかう くらしが変わる (日本の宇宙産業)
クリエーター情報なし
日経BPコンサルティング



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