活字の海で、アップップ

目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

見えない巨大水脈 地下水の科学

2009-06-12 00:04:07 | 活字の海(書評の書評編)
著者:日本地下水学会/井田徹治 講談社ブルーバックス刊 987円
2009年5月21日 初版刊行
サブタイトル:使えばすぐには戻らない「意外な希少資源」
書評サブタイトル:◇生命と文化を支えてきた「陰なる水」

※ この書評の原文は、こちらで読めます


地下水と聞いて、現代人が思いつくものといえば、例えば工業用水の
過剰取水による地盤沈下だろうか?

あるいは、ダウジングによる水脈調査を行っているイメージ。

人によっては、まだ井戸を連想する場合もあるかもしれない。

だが。
その先に、どれほどの世界が広がっているのかについて、
正確な認識を持つ人は、殆どいないのではないか。

例えば、京都盆地の地下には、琵琶湖に匹敵するくらいの水源が
眠っている。
そう聞いて、驚かない人は稀だろう。

日本は古来、水と緑の国とはよく言われるが、その言葉が文字通り
真実であったと思い知らされたのは、正に本書(正確に言うと、
本書の書評)からであった。

そうした日本、あるいは世界の地下水の実情を俯瞰した後に、
本書では地下水の将来性についても目を向ける、と評者は語る。

目に見えないが故に、資源という認識が乏しく、どこまでも自由に
使えるもの。
そんな感覚が地下水にはあった。

それが嵩じて、先に挙げたような地盤沈下や汚染問題等が引き
起こされてきているのだが、近年の科学的調査技術の発達によって、
かなり正確に地下水の実態が地中ソナー等を通じて把握出来る
ようになってきたことを受けて、そうした地下水を如何に維持、
運用していくのかという議論が、本書を起こした団体である
日本地下水学会等で活発に行われ、それがやがて社会にフィード
バックされてくるとすれば、これこそは正に正しい科学技術の
援用方法だ、と評者はこの書評を締めくくる。


ただ。
原著を読んでいないので、正確なニュアンスが分からないために、
判断が難しいが、この書評の表現を読む限り、僕としては少し
不安を感じる。

少し長くなるが、その部分を引用しよう、

『地下水を可視化しその動態も含めて総合的に理解する「地下水の
 流域管理」という概念は、興味を引く。
 目に見えなかった地下水にも、川や空気同様「公共のもの」という
 考えが生まれ育っている。

 私たちにとって、大事な水だ。

 その重要な部分を担う地下が見えてきたことはともかくも大きな
 進歩なんだと、そう思いたい。』


なんとなく、ここには20世紀的な、科学技術の進歩による自然の
調伏というニュアンスが籠められている、そのような印象を拭い得ない。

資源管理という概念が無かった地下水に、その正確な総量を把握し、
汚染状況や流量の定期的な測量と分析を行うことで、資源管理を徹底
していく。

決して間違ってはいないそのスタンスについて、不可視なものとして
従来畏敬の念を持って接してきた自然を、むりやり解体し、
組みしだいている。

そういった感覚を持ってしまうのは、僕が文型人間だからだろうか。


不思議なこと。不明なことを探求し、知の光の下に晒していく。
その行為は、正に人類の持つ探究心の発露であり、間違ってはいない。

ただ。
古来。日本人は、自然を神として崇拝してきた。
それは、自然が対立すべき存在であったイスラムやユダヤとは、
全く異なるコミュニケートの方法だっただろう。

そんな日本人にとって。
光差すこともない、遥か地中を轟々と流れる地下水脈。
この言葉に感じる、深遠な響きの不思議さ。

見ることが出来ない存在だからこそ。
その全容は茫漠として不明である。

但し、はっきりとしていること。
どんな田畑も、いやどんな命も、水源無くしては存在しえないこと。

それゆえ、農耕民族である日本人は八百の神の中に、水神である
水分神(みくまりのかみ)を観た。

水分神は、水配りの神でもある。
水源地や用水路の分岐点に祀られた水分神は、人々に水の恵を
与え、そしてまた水を異界(=神の国、海)へ運び去っていく。

どれほど、科学技術が発達しようとも。
人々は、お正月には初詣に行く。
子供が生まれたらお宮参りにも連れて行く。
七五三でも、また然り。
そして、車には神社のワッペンが貼られ、
企業の社屋屋上には、小さな祠が設けられたりする。

日本人は、そうした営みを通じて、科学と神との折り合いを
つけてきた。

和洋折衷という言葉に代表されるように、日本人は凡そ性質の
異なる二者の折り合いをうまくつけながらやっていくことが
出来るという特質を持っている。

この二人三脚を続けていくことが出来れば、自然を畏敬すると
いう古来の智慧が、僕達をよりよき方向へ導いてくれると思いたい。

(この稿、了)


見えない巨大水脈 地下水の科学―使えばすぐには戻らない「意外な希少資源」 (ブルーバックス)
井田 徹治,日本地下水学会
講談社

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同じ作者のこちらも面白そう。
だけど、確かこの本。本屋さんで立ち読みして、何だか無理がある
こじつけめいた論旨が多いなあと、購入を断念したような微かな
記憶が…。
まあうろ覚えだし、AMAZON諸氏の評判は概ね良いので、
手を出してみるかな。
データで検証!地球の資源ウソ・ホント―エネルギー、食糧から水資源まで (ブルーバックス)
井田 徹治
講談社

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マルチに手を出しているなぁ。この作者。
まあジャンルと傾向は、絞られているけれど。
この本は、タイトルが上手い。
誰でも、おお!?と思って手にとってしまいそうになるわな。こりゃ。
サバがトロより高くなる日
井田 徹治
講談社

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