活字の海で、アップップ

目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

悪霊の島(上・下)

2009-10-15 03:46:00 | 活字の海(書評の書評編)


著者:スティーブン・キング((文藝春秋・各2100円)
訳者:白石朗
評者:養老孟司  毎日新聞 2009年10月11日 東京朝刊

※ この書評の原文は、こちらで読めます

本書サブタイトル(上巻):《恐怖の帝王》、堂々の帰還。
本書サブタイトル(下巻):溺れ死んだ双子。闇に沈む船。
書評サブタイトル:今回も主人公は得体の知れぬ敵と戦う


う…ん。
微妙だなあ。

正直、この書評を読んだときの所感である。


スティーブン・キングは、大好きな作家である。
それは、間違いない。

但し、全ての作品においてとなると、答えは変わってくる。

悲しいかな、全ての作品において。
少なくとも僕の好みの等高線は、同じ高さにあり続けている訳ではない。

しかも、どちらかといえば、好みの作品は前期に集中している。

【超自然的な恐怖系】
「キャリー」
「シャイニング」
「ペット・セメタリー」
「クリスティーン」
「痩せゆく男」
「デッドゾーン」

【人間が怖い系】
「ドロレス・クレイボーン」
「ジェラルドのゲーム」
「死のロングウォーク」
「ミザリー」
「ファイアスターター」

【自然的な恐怖系】
「クージョ」
「恐怖の四季」

その他…。

全く。
この辺りの作品については、正に恐怖の帝王の名に相応しい戦慄と
悲鳴に満ちていた。


それが…。
ついていけないという感覚に囚われるようになったのは、いつの頃
からだったろう。

世の中的には名作の誉れ高い「IT」。
僕は、あの作品は実はあまり好きではない。

中盤までは、本当に怖かったのだけれど。
ラストで明らかになった敵の存在が、僕の感覚とは相容れなかった
という記憶がある。
#映像となると、その違和感は最たるものを感じた!

それから…。

「トミー・ノッカース」
「アトランティスの心」
「回想のビュイック8」

となってくると、そのトレンドはいや増すばかり。

その理由は、何と言っても恐怖の核を為す存在に尽きる。

ある作品では、それが消化不良だったり。
また、ある作品ではあまりに観念的な存在だったり。

別に、超自然的なものの存在をもって、あげつらう気は更々無い。

初期の作品群には、「シャイニング」をはじめ、超自然的な恐怖を
描きながら、それが作品世界としっくり溶け合い、恐怖を誘う類の
ものも多数存在しているからだ。

それが…。
中後期の作品群からは、どんどんとそうしたテイストが喪われて
しまった。

勿論、キングの筆致の冴えは、それぞれの作品の中にもきらりと
光る情景を多数盛り込むことに成功している。

にも関わらず。
中後期の作品群からは、恐怖の存在が作品とうまく馴染んでいない
ような、そんな違和感を感じさせられていたのだ。


その結果。
直近では、未読の作品も増えてしまっている。
また、あのボリュームを読んだ上で、あの失望感を味わうのでは
無いのか?

その危惧は、なまじ個々の描写の妙があるだけに、より一層大きく
立ちはだかってしまい、手に取る気力を萎えさせてきたのだ。



今回の作品では、それがどうなのか…。
書評を読む限りにおいては、「シャイニング」系の直系ホラー小説
のラインナップにも思える。

それは、帯コピーの「《恐怖の帝王》、堂々の帰還。」にも現れて
いるのではないか?

結局、皆感じていたものは同じだったのかもしれない。

で、あれば。

この作品には、期待できるではないか。


ただ…。
書評の描写を読む限りでは、やはり恐怖の核となるものの扱いが
気になるところである。

まあこれ以上は書評をベースに論じていても仕方がない。

まずは読んでみて!
自分で判断する。


そうした眼力が求められるところである。


さてさて。

その読後感が、失望の溜息か、満足のそれか…。


秋の夜長。
そうした恐怖とも戦いながら、ページを紐解いてみることとするか。


(この稿、了)



(付記)
文藝春秋のホームページでは、AMAZONのように作品を一部
立ち読みできるサービスをしていることに、初めて気がついた。

どちらが古いのかは不明だけれど…。

ちなみに、「悪霊の島」は、こちらで立ち読み出来ます



(付記2)
しかし、養老氏とキングは、正直意外な組み合わせだった。

まだまだ自分も見る目が無いことを、深く反省させられた書評だった。



(付記3)
意外だったのは、養老氏の書評中で「ペット・セメタリー」「ローズ・
マダー」といった作品が(品切れ)と標記されていたこと。
どちらも(特に「ペット・セメタリー」!)好きな作品であり、
かつ人気作家のキングということからも、そう簡単に品切れには
ならないと思っていたのだけれど…。

AMAZONで見ても、確かに新刊の案内は無い。

まあ(品切れ)とあるだけで、(絶版)でないのがまだ救いだけれど。

出版社がまたキング特集等をするときには増刷を入れてくれる。
そう理解している。







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