活字の海で、アップップ

目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

振り向き 歩こう  ~この国はどこへ行こうとしているのか

2009-10-14 02:21:00 | 活字の海(新聞記事編)
2009年2月9日(月) 毎日新聞 夕刊 6面 ワイド
コーナー「読ん得」より
インタビュイー:永六輔(ラジオパーソナリティ)
インタビュアー:中川紗矢子(毎日新聞記者)



のっけから、永六輔氏がインタビュアーにぶつけた言葉がユニーク
である。

「実は明治維新は終わっていないんじゃないか」


聞くものに「え!?」と思わせ、いやが上にも先を聞きたい気に
させるのは、長年ラジオのパーソナリティーを勤めている性の
ようなものか?

それは、ともあれ。
氏がそう思う理由は、明白である。

政治の世襲や、セーラー服や学生服が元々軍服だったことを例に
挙げて、見た目ほど世間の本質は何も変わっていない。

ということは。

明治維新という、国家体制がドラスティックに転覆した歴史上の
大転換点を経験しながらも、未だに日本人は過去世界である江戸
時代の卵の殻を引き摺ったままなのではないのか?


まず。
その問いかけにより、相手のペースを奪った後に。


次は、憲法の話し。

こちらは真逆に。

今の政治家は、99条にある憲法遵守の精神を皆が蔑(ないがし)ろ
にしていると。

憲法は、日本人の生き方の規範を示してくれている。

その具現化が9条であり、そうしたすばらしい憲法の墨守を公務員等に
求めたのが99条。

それにも関わらず。
昨今の政治家は、憲法を守るどころか安易に書き換えることしか脳裏に
無い。

そう、憤(いきどお)る。


変化の無さへの失望と、変化への忌諱感。


ベクトルの異なる二つの話しをぶつけて、会話のペースを奪い、相手の
意識を釘付けにするテクニックは、流石である。


そうした問題の元凶が民意の低さ。

そして。
それを生む土壌となっているのが、テレビというメディアだと氏は語る。

テレビの怖さは、そこに映し出されたものの真贋が不明となり、見ように
よっては全てが疑わしく、全てが真実とも思えてしまう。

結果。
見ている側の判断能力を奪ってしまうテレビという存在は、人間には
早すぎたツールだったのかもしれないとまで、氏は言及する。


その状況を打破する方法としては、人々が偽りの映像に左右されること
無く、自分で自分の立脚点をしっかりと確立していくより他無い。

それを実現するための方法として、氏が提唱しているのが。

タイトルにもある、振り返りながら生きる、というものである。


目の前を刹那的に通り過ぎる映像というものを追い続けることは、
思考能力の停止を意味する。

それよりも、自分の、引いては国の歴史を常に振り返って、あの時、
あの選択が正しかったのかと、常に内省する視線を皆が持つことが
出来れば。


勿論。
後付で、したり顔で歴史を解説する傍観者になってはいけない。

更に、過去はあくまで過去であり、未来は過去を参照しつつも
常に何が起こるかわからないという緊張感でもって迎えねばならない。


キリコゲールが語ったように、

「人生は時間を遡って理解されるものだ。
 だが、人生は時間を下って生きなければならない」

のだから。


それでも。
過去に起こってきた膨大な歴史の蓄積から学ぶことは、予測不可能な
未来を照射する光というツールを手に入れることに他ならない。

たとえ、どれほどその光がか細くとも。
また、一部のみを照らすことで、全体を見誤る危険があろうとも。

どう活かしていくかは、人の営みの永遠の課題として取り組むべき
であり、そのための重要なツールとして、過去は存在するのだから。


氏が訴えたいことは、こうしたことなのだと思う。


僕達は、歴史から学ぶことが出来る。
それは何も、大上段に構えた規模でなくてもいい。

今日やった失敗。
それをきちんと検証し、繰り返さないように自らを修正していく。

それが出来る人間こそが、人生を能動的に生きていると言えるの
だろう。


と、言いつつも。

僕自身、つい日々の営みの中での膨大な経験を、有効に蓄積出来ずに
同じ失敗を繰り返すことをやりがちである。



せめて、このブログが。

自らの思考を振り返る一助になれば、とも思う。







(この稿、了)


(付記)
かつて氏は、「上を向いて歩こう」という名曲を生み出したが、
今必要なことは、後ろもしっかりと振り返りつつ歩こう、という
ことのようである。

上を向いて歩こう (The Sukiyaki Song) - Acoustic Cover




(付記2)
氏が、パーソナリティーを勤めるラジオ番組。
土曜ワイドラジオ東京 永六輔その世界」TBS

なんと、もう40年以上も続いているというから凄い。
しかも、永六輔氏は、そのパーソナリティの初代にして6代目。

素直に、その凄さに感嘆する。





言っていいこと、悪いこと―日本人のこころの「結界」 (知恵の森文庫)
永 六輔
光文社

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