伊陽山家に、うにといふ物有り。土の底より
掘り出でて薪とす。石にもあらず、木にもあ
らず、黒色にしてあしき香あり。そのかみ高
梨野也(やや)是をかがなべて曰く、本草
(ほんぞう)に石炭と云ふ物侍る。いかに云
ひ伝へて、この国にのみ焼(た)きならはし
けん、いと珍し。
香に匂へうに掘る岡の梅の花 芭 蕉
「香に匂へ」が、古歌を彷彿させる発想で、古歌にはない、ざらざらした現実を詩化しようとしているところに、俳諧への努力が見られる。
「うに」は「雲丹」で、伊賀・伊勢地方の方言で「泥炭」のこと。
「そのかみ」は、事のあったその時、の意。
「高梨野也」は、名は揚順。京都の医師で梅盛門の俳人。
「かがなべて」は本来、日数を重ねて、の意。ただこれでは意味が通じない。「かんがへて」の誤写か、あるいは「かがなべて」を「かんがへて」の意に誤解していたものか、どちらかであろう。
「本草」は『本草綱目』。薬物となる動物・植物・鉱物などについて記した書。
季語は「梅の花」で春。
「泥炭(うに)を掘っている岡のあたりは、土を掘る荒っぽい人の姿、
掘り返された土、いやな臭いなどまことに趣がない。だが、そこに
咲いている梅の花よ、この悪い香にまぎれることなく、よい香を放
っていてくれよ」
座左の絵の育つにあはせ日脚伸ぶ 季 己
掘り出でて薪とす。石にもあらず、木にもあ
らず、黒色にしてあしき香あり。そのかみ高
梨野也(やや)是をかがなべて曰く、本草
(ほんぞう)に石炭と云ふ物侍る。いかに云
ひ伝へて、この国にのみ焼(た)きならはし
けん、いと珍し。
香に匂へうに掘る岡の梅の花 芭 蕉
「香に匂へ」が、古歌を彷彿させる発想で、古歌にはない、ざらざらした現実を詩化しようとしているところに、俳諧への努力が見られる。
「うに」は「雲丹」で、伊賀・伊勢地方の方言で「泥炭」のこと。
「そのかみ」は、事のあったその時、の意。
「高梨野也」は、名は揚順。京都の医師で梅盛門の俳人。
「かがなべて」は本来、日数を重ねて、の意。ただこれでは意味が通じない。「かんがへて」の誤写か、あるいは「かがなべて」を「かんがへて」の意に誤解していたものか、どちらかであろう。
「本草」は『本草綱目』。薬物となる動物・植物・鉱物などについて記した書。
季語は「梅の花」で春。
「泥炭(うに)を掘っている岡のあたりは、土を掘る荒っぽい人の姿、
掘り返された土、いやな臭いなどまことに趣がない。だが、そこに
咲いている梅の花よ、この悪い香にまぎれることなく、よい香を放
っていてくれよ」
座左の絵の育つにあはせ日脚伸ぶ 季 己