すんけい ぶろぐ

雑感や書評など

西原理恵子「女の子ものがたり」

2005-06-06 09:04:10 | 書評
シンナーで歯がない不良を見ると、恐い以上に切なくなります


「少年マガジン」を毎週号読んでいます。

一番好きな漫画は、当然「ネギま!」ですが、二番目に好きな漫画は「伝説の頭 翔」です。

男気一本で、汚れた大人世界に立ち向かっていく伝説の頭(「ヘッド」と読みましょう)には、いつも頭が下がります。

しかも、(努力はなく、精神論だけで)必ず勝っちゃいますし。
大したものです。


まぁ男性の描く不良漫画というのは、不良の主人公が(無駄に)神格化されがちです。(「サラリーマン金太郎」も、結局は、その亜種ですから、たいていのことは主人公独特の精神論で解決してしまいます)


しかし、現実は、そうそう簡単にいかないわけでして。


――地元の族の頭はしんちゃん
  うちの町内で一番不良で 一番びっとしてて 一番かっこよくて
  あこがれのしんちゃん。

――シンナーが大好きで しんちゃん
  シンナーの吸いすぎで 顔がいっつも変なピンク

(中略)

――不良の兄さんや姉さん達は みんなすごくかっこいいけど
  シンナー吸うと みんな すぐ泣くし わめくし あやまってるし
  逃げ回るし よだれたらすし

――なんかちがう

――それから しんちゃんは バイクでしんで

――夜ふけの事故現場に 全員正装で集合
  全員がタバコに火をつけて焼香

――なんかちがうよ

――だーれもしんちゃん死んだこと
  かなしんでないし

――しんちゃんも ここにいるみんなも かっこわるいし

――私は一晩ねむると しんちゃんの事を忘れた。
西原理恵子「女の子ものがたり」第十五話 小学館


男の不良漫画は、「永遠の勝利」とか「栄光のロードへ」みたいな終わり方をするように思えますが、どうでしょう?
「世界に妥協するのではなく、いつまでも戦い続けてやる!」という、いかにも男らしい終幕を、何度も見たような気がします。

それに比して、女性の描く不良漫画というのは、世界との和解が描かれることが多いような気がします。「ホットロード」みたいに。

なんか、男性性と女性性を、そのまま反映しているように思えるのですが、どうでしょう?


で、西原理恵子「女の子ものがたり」。「上京ものがたり」の姉妹編にあたる本です。


情け容赦のない、リアルな不良像です………。片田舎でいい気になっている不良が、なんとも言えない哀感をともなって、真正面から描かれています。

でも、別に不良に対してだけ、厳しい視線を向けているわけではなく、西原理恵子の視線は、どのシーンでも安易なロマンチシズムに陥ることはないです。
だから、子供時代の話も、子供特有の無邪気な悪意をきっちりと描いてまして、ひどく残酷です。

で、ありながら、時に優しさの垣間見えるコマがあり。

酒を飲んで、泣きたい夜に、うってつけの本です。


上京ものがたり

小学館

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女の子ものがたり

小学館

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本宮ひろ志「サラリーマン金太郎 (21)」

2005-06-05 08:24:15 | 書評
ワイはサルや、サラリーマンサルや


「サラリーマン金太郎 (21)」。

いつものように、金太郎が怒って、それに触発された二代目のボンボンが覚醒します。
これまでは他人の目を気にして虚勢を張っていた二代目。しかし、「すべてをさらけ出す」ということなのか、二代目のボンボンはパンツ一丁の裸になって、街頭演説をするまでに、成長(?)します。

それに応えるべく、金太郎は、かつての八州連合(暴走族)の仲間を集めます。そして、ボンボンを担いで街中を暴走です。
もちろん、バイクはノーヘル、車は箱乗り、格好は特攻服です。

公職選挙法には抵触しないから、大丈夫なんでしょう……………、きっと。


で、僅差でボンボンは敗れてしまうのですが、「まぁいい勉強になった」ということで、一応、この選挙編のエピソードは大団円です。

そんで、また会社に戻って、新人研修です。
今回は、そこから今日の名言を。
俺は野生のサルだ!!
てめえら学生上がりは 何もしねえうちから猿回し気どってる所あるからよォ
この俺が徹底的にサルに叩き直してやるぜ!!
とりあえずだ…
お前ら全員… 辞表を書け!!
その理由はだ!!
会社って猿回しが首に巻きやがったヒモをぶち切り
野生のサルになる為だっ!!
本宮ひろ志「サラリーマン金太郎 (21)」112頁 ヤングジャンプ・コミックス
で、新人研修が終わると、金太郎は、有言実行で会社を辞めてしまいます。そんで、米国留学です。

リストラされる社員がかわいそうだと新会社を立ち上げたかと思えば、今度は一方的に会社を捨ててしまう。

相変わらず、なにがなんだか。

サラリーマンの鉄則 その二十一。
「自分に正直に。飽きたら辞めればいいじゃん!」


サラリーマン金太郎 (21)

集英社

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富野由悠季「Zガンダム -星を継ぐ者-」

2005-06-04 08:48:09 | 映画評
「PATLABOR 3」よりは、人がいた


去年までは東京にいたのですが、今年からクソ田舎にいます。
………クソ田舎ですが、なぜか「Zガンダム」の劇場版が公開しています。

そんなにニーズがあるのだろうか? 映画館の選択眼の広さに感心すると共に、経営手腕には一抹の不満を感じます。貴重な映画館ですから、なくなっては困るのですが…………。


で、昨日はお休みだったので、朝一から見てきました。平日の、さらに午前中ですから、観客などおるのだろうか? もしかして、貸切か? 貸切だと、大川隆法の映画以来だな、と心配だか期待だか分からない気持ちで映画館に入りましたが、けっこう人がいました。十人前後ですけど。


映画は、基本的にはテレビ版のまんま。

特に最初の三十分くらいは、テレビ放映時の使いまわしばかり。
クソ田舎とは言え、映画館。映画館ですから大画面。音も素晴らしい。が、画面には80年代まんまのクオリティーの動画。
それなりに高い金を出して、俺は何を見ているんだ? という感情もないわけではなかったですが、時間を経るごとに新作の割合が高くなり、最後のアムロとシャアの再会(?)は、ほとんどが新たに描かれたものでした。(「逆襲のシャア」を見直したくなりました)


ストーリーも、テレビ版とほとんど同じ(のようです)。そのせいで、かなりの圧縮がされており、展開は駆け足。

サンライズ(とバンダイ)としては、ここ数年の異常なファーストガンダム人気に、さらに「Z」を加えて磐石にしてやろうという腹なのでしょう。そのために、「Z」の公式ダイジェストが必要になり、こんな仕様になっているんだろうなぁ。(新たにファンになろうとして、テレビ版を全部見るのは、大変だからな………)

ですから、出てきたばかりの人物が、あっと言う間に死んでしまう。
そんなに沢山のキャラを出さなくて、いいんじゃないかなぁ~? それよりは、メインのキャラの感情を描くことに時間を使った方がよろしいのでは? と思う。
が、一方で、カイとハヤトの会話のシーン(多分、テレビでは無かったシーンじゃないか?)で、ちょっと「おぉ」と思ってしまう自分がいたりします。


大満足! というわけではありませんが、まぁこんなもんか、と。

………結局、十月の新作も見ちゃうんだろうなぁ………。

本宮ひろ志「サラリーマン金太郎 (20)」

2005-06-02 20:21:11 | 書評
ようやく20巻


「サラリーマン金太郎 (20)」。

また本社に戻った金太郎。
今度の仕事で、政治家の秘書として、選挙戦を手伝うことに。

しかし、その立候補する男というのが、二代目のボンボンで、性格も悪ければ、能力もなく、風采もいまいち。
金太郎としては、どうにもこうにも、やる気が起きない。

でも、仕事なんで、そんなことも言ってられない。
金を借りに、新宿の一等地にあばら屋に住んでいる中村バアサンを訪ねる金太郎。

中村バアサンは、金太郎を試すように「わしゃあ お前にならなんぼでも金を出す」と言い出す。
で、不本意ながら頭を下げる金太郎。

どうにかこうにか金は借りれたのですが、やはり我慢ならない金太郎。その溜飲を下げるための言葉が、今日の一言。
うがああ―――ああっ
本宮ひろ志「サラリーマン金太郎 (20)」149頁 ヤングジャンプ・コミックス
なかなか常人では声にできないような言葉です。

サラリーマンの鉄則 その二十。
「叫べ!」


サラリーマン金太郎 (20)

集英社

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糸井重里・ほぼ日刊イトイ新聞「オトナ語の謎。」

2005-06-01 09:12:05 | 書評
はやく大人になりたいー


知人が「大人は汚れている、とか言うけど、子供も、そんなに純粋でもないよな」と語っていたことがあります。
言い得て妙だと思います。

けっこう、大人の世界も、優しさに満ちていますよね。(まぁ欺瞞に満ちているとも言えますが)


そんな「オトナ」の事情を、うまく包み隠してくれる言葉を集めた「オトナ語の謎。」を読みました。

[そうなんですねー]
 「さようでございますか」だとかしこまりすぎで、「そうなんですか?」だと驚きすぎで、「そうなんですよね」だと同意しすぎ。そういう事情はなんとなく知っていたんですけどやっぱりそういうことでしたか、そういうふうなことになりますよね、私もそういうふうになると思いますよ、というしつに微妙なニュアンスを表現する、これぞまさにオトナ語。経緯、親しみ、踏み込みすぎない礼儀、など複雑に入り組む感情を見事に表現している。
監修・糸井重里 編・ほぼ日刊イトイ新聞「オトナ語の謎。」207頁 新潮文庫
小首を傾げながら言うと、ちょうどいいですよね。


[~させていただく]
 武士道とは、死ぬことと見つけたり! オトナとは、へりくだることと見つけたり!
「こちらで発送させていただきます」
「もちろん、苦情はこちらで処理させていただきます」
「喜んでこちらで尻ぬぐいさせていただきます」
 ほんとのオトナはどんなへりくだりだって恥ずかしく思ったりしないんだぜ。

[~させていただく形式をとらせていただいております]
 一方、こちらの言葉はへりくだっているようにみせかけて、相手に紳士的に同意を追っている。みんなそういうふうにしてくれているのであなたももちろんそうしてくださいね、の意味が込められているので、「こうしてもらうことはできますかね?」などと言ってはいけない。

[いかようにも]
 もう、あなたが言うことなら、どうとでも私はするのです、と、これほどまでに低姿勢になりながら、それでもさらにへりくだることは忘れないのです。
 「ご指摘いただければ、いかようにも対処いたします」
 ――へりくだること、無限。
 オトナは書き初めでそう書いたとか。

[してもらってかまわない]
 かと思うと、先方からこんな高飛車な言い回しが!
 「ぜひぜひ、弊社に承らせていただきたく……」
 「まあ、ウチとしては、してもらってかまわないけどね」
 ああ、社会における力関係とは、かくも両者の言語を隔たらせしものか。耐えるオトナの脳裏に浮かぶ言葉。
 ――へりくだること、無限。
監修・糸井重里 編・ほぼ日刊イトイ新聞「オトナ語の謎。」228~229頁 新潮文庫
へりくだって、へりくだって、相手が調子に乗ってきたら、「ブタが、どんどん太る太る、フフフフ」と内心で笑うようにしております。

不思議なもので、そうやってると、へりくだるのが面白くなってきます。

皆様も、お試し下さい。


オトナ語の謎。

新潮社

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