すんけい ぶろぐ

雑感や書評など

天童荒太「あふれた愛」

2005-06-18 08:23:48 | 書評
あまからず、からからず、うまからず


年を取ると、新規開拓が億劫になってしまいます。
それでも、話題の作家がいると、ちょっと気になったりします。
が、「一時の評判だけかもなぁ~」と考えると、手にした本を、棚に戻してしまいます。

で、天童荒太「あふれた愛」。
短編集なら、失敗しても、傷口は広くないだろうと判断して、買ってみました。これでアンパイだったら、「永遠の仔」に挑んでみようかと。


結論としては、…………「永遠の仔」は、とりあえずパスです。

つまらかった、わけではありません。が、格別面白かったとも言えません。
下手糞だった、わけではありません。が、格別感心するするような場面もありませんでした。

もし、知人に、
「最近、読んだ中で、お勧めある?」
と聞かれて、この本を挙げることはないでしょうが、
「この本どうだった?」
と直接聞かれたら、
「読んでもいいんじゃない」
と答える…………という感じす。

 『あふれた愛』は、どの物語も、心や体や生活の、ちょっとしたタイミングのずれによって、相手を傷つけたり、追いつめたり、みずからを苦しめたりする人々が登場します。
天童荒太「あふれた愛」352頁 集英社文庫
と作者が後書きに書いているように、四つの短編には、心に傷を負った人間たちが登場します。

が、どうにも、その登場人物に、面白みが欠けている。

三島由紀夫のように、人間の欠点を針小棒大に拡大してみせて、「ほーら、人間って、こんなに醜いものなんだよ」となることもなく。
西原理恵子のように、駄目人間の駄目所業を書きながらも、どこかしら温かみのある視点で、人の「優しさ」と「悲しさ」を同時に感じさせてくれることもなく。

リアリティーが欠けているわけじゃないんだけど、どうにも、登場人物の行動が、物語に従属しているような印象を拭えない。
つまりは、物語の展開が先にあって、その後に登場人物のキャラクターが決められているように感じられてしまう。だから、どうも、登場人物が面白くない。

こういう言い方は今時ナンセンスだと思いますが、作家のスタンスが「芥川賞(純文学)系」ではなく、「直木賞(大衆文学)系」ということなのかなぁ~?


まぁ、結局は、個人の嗜好の違いなんでしょうね…………。


あふれた愛

集英社

このアイテムの詳細を見る