脳卒中をやっつけろ!

脳卒中に関する専門医の本音トーク
 最新情報をやさしく解説します 

CASにおける脳保護法:歴史

2010年01月19日 | 脳梗塞
脳保護法の歴史をまず説明します。

頚動脈の動脈硬化は他の部分の動脈硬化と比較して、とりわけドロドロした流動体であることが知られています。ですからこの部分の動脈硬化は「おかゆ(粥)」に例えられ、「粥状硬化(じゅくじょうこうか)」と呼ばれます。
脳神経外科医は頚動脈内膜はくり術(CEA)を行ったときに、自分自身の目で見るためにこのことを良く知っています。ですから長らく「頚動脈には血管拡張術は無理」と言われてきました。
私が国立循環器病センターのレジデントだった頃は、「頚動脈を拡張しようとするなんて無知な愚か者だ」と言われていました。
しかし実は、そのころ私は頚動脈をバルーンで広げたことがあります。ひどいレジデントですね(- -;)
お手伝いに行っていた病院で、「80代の高齢でCEAはとても無理な患者さんが一日何回も発作を起こされる、責任は自分が取るから治療してほしい」と言われたのです。
恐れを知らない当時の私でもさすがにひるみましたが、その先生の熱意にうたれてバルーンによる拡張術を行いました。
確か3ミリぐらいの小さなバルーンで少し拡張しただけでやめてしまったのですが、これが程良かったようで、治療中もトラブルなく、術後発作を全く起こさなくなったとのことで大変喜ばれました。確か1994年のことです。

このことは当時の部長とかには内緒にしていましたが、やはり世界的にも同じことをする人たちがいてCEAが危険な患者さんで血管内治療が行われるようになってきました。
もっとも最初はバルーンで広げるだけの治療で、治療中の脳梗塞の問題よりも、不完全拡張や再狭窄が注目されていました(上図真ん中)が、その頃衝撃的とも言える報告がありました。
1996年にアメリカから100例を超えるCASを行ったという報告がなされたのです(Diethrich EB et al, J Endovasc Surg.)。
自分がこっそりバルーンで1例開いていたころにすでにCASを多くの症例に行っていた人がいたのです。
世界は広いですね。

そしてその後私たちもステントを徐々に使うようになりました。
そうするとそれまでの悩みだった不十分な拡張や血管の解離、再狭窄はほとんど解消されましたが、拡げ方が大きくなった分、動脈硬化の飛散が増えたのです(上図右)。
そこで、その防止のためにいくつかの方法が考案されたのです。

これが脳保護法 (cerebral protection) の始まりです。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« センター試験 | トップ | 遠位バルーンによる脳保護 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

脳梗塞」カテゴリの最新記事