「えっ?! まさか、こんなことが・・・どうして?」
スカウトから渡されたコーチリストを見ていたヴァントが信じられないというくらいに驚いている。
「ヘネバイラー監督の名前が、こんなところにあるとは。ゼルベルガー監督が優秀なコーチを揃えることが欧州頂点を獲る近道、スカウト3人全員を使ってコーチリストを作成させろと言うから、その通りにしたらこういうことになるとは」
「やっと、決心してくれたようだな」
ヴァントの背後から声がした。その主はゼルベルガー監督で、スキンヘッドの頭を少し掻きながら笑っている。
「私がマンシャフトの監督になってから、彼には声を掛けておいたんだよ。私の下でコーチとしてマンシャフトの欧州頂点を目指してみないか、と。だが、彼は欧州頂点どころかリーグ優勝を焦るオーナーとは一緒にやれないとか言ってな。あんな戦力で夢を見過ぎているんじゃないかとも言っていた。確かにバウアー1人入ったところでヨーロピアンリーグ優勝できるほど欧州は甘くない。私でも、今の戦力では無理だと思うよ。その上、選手たちのモチベーションが低ければ尚更だ。だから、まずは選手たちにサッカーは楽しいものだということから教えるために練習も試合形式の物を多く取り入れる必要があった。その辺はヘネバイラーも納得はしてくれたよ。頭が固い奴だからな。基礎練習はみっちりやらないといけないという彼の考えは間違ってはいないし当然だ。大きいクラブで設備が整っていれば、モチベーションを高められる所でカバーもできただろう。マンシャフトのことを悪く言うつもりは無いが、施設がバーLv1しか無いようではストレスも溜まって、やる気も無くすというものだ。だからと言って、いきなり最大級の設備を全て整えろということではないし、それは無理だからできることを少しずつでもやればいい。そのために何をすべきかということを考えたまでだ。モチベーションが上がったら、次は当たり負けやスタミナ切れしない体を作ったり、戦術理解度を深めたりすればいいと思ってな。その準備が整ったのなら、ヘネバイラーもコーチの話を考えない訳でもないと言ってきた。それでオーナーに設備の充実を訴えた訳です」
ヴァントは何も言えなかった。自分としては、ただマンシャフトを強くしたかった、それだけを考えていた。ヘネバイラー監督に即リーグ優勝を勝手に期待して、それが叶わないとなると勝手に彼に失望していた。
「一昨年まで、主将としてマンシャフトを引っ張ってくれたリュディガー・タルナート君だったかな。彼には申し訳ないが、マンシャフトのためにもユース監督をヘネバイラーに譲ってやってくれないかと頼んだら快く承諾してくれた。マンシャフトの欧州頂点が見れるのなら喜んで、と言って」
タルナートにも随分と世話になったのに、最後はこんな形になってしまって・・・。彼とは下のリーグの時から一緒に戦ってきた盟友と言ってもいいくらいだ。どれだけ感謝してもしきれない。
ヴァントはリュディガー・タルナート(38)とのユース監督契約を解除し、ヘネバイラー(44)氏と2年契約、年棒1億5600万円で契約した。世界的に有名な最高レベルのアシスタントコーチ。DF指導で右に出る者はいないと言われる程のヘネバイラーはユース監督としてマンシャフトで一から出直す。
その後、ヘネバイラーはゼルベルガーの下で仕事をするために、全世代を指導できるメラトップと交替してアシスタントコーチとなり、メラトップがユース監督となった。こうして、ゼルベルガー政権が始まり、その下にヘネバイラー、スラマーといった有能なコーチに世界でも名を知られているフィジカルコーチとGKコーチ、世界トップクラスのユース監督メラトップという体制でこれからの戦いが始まる。