皮肉なタイミング
「試合に出して頂けないのなら私は退団する」
ウェイン・ルートリッジは試合出場の不満をロビンソンに訴えていた。そんな彼に対して困惑するロビンソン。しばらくして、ドアをノックする音がした。
「入ってくれ」
オーナー室のドアが開かれると、スカウトのロバート・マッコールが入って来た。マッコールは本当によく優秀な人材を引っ張ってくれる。バングやエドガーを引っ張ってくれたのも彼である。
「ロビンソンさん、朗報です。ウェストハムの正GKジーマン選手を獲得できるかもしれないんです」
「何だって?! それは本当か?」
ジーマンはポニーテールがトレードマークのイングランド代表にも選ばれたことがあるGKだ。目立ったセーブをするわけではないが、年間を通じて安定感があるプレイから「Mr.セーブハンド」の愛称を持つ。彼さえ入ればGKに関してはイングランドどころか世界でも無双となるだろう。
「フン、良かったじゃないか」
ルートリッジが皮肉交じりに言う。
「あ・・・」
ロビンソンはルートリッジがいることを忘れて喜んでいたことに気まずそうだ。
「これで、私が出ていく理由が見つかってラッキーじゃないか。決まりだ、辞めさせてもらう」
ルートリッジはオーナー室を出て行った。それを見ていたマッコールは大方の状況を察してロビンソンに訊ねる。
「オーナー、今こういう話をするのは、まずかったですね」
「・・・いや、構わんさ。ルートリッジは残ってても不満を抱えたまま我がクラブに残っていただろう。もし、右サイドが手薄になれば、彼の力は大変重要なのだが、君がこの話を持ってきたということはジーマンを獲る時期なのかもしれん。ご苦労だが、早速ジーマンとの交渉を取り付けてくれないか」
「分かりました」
こうして、ウェイン・ルートリッジ(28)選手は自由契約となった。彼ほどの選手なら、どこかのクラブから声が掛かるだろう。在籍2年でリーグ通算は14試合出場し、3アシスト。カップ戦は1試合、欧州通算は4試合に出場しただけだった。総合通算は31試合出場で5アシスト、警告1回である。