
2022年12月5日、米国カリフォルニア州のローレンス・リバモア国立研究所の実験において、核融合を起こすために使われたエネルギーよりも、核融合によって生み出されたエネルギーの方が多い「ブレイクイーブン」を、ついに実現したというニュースは、まだ記憶に新しいところです(注1)。つい先月にも、この成果は再現されており、しかも核融合によって生み出されたエネルギーは過去最高を記録したそうです。上の写真は実験で使用された核融合燃料のトリチウムと重水素を封入した「ホールラウム」という名称の容器です。この容器の中に2.05メガジュールのレーザー光線が照射され超高温超高圧の核融合を起こしたということです。
さて、この時に生み出されたエネルギーは電力にすると、一体どれくらいだったのでしょうか?Forbes JAPANの報道によりますと、以下のような具合だったそうです。
・・・ただし、この飛躍的進歩は限定的なものだ。損益分岐点を突破したのは、核融合に使われたレーザーのみで、システム全体のエネルギー収支はプラスではなかった。さらに、実験が行われた国立点火施設(NIF)は、サッカースタジアムほどの広さがあるが、そこで生み出された電力は、冷蔵庫が1日で消費する電力より少なかったのだ・・・ということだったそうです(注2)。
なかなか大変そうですね。ただ、現在世界で使用されている核分裂型原子力発電も初期の頃は同じようなものでした。旧ソ連において1954年6月1日に世界で最初の民生用原子力発電を実現したオブニンスク原子力発電所も、最初期の時点では5千キロワットを出力するために5千キロワット近い入力が必要だったそうです。しかし時の経過とともにエネルギー収支は改善されていきました。核融合でも同じことは期待しても良さそうですが、核融合開発が直面している課題は、これ以外にも山のようにあるので大変です。上記の記事では、核融合燃料としてのトリチウムの不足が挙げられています。同記事によりますと・・・核融合に関しては、供給と物流の問題も妨げになっている。核融合の最も重要な構成要素のほぼすべてが、あまりにも不足しているのだ。核融合に不可欠な水素の同位体であるトリチウム(三重水素)の供給量は、全世界で20kgに満たない。これは、核融合炉によって、米国の平均的な発電所の1日の発電量を実現する際に必要となるトリチウムの3分の1にすぎない。核融合が家庭に電力を供給する前から、すでに供給危機が起きているわけだ。トリチウムを人工的につくり出す研究(筆者注:今日世界的に希少資源になりつつあるリチウムから生産することを考えているようです。これは筋が良いとは言えない解決策だと思います)は行われているが、まだ試験段階だ。供給不足を解決するため、月の採掘を提案する者もいる・・・ということだそうです。
少なくとも日本でトリチウムを海に捨てている場合ではないですね。核融合の実用化は、まだ20年以上先のことだと私も思いますが、その前段階として、実験炉、実証炉の段階があり、先に本ブログでご紹介したイーター計画では、2025年12月に実験稼働を開始することになっています。あと2年ほどです。イーターに、日本の福島産のトリチウムを供給できれば、わが国の国際評価も大いに向上すると思うのですが。
(注1)https://www.llnl.gov/archive/news/lawrence-livermore-national-laboratory-achieves-fusion-ignition
(注2)Forbes JAPAN 2023年8月26日 Ariel Cohen によるストーリー
核融合はエネルギー技術の「飛躍的進歩」か? 「過大評価」か?