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忘れないで月を眺める

2017年06月11日 | 読書
 4月中旬に放送され録画してあった「クローズアップ現代」を今頃になって観た。内容は坂本龍一へのインタビュー。
 この音楽界の巨人が今、何を考え、どう作っているかが垣間見られた。
 取り上げた言葉の意味の深さを想う。

Volume53
 「一つのテンポにみなが合わせるのでなく、それぞれの音/パートが固有のテンポをもつ音楽を作ること」

 今回のアルバムタイトルは「async」。
 「非同期、同期しない」という訳になるだろうか。

 シンクロしない音楽というのは、突き詰めてみればあり得ない気もするが、どの階層で作りあげていくべきか、ということだと思う。
 放送で流れた曲(の一部)は、どこか環境音楽のようにも響いていた。
 しっかり向き合って耳を澄ませれば、また違う感覚が生まれるかもしれない。



 それにしても、「同期しない」とは象徴的である。
 ネット化があっという間に進行して、知らず知らずのうちに同期させられている世の中になっていることを驚いているのは私だけではないだろう。

 注意深く暮らすことが求められる。
 それはまた自分のテンポをしっかり維持し、安易に合わせていいかどうかは慎重に見きわめたい。

 放送後半で「fullmoon」という曲の中に入る語りが印象的だ。

 「あと何回満月を眺めるか。せいぜい20回」

 ただこの言葉は、老境に入ったという諦めではなく、生きることへの気づきを促す言葉だ。

 キャスターがその心境を問うたことに対して、坂本はこう問い返すのだ。

 「満月を、20回も見ます?」

 忘れないで月を眺めることも、自分の大事なテンポになるだろう。